「剣客商売 庖丁ごよみ」池波正太郎
先日、友人の結婚式に招かれた。
披露宴会場で、もぎゅもぎゅとご馳走をいただいていると、隣の先輩が私に聞いた。
「藤原さん(仮名 私のこと)、これ、何だった?」
見ると、白いぺろんとした食べ物を指差している。
「あ、それさっき食べました。イカですよ。けっこうおいしかったですよ~」
「あら、そうなの?じゃあ、食べようかな」
と先輩が応じたとき、反対側の友人が怪訝そうに言った。
「……藤原。それ、多分アワビだよ……」
何ー!!
あのゴチバトルで度々高額食材として登場している、あのアワビですと!!
1匹(匹でいいのか?)丸々だと、2万円とかしちゃうやつじゃん!
私、イカだと思って、何も考えずに食べちゃったよ!
というか、イカの味だったよ!?
アワビってイカの味がするのか?(間違い)
アワビなんて高級食材、食べたことないから、まさかこんな味だとは知らなかった……!
ああ、悲しくなるくらいの貧乏舌で、私は恥ずかしいよ……。
私にはアワビなんてもったいないのね……。イカで十分なんだわ。
先輩、すみません!
「ああ、やっぱりアワビなの……貝は駄目だわ……」と先輩は危機一髪!といった感じで、フォークを置いた。
ああ……実は藤原も貝類嫌いなんですよ……。
アサリのみそ汁とか、インスタントですら飲めない。
それなのに、キングオブ貝類のアワビをイカだと思っていたから、おいしくいただいてしまった。
うう……私の舌はどうなっているんだ!?何が貝嫌いだよ!ばかばかばかー!
まったく節操のない舌だよ……。
味とか好みとか、本当は全く言う資格のない、超弩級の貧乏舌なんだわ……。
そういえば、子どもの頃、椎茸の串刺しを「お肉だよ」と母に嘘つかれ(私は椎茸が嫌い)、「お肉、おいしいね」ともぎゅもぎゅ頂いてしまったこともあったな……。
肉と椎茸の違いすら分からなかったか、私……。
そんな私のくせに、現代の北大路魯山人、美食家池波正太郎のグルメガイド(?)「剣客商売 包丁ごよみ」を持っている。
宝の持ち腐れだよ、まったく。
でも、剣客商売を読んでいると、中に登場する料理がとにかくおいしそうで、おお!食べたいぞ!と思ってしまうのだ。それで、ついつい、この本を買ってしまったのだ。
剣客商売に登場する数々の料理を、実際に作ってみて紹介する、という本なのだが、その写真などが載っていて、どれも本当においしそうだ。 池
波氏の美学(?)にそって、素材の味をそのまま活かすという料理ばかり。けっこう素朴だ。
うーん、大根の煮物なんか、いいよな~。これから大根の旬だし。粉山椒をふるのか~。
鯛の慘薯も贅沢な感じだ。
は~食べてみたいな~。
などど、夢を見るのだが、所詮、自分は貧乏舌だ。
アワビをイカと信じてしまう人間だ……。
この数々の料理を食べて、その良さがわかるかと言えば……。多分、無理。
みんなどれもこれも、いい素材使っていてすばらしい料理なんだろうけれど、私では力不足です。もったいない。スーパーの特売品の料理との差がおそらく分からないと思う……。
それなので、池波氏の名文を読んで、その料理を食べた気持ちになる、というのが一番いい気がする。
おいしい物を文章で書くことにかけては、池波氏は絶品だ。
もしかすると、グルメリポーターとかの才能も有ったのかもしれないなあ……。彦麻呂も真っ青だったりして……