「ガラスの仮面」美内すずえ(2回目)
寒い……。
この前まで、暖冬とは言っても寒いね~と言っていた冬が去り、窓の外は花の散った桜が青々と茂っている。春がやってきた。
季節って、ちゃんとめぐるんだな~と実感できて、ちょっと感動したりもした。
が、しかし、ちょっと勘違いしていたような気がする。外はぽかぽか陽気でも、私の職場は異様に寒いのだ。
家に帰ると「ああ、今日も寒かった」と言う私にたいして「何言ってるの?今日は暖かかったわよ」と答える家族たち。
……ああ、外は暖かかったのか~。極寒の地に閉じ込められているので、全然分からなかったよ。
何故、そんなにも職場が寒いのかというと、窓が北側にしかないため、まったく日が差さないからだ。
もっと光を!
と声高らかに叫んでも、今更どうしようもない。設計した建築家が悪いんだ。(建築家不信)
薄暗い事務所でぶるぶる震える毎日だ。(ちなみに、節約に励んでいるので、暖房を入れようとする人は誰もいない……春だし)
ところがである。
私の職場は客商売だ。
事務室はシベリアを思わせる寒気が覆っているのに、お客さんが来るオープンスペースの方は温湿度管理完璧の春の陽気なのだ。しかも、ちょっと事情があって24時間空調。
さらに、この前なんか、ぽかぽか陽気だったせいで、温度が上がりすぎて冷房が作動したっていうのよ。きーっ!
北側のじめじめ事務室で震える職員がいるっていうのに~!
それなので、用事があって、オープンスペース側に行くと、何か目の前に光が差すかのような感動を味わうことが出来る。
そう、それはアルディス姫の春の暖かさなのだ……!
名作「ガラスの仮面」には沢山の劇中劇が登場する。
その中でも「二人の王女」は美内先生オリジナル大作で、主人公マヤ(アルディス)とライバル姫川亜弓(オリゲルド)が2人の対照的な王女として、四つに組んでの戦いが見物の作品だ。
何しろ、文庫版のコミックス1冊全部劇中劇だ。
「ライジング!」(藤田和子 原作氷室冴子)の中でもコミックス1冊丸々劇中劇ってあったけれど(さらに、後に戯曲が別に出版された「レディ・アンを探して」)、それ以上の長さだ。
その中で、アルディスは春の暖かさを、オリゲルドは冬の寒さを表現している、という設定なのだ。
それを学ぶために、月影先生は二人を冷凍庫に閉じ込めるなんて荒行を……。あわわ、月影先生、ご無体です!
そして、その中で「亜弓さん、おしくらまんじゅうしましょうよ!」と誘う、マヤに本当の庶民を感じたね!
まあ、それはいいとして、私は日々「二人の王女」の世界を体感している。
事務室でぶるぶる震えているときは「寒い……なんという寒さ……凍りつくようだわ わ 私の手……も足も か……髪の毛さえ ……も……」とオリゲルドのセリフを。
用事で客側に出かけるときは、その寒さから解放されて「春の女神よ わたしはあなたの娘 冬将軍の治めるときも わたしはこの瞳に春の日差しをもとう」とうっとりとアルディスのセリフを思わずつぶやいてしまう。
これは実感に基づいた私の本物のセリフだ。説得感有り有りのはず。これなら月影先生だって太鼓判を押してくれるに違いない。
まてよ……。マヤと亜弓さんはこのセリフに実感を持たせるために、冷凍庫に閉じこめられたのよ……。
つまり、私の職場の事務室=冷凍庫、ということか!?
いや、前向きに考えて、月影先生か二人を閉じこめる場所は、冷凍庫なんて極端な場所じゃなくて、うちの事務室程度の場所でよかったんじゃ……?
違うわ!何を言っているの、私。月影先生のなさることに、間違いがあるはずないじゃない!私の職場は冷凍庫!そう、そうなのだ!
ちなみに、冬寒いなら、夏は涼しくていいんじゃないか?と思う人もいるかもしれないが、それは大きな誤りである。
窓が北側にしかないため、風がまったく抜けず、連日湿度70%越え。蒸し蒸しじめじめで異様に暑い!
こんな事務室を作った建築家……うぬう、奴らにとって、一番大事なのは見てくれだ!使い勝手なんて、二の次、三の次なのさ~!
と、ますます建築家不信に陥る私なのでした。
いつごろから、暑くなるのかなあ……。極端なんだよなあ……。