「パチンコ必勝原理」筒井康隆
角川文庫「日本以外全部沈没」に収録されています。他にもあるかも。580円。
やっちまった。
職場の人と、大げんか(?)してしまった。
しかも、ものすごく小さな理由だ。(私にとって。相手にとっては大問題なのかもしれない)
私は備品担当なので、電池を買うべく、カタログのページを繰っていた。
なにげに「電池はやっぱりメーカー品の方が品質がいいんでしょうね~」と私がつぶやいたところ 「当然です。電池は茉舌(仮名)に限ります!」 と激しい主張が向かいの席から返ってきた。
その時、ノーブランド電池と茉舌電池のどっちを買うか考えていたので「じゃあ、メーカー品を買うか~高いけど」と思ったのだが、その後、楚煮(仮名)の電池を発見。 なんと、楚煮の方が安かったのだ。
「あ、楚煮の方が安いので、楚煮にします」 と軽く告げたところ 「ダメです!高いのには理由があり、最大手が一番安心なんです!電池は茉舌が最高品質です!保ちが全然違うんですよ!」(ちなみに電池業界最大手は算用(仮名)だがな) と激しく反対された。
今、ヤツのセリフを書いていて、あれ?そんなにムカっとするようなことじゃなかったか?とちょっと思ったのだが、その時は気迫に押されて私も激高!
「茉舌と楚煮でそんなに保ちが違うと思えません!少しでも安い方を買うのが当然じゃないですか!」
「何言ってるんですが!楚煮には有名な「楚煮タイマー」が……!電池の取り替える頻度が多くなると、バネがゆるんで機械自体がダメになる可能性があります。液漏れも怖い!そんなリスクが少しでも少ない茉舌にするべきです!」
……バネがゆるむ……!
そんな些末なリスク計算までしてんのか、あんたは!
しかも、バネがゆるむって、電池の保ちだけの問題じゃないだろうよ!
そんでもって、茉舌と楚煮でそんなにバネに差し障りがあるほど、保ちが違うってのかよ!
「筒井康隆に「パチンコ必勝原理」という本があるのを知っていますか?すべての可能性を勘案してパチンコをやって、すっかりスる博士の話ですよ。机上の話と実地は合わない、ということです。そんなバネのリスクが云々言っていたら、筒井康隆に鼻で笑われますよ!なめんなよ!」(最後だけ椎名誠調)
……と言いたかったのだが、このセリフは言えなかった……。
言ったら、なんか話が変な方向に曲がってしまう気がしてね……。いや、後から考えるとここで強引に曲げといた方が良かったような気もするんだけど……。
というか、ここでそんなことを考えてしまったばかりに、次の私の返しがイマイチになってしまったのかも。
「そんなことばっかり考えていたら、何も買えなくなります!最大手が最高ですか!?そんなの単なるブランド神話じゃないですか!楚煮の方が安いんだから、楚煮を買います!」
「じゃあ、一個ずつ買って、豆電球で実験しましょう!豆電球は私が持ってきますから!」ととんでもないことを言われた。
この辺で、もう私、かなり負けてる。豆電球って!かーっ!
(うっさいんじゃ、ボケーっ)←さすがにこれは声に出さなかった。オトナ。
「しません!もう、問答無用です!岡田啓介です!私は楚煮を買います!」
と宣言し、なおもぐちぐち言う奴の目の前で注文してやったぜ!
ふはは!見たか!これは私の権限でする仕事なんだよ!とやかく言われる筋合いじゃないわい!
口のケンカじゃ負けたかもしんないけど、実力行使で勝ったぜ!ふはははは!
いや~電池の値段の差、100円くらいだったんだけどね……。
そんな、ささいなことで、この先まだしばらく机を並べなきゃならない人と険悪になったら、100円以上の損失じゃないか、私?オトナになって、茉舌を買ってやるべきだったか? でも、私のお金じゃないしねえ……。少しでも経費を浮かせようとした私の一体どこがいけないと言うんだ!この軽薄電池マニアめ!
その電池にかけるこだわりに、かなり異様なモノを感じたぜ……。なんなんだ、この人は!
私は密かに「湯上博士」と心の中で呼ぶことにした。 「湯上博士」は私が飲み込んだセリフ中の「パチンコ必勝原理」であらゆる可能性を計算してパチンコを行い、千円スったノーベル物理学賞受賞の博士の名前だ。
筒井氏に確認した訳ではないから断言できないが、おそらく湯川秀樹博士からその名前をとっているのであろう。
筒井氏命名のそんな由緒ある名前で密かに呼ばれるなんて、光栄と思えよ!
ちなみに、その後、ヤツは「消費生活センター」のHPを調べ「楚煮の方が、保ち時間単価が安いらしいです……」と不服げにつぶやいていた。(消費生活センターはそんなことも調べているらしいです)
やっぱりね!所詮最後は千円スる湯上博士じゃないか!
しかし、何だ、そのねちっこさは!
電池に対して一体どんな思い入れがあるのだ!?
そこまで思い入れがあるのなら、やっぱり茉舌を買ってあげるべきだったのか……?