「トム・ゴードンに恋した少女」スティーブン・キング
新潮文庫660円
うちの父は山登りが趣味だ。山男。
あれ、いないな~と思ったときはたいてい山に行っている。
趣味の程度なのだが、冬山とかにも行っちゃうので、それなりに危険なこともあるようだ。
「そう言えば、お父さん、いつ帰ってくるんだっけ?」と母に聞くと「うーん、昨日の予定だったみたいだけど、まだ帰ってないねえ(のん気)」などということもある。吹雪とかで帰れなかったらしい。
そんな父に言いたいことは
「迷ったり、吹雪いてまわりが見えなくなったりしたら、とにかくその場を動くな!」という事につきる。
うちの家族が帰って来ないことに気づいて救助隊を要請するまでに、かなりの時間がかかるかもしんないけどね……。のん気だから。でも、とりあえず、じっとしててくれ、父!
というのも、先日「トム・ゴードンに恋した少女」を読んで歯がゆい思いをしたからだ。
主人公の少女トリシア(9歳)が家族でハイキングに出かけた際に、ちょっと用を足すために森に入ったところ、元来た道に帰れず迷ってしまう話だ。
ストーリーはそれだけ。ものすごくシンプル。
少女が自力で道路へたどり着き、救助されてハッピーエンドだ。
何が歯がゆいかって、この少女、どんどんどんどん、森の奥に入って行っちゃうのよ~!
迷子になったらその場を動くな!というのは鉄則だろう!?アメリカでは「迷子になったら親を捜してうろうろしなさい!」と教えているのか?
しかも、携帯していたラジオのニュースで、救助隊が迷子になった森の周辺を捜索している、という情報を得ているのに……!それなのに、どんどんどんどん歩いちゃうのよ、この娘は!鉄砲玉か?
止まれ!止まりなさい!
と、速度違反車を止める警察官のように、何度も叫んだね、私は。
結局、迷った地点から確か200km?ほど離れたところらへんで、助かるのだが、200km……!!(隣の州まで歩いてます)
東京からうちの県庁所在地(前●市)までがおよそ100km!
ちなみに、東京-大阪間がおよそ600km。200kmだと浜松くらいか?もっと?
新幹線!新幹線が必要な距離だよ!鈍行じゃ嫌!昔、青春18切符で京都-●馬間を何度か往復して懲りてるもの。静岡って大きいよねえ。
この小娘、確かにすごいぜ……!
と同時に、そんなすごい森に普通にハイキングしてんのか、アメリカ人……!という事実に驚愕した。
日本じゃ富士の樹海だって相当危険な森だけど。きっと、200kmは続いてないだろうな……。今、調べたら3000ヘクタールだそうだ。3000ヘクタールってどんなもん?10km×3kmであってるかしら?
スケールが違うじゃん!さすがはアメリカン!映画を見ながら巨大バケツポップコーンを食べきる人々が生まれるはずだよ!
そんな土地柄に住んでいるのに、どうして子どもに「迷子になったら、その場を動いちゃいけません」ということを教えないんだろう……?
もしかしら、ちゃんと教えていたのかもしれないが、この少女が阿呆だったため、すっかり忘れ去っていたのか?何しろ、9歳だしね。
しかし、迷っている間中、けっこう、賢い行動してたよな。というか、キングの人物設定は「勇敢で賢い少女」なんだろうと思うのだが……。
じっと救助を待てない一番始めの段階で、かなり賢くない気がする。せめて、ヘンゼルとグレーテルみたいに、自分の道筋に目印を落としておくくらいの賢さが欲しかったわ。まあ、ヘンゼルとグレーテルは失敗したけども。
でもまあ、いいのか。仕方がないよね、小説だから。そういうところが賢かったら、始まらないもんね。
細かいことはきっと、アメリカ人は気にしないんだろう。
ノープロブレム!無問題!
私、無粋な事を言った!スミマセン!
だが、日本人である私には良い教訓になった。
老境に差し掛かり、且つ、巨大な森に行っている訳でもない父に言う。
父!迷ったら、絶対にその場を動くんじゃないぞ~!
ちなみに母は遭難者のニュースが出るたびに「ああ、あの救助隊の費用、いくらくらいかかるのかしら……。(父に向かって)救助隊、出さないからね!」とにべもなく言っております。
夫婦円満。