睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

「遭難」松本清張(「黒い画集」収録)

普段の私は運動をほとんどしない。一日の移動は、家と職場の間を車でラリーするだけ。(車社会、G県!)
特に冬になってからは、寒さに耐えるべくじっと…極力動かないように努めている…。
駄目だ~!!このままではいかん!と猛烈に反省すると、私は突如として、昼休みとかに、職場で階段を登るなどの、端から見ると妙な行動を取り始める…。
だって、このまま冬が過ぎちゃったら、夏に山に行く時大変だもん!体重も右肩上がりだしね…。
職場にはエレベーターもあるが、他の階に行くときは、できるだけ階段。ペースを崩さないように淡々と登る。(下るときはちょっと早め←見栄)
そんな私の奇行(?)を見ていたハナちゃん(同じ職場)から「同じペースが大事ですよね。ゆっくりと休みながら登山をして、逆に疲れさせる、という小説がありましたもんね。休むと命を落としますよ!」と物騒な発言が飛び出した。
…何、その小説?

ハナちゃんに教えてもらった小説は松本清張の「遭難」。かなり古い小説だ。(昭和33年の作品)すぐに購入。こういう時の行動力は自分でもほれぼれ。
それにしても、ハナちゃん、渋い本読んでるな~。
ちなみに私は松本清張初読。(この後「黒革の手帖」は読んだ)
これぞ、昭和の社会派小説って感じ。なんとなく、ねっとりと黒光りしている感じがする。てらてら…

「遭難」は同じ職場の友人3人で鹿島槍に登り、遭難によりうち一人が凍死する、という事件を描いた小説だ。
実際にこんな事件があったわけではないと思うが、登山の描写が臨場感があり、ガイドとしても楽しめるかもしれない。(どうかな…?)
でも、ちょっと怖くて登れないかも…。鹿島槍としては、この小説はイメージダウンなんじゃなかろうか…。

作中のパーティのリーダーは経験豊富な江田氏。それにそこそこ経験ありの岩瀬君と初心者の浦橋君が従う形だ。
登山の序盤からなぜか岩瀬君は疲労困憊の様子で、リーダーの江田氏は何度も休憩を取り、水が足りなくなった岩瀬君に自分の水を与えたり、細かく世話を焼く。
山小屋泊の後、昼過ぎから天気が崩れ、ガスで視界が限られたこともあり、道を間違え、まったく違う方向(黒部渓谷の方)に相当進んでしまい、そのまま夜を迎える。
リーダー江田氏が単身、救援隊を呼ぶために、元の小屋へ向かうが、岩瀬君は凍える夜の闇の中、幻影に惑わされ、命を落とす。

江田氏はなぜか疲れきっている岩瀬君気遣って、多めに休憩を取ったり荷物を持ってあげたり、夜の中、単身小屋まで救援隊を呼びに行ったり、と立派なリーダーぶりである。
(余談だが、ノムさんが登山途中に膝を痛めて、ふらふら歩いていたら、若いお兄さんが「荷物持ちましょうか?」と声を掛けてきてくれて、惚れました…。登山する人たちって素敵ですよね…)
リーダーの健闘むなしく、不幸な事故は起きてしまった。山は何が起こるかわからない。言い古されているが、無理はせずに、無理だと思ったら勇気ある撤退を!という、結論で終わりそうなところである。
しかし、物語の後半、実はこの遭難は起きるべくして起きたものであったことが判明する…。
最初にゆっくり休憩したのも、途中から天気が崩れたのも、道を間違えたのも、みんな…。

怖い。
非常に怖い。
こんな計画を立てられたら、もう、どうしようもない。
ハナちゃんが言っていたとおり、荷物を下ろして、休憩を取り過ぎたり、水を飲み過ぎたりすると、かえって疲れるんだって!
谷川岳登った時に松太郎部長は水が足りなくなって、ハナちゃんから分けてもらっていたことを思い出しました…。部長、無事でよかった…!!
道迷いも、天気がくずれるのも、事前に予想していたんだって…!
(いや、江田氏は天気予報を「見ませんでした」とか言っているが、そんなわけないよね…。昔はそんな感じなのかなぁ?今、天気予報見ないで山登る人、ほとんどいないと思うけど)

うーん、松本清張すごい。
この小説は面白い!
何の先入観もなしに読むと、後半で「ええっ…」と吃驚する、間違いなく!
……このブログでは完全にネタバレですがね……。
最初は、ぼかして書こうかと試みたんですが、無理でした…。私、ビブリオバトルとかできない、と思う。

この小説では、最初の遭難は8月31日。その後の再登山は12月6日。
いつか、同じ日に同じようなルートで登ってみたい。(冬は無理だな…)
そして、南槍あたりで「あ~ここから道を間違えたんだな~」とか思ってみたい。
それに備えて、また階段を淡々と同じペースで登って、体力を作っておこうっと。
鹿島槍怖いけど…。

 

黒い画集 (新潮文庫)

黒い画集 (新潮文庫)