睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

「遊びの時間は終わらない」都井邦彦~「謎のギャラリー 謎の部屋」北村薫編 収録~

先日、職場の避難訓練が行われた。

「火事です!火事です!」という妙にカッコいい防災システムのお兄さんの警報を背に、「なぜよりによって、この暑い日にやるのだ…」とぼやきながら、階段でぞろぞろ避難。(猛暑日でした…)

建物の外でばら~っと列に並び(一応、2列に並べとの指示は出ていたが…)、他の人たちが避難してくるのをおしゃべりしながら待つ。暑いよう…。

まさに学生時代の避難訓練でも、職場なので「そこっ!まじめにやれ!」と叱る先生もおらず、緊張感がないこと甚だしい…。

そういえば、学生時代は上履きのまま外に出ていいのが、なんか特別な感じがしてちょっと楽しかったな~。避難訓練終了後に雑巾で拭いて校舎に入るのよね。

現在、靴で仕事をしているので、そこの特別感は全く無し。それどころか、訓練実施の日時がずいぶん前からお知らせされているので、普段はパンプスを履いているステキな女性は「階段降りやすいように、今日はスニーカー用意した!」と訓練のために抜かりなく準備を整えたらしい。

…それは、本来の訓練の趣旨から外れていないだろうか…。非常時にスニーカー準備できる!?

こんな生ぬるい訓練で、本当に災害が発生した際に、落ち着いて避難できるのかな~?ちょっと不安だな…。

 

こういう時は、アレだ。

都井邦彦「遊びの時間は終わらない」で警察が実施した防犯訓練のように、筋書きのないスリリングな訓練をやってみるべきなんじゃないか?

 

この小説で行われる防犯訓練は銀行協力の元に行われた銀行強盗対応の訓練である。

事前に打ち合わせられたのは、襲撃目標(銀行)と日時、強盗犯の性格と武器だけで、他に筋書きはない。犯人役も警察官が行うのだが、犯罪者として臨機応変に犯罪を計画し、遂行する。これを警察ががっちり取り押さえる、という正に生きた訓練なのである!

実際の犯罪は、筋書き通りにいかないもんね!

どんな状況にも臨機応変に対応できる力を養っておかなくては!備えよ、常に。(by ボーイスカウト ガールスカウト)

考案した鳥飼所長、イデアマン!

この訓練においても、俊敏に事態に対応し、市民の安全を守りつつ、迅速に犯人逮捕!さすが、日本の警察、優秀!

という結果になるはずだったのだが…犯人役の警察官が生真面目すぎたため、事態は思わぬ方向に転んでいく。

 

全然、捕まらないのよ、犯人!

銀行員の通報で駆けつけた警察官は「ばーん」(口で言う)とライフルで撃たれて即座に殉職。「死体」と書かれた紙を顔の上に載せられる)

客役の警察官は、犯人に間違われて警察の狙撃隊に「ばきゅーん」(と一斉に叫ぶ)と撃たれて、これまた殉職。(犯人の服を着せられて、夕食の煮込みうどんを受け取りに来たところを誤射される)

 

犯人役の平田刑事、超生真面目なので、「こんなことで訓練が終わってしまったのでは、実際に銀行襲撃事件が発生した時、何の参考にもなりません」と、完璧に犯人になりきって、凶悪な銀行強盗事件を着々と進行させていくのだ。

これにまったく太刀打ちできない警察上層部。

しかも、この状況は日本全国にテレビ中継されている!

 

もう、べらぼうに面白い!!

この訓練、どうなっちゃうんだ!?と小説内でテレビ中継を見ている国民と同じ気持ちでページをめくる。平田刑事、頑張れ!

…いや、日本国民としては警察側を応援?した方がいいのかな…?

これをおさめられないようじゃ、安心できん!ふがいないぞ、警察!しっかりせんかい、警察!(叱咤激励)

 

それにしても、確かに、これぞ、生きた訓練だよ。実践に役立つこと間違いなし。

この生きた訓練を私の職場の避難訓練にあてはめてみる。

避難中、一人の女性職員が「あっ、私、財布を忘れてきました!あと、車の鍵も!」と階段を逆流する。(この職員は生真面目で、完全になりきっている)

それにつられて「オレも忘れた!車に乗れないと困るな!」と何人かが追随して逆流。(G県民は車が大好き)

「バカもん!非常時だ!避難が最優先だ!」と止める管理職(一応、管理職にしてみました)

しかし、管理職の声に全く従わず「だって、まだ、戻れると思うんです!」と足を止めない女性職員。当然、一刻も早く階段を下ろうとする他の男性職員と接触。その際、女性職員のパンプスが男性職員の足の甲を踏みつける。

「痛ってーな、何してんだ、バカヤロー」と興奮した男性職員が思わず女性職員を振り払う。

女性職員、転倒!そして、将棋倒しに被害拡大!そこへ、火事発生階でガシャーンという音が響き(ガラスが割れた設定。録音対応)あたりは大パニック!

 

…私、避難できない…。

こんな、訓練、怖くて嫌だよう…。

本来は、こうならないように訓練してるのに、訓練でパニックを発生させてどうする!?ダメダメ職場じゃないか。

以後、ちゃんと、まじめに緊張感をもって訓練に挑みます。

実際の災害発生時には落ち着いて避難できるようにしなくては…。反省。

 

ところで、この作者の都井邦彦氏の他の作品ってあるのかしら?

この「遊びの時間は終わらない」は小説新潮新人賞受賞作品で、ドラマ化、映画化されているようですが、他の作品が全然見当たらない…。

北村薫編「謎のギャラリー」に収録されている作品だけど、作者についても謎だなあ…。

 

謎のギャラリー―謎の部屋 (新潮文庫)

謎のギャラリー―謎の部屋 (新潮文庫)

 

 他に「名作傳 本館」(北村氏と編集者の対談形式)、「こわい部屋」、「愛の部屋」があります。