「火の鳥ーヤマト編ー」手塚治虫
先日、我がG県では「HANI-1グランプリ」という大会(?)が開催された。
一体何が頂点を目指して戦ったのか!?
そう。大会タイトルを読めばすぐにわかる。
ハニワである!
G県で出土した埴輪の中のナンバーワンを決める戦いだ。そして、1位を獲得すると、その埴輪がオリジナルソングのセンターで踊るというのだ!
…最初聞いたときは、何て盛り上がらなさそうな企画なんだ、と思った。タイトルも●●-1グランプリで二番煎じどころか三番煎じ以上のマンネリ感。
しかも、G県には、日本で唯一の国宝埴輪、スーパーアイドル「挂甲武人埴輪」くんがいるため、彼がナンバーワンになることが見え見えだったのだ。
武人埴輪くん。G県出土だが、東京国立博物館のもの。都会に連れて行かれちゃった…。同館HPより。
しかし、ふたを開けてみれば、この大会、結構盛り上がった。投票総数59,261票。(ちなみに私は投票していない)
投票者の愛にあふれたコメントが秀逸だったし、何より、G県だけでもこんなにバラエティ豊かな埴輪があるんだ!という、純粋な驚きが大きかった。
エントリー埴輪数は100体。
何故か顔がついてる円筒埴輪や、わんわん鳴きそうな犬の埴輪やら、ほぼほぼ復元で足してるつぶらな瞳の水鳥の埴輪とか、騎乗している人間がやたら小さすぎる馬の埴輪などなど。←最後、イチオシ。馬に力そそいだら、人作るのどうでもよくなったとしか思えない出来映え!
知らなかった!埴輪って、いろいろあって面白い!
1500年近く前の人が作ったものが、今でもしっかり残っているというのは、不思議な気持ちになるものだ。是非、実物をこの目で見なくては!
↑ HANI-1グランプリのHPです。いろんな子がいるから、寄っていって~。
わんこ埴輪。しっぽがラブリー。こちらもG県出土だけど、東京国立博物館のもの。みんな都会に…。同館HPより。
そもそも埴輪は古墳の周りに並べられたものであるが、なぜそんなものを並べたのかという起源については諸説あるらしい。
でも、私は「殉死の人の代わりに、土で人形を作って並べたもの」だと思っている。
なぜならば、手塚治虫先生の「火の鳥ーヤマト編ー」で、そのように書かれていたからだ。
(ウィキペディアによると「日本書紀」垂仁紀に古墳の周りに殉死者を埋めるかわりに人馬の人形を立てることを提案した、という記載があるらしい。多分、手塚先生はそれを採用したのだろう)
「火の鳥ーヤマト編ー」の主人公は、ヤマト国王子オグナ。彼は殉死の風習を廃止するべきだと考えている。
そのため、父王の墓(古墳)建設をめちゃめちゃにし(かわりにアミューズメントパークを造営。サル山もあります)、憤死した父王の墓(突貫工事で作ったので、石を置いただけ:石舞台古墳)に、殉死者として生き埋めにされることになる。
しかし、オグナは他の殉死者と共に、火の鳥の血をなめたため、生き埋めにされてもすぐには死なない。1年以上もずっと、土の中から「殉死反対!」を叫び続けるのだ。
それから何年かたち、埴輪を墓の周りに埋めるようになってから、殉死の風習は廃止された。と物語も終わる。
(火の鳥の生き血を飲むと、永遠の命を得ることができる)
私が初めて読んだ手塚作品。学校の図書館で読んだ。
当時、学校の図書館にあるマンガは、伝記とかの学習マンガの他は、「はだしのゲン」と手塚作品(「火の鳥」と「ブラックジャック」)だけだった。
そう。手塚マンガは別格だったのだ。
お堅い先生達にも、手塚マンガなら図書館においても良し!と、納得させる圧倒的な王者の風格が手塚作品にはあった。
(ちなみに禁帯出であったように記憶している。なぜだろう…??)
私たちは争うように手塚作品を読みあさり、書棚で発見するとすかさず確保。「よっしゃ~!火の鳥があった~!」と小躍りして喜んだものだった。
しかし、ページを開くと「読んだな、これ…」ということも多かった。当時は、なにしろ人気があって、全巻そろって書棚に並んでいることがなかったので、全部で何冊あるのかもよくわからなかったのだ。そのため、まだ未読の巻があるのではないか?との希望が捨てきれず、書棚で見つけると、とりあえず確保。確保したら、再読でももう一回読む、を繰り返していた。(貧乏性)
特に私は過去バージョンの「火の鳥」が好きで、ストーリーに練り込まれた歴史のエピソードを読み込んで胸躍らせていた。史実を元にしたエピソードは、ふむふむ、そういうことが日本の過去にはあったのか、と私の歴史基礎知識として今でもしっかり植え付けられている。
卑弥呼は弟に実権を握られていたのかーとか、源義経は実は常識が通じないタイプだなとか、清盛はエロじじいだな、とか。
僧侶の究極の成仏である即身仏を知ってびびりまくったりもした。すごくない?地中に一人で閉じこもって餓死するんだよ!?
(ちなみに、手塚作品「アドルフに告ぐ!」を読んで、ヒトラーはユダヤ人だったと信じていた時期も結構長くあった…)
それなので、埴輪は殉死者のかわりに置いたもの、というのも私の歴史基礎知識だ。今でも。
作中、生き埋めにされる前に、オグナは、殉死者の代用として埴輪を作ることを提案する。そのときに、こんなことも言っている。
「人間だけじゃない おやじが生前使いなれていた道具や家や武器なんか みんな似せてつくるんだ」
これで、埴輪がバラエティに富んでいる理由もちゃんと説明できる。
わんこ埴輪が置かれた古墳の主は、犬好きだったんだろうね。綱吉?(違う)
騎乗している人間がやたら小さすぎる馬の埴輪は…古墳の主がすごく背が低かったのかしら…??亡くなった人をディスってないか、それ!?
いずれにせよ、昔あった事についての正解は現在ではわからない。ただ推測ができるだけ。
現代に残された石舞台古墳や埴輪から、推測という想像力で、この壮大で完成度の高い作品を作り上げた手塚先生はやっぱり、天才、というしかない人物だなあ。
ちなみに、HANI-1グランプリでは、私の予想を鮮やかに裏切って、「笑う埴輪」がセンターに輝いた。
ええっ!!スーパーアイドル武人くんじゃないの!?(武人くんは7位!惨敗、惨敗だよね!!)
国宝なんて肩書き、このグランプリには関係なかった。大事なのは(多分)見た目だ!
現代の視点で見て「これ、かわいー」とか「変なの」という素直な気持ちで楽しめたところが、きっとこのグランプリの盛況につながったのだろう。
とりあえず、私は何とかして、イチオシの人がちっちゃい馬の埴輪を見に行くぞ!
私のイチオシ。馬もかわいいなー。グランプリHPより。
現在、刊行中の角川文庫バージョン。異形編もイイです。