睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

大文字山~雨女リターンズ~

そうだ、京都行こう。

冬になったら、京都の大文字山に登ろうと、私は密かに計画していた。

冬に行ける雪の無い低山情報をコツコツ集めていたときに、ホシガラス山岳会「あたらしい登山案内」と四角友里「一歩ずつの山歩き入門」を読み、これや!と心のノートに書きとめておいたのだ。

何しろ、私にとって、京都は第2のふるさと!

学生時代の4年間を過ごした街だ。

当時は山に全く興味が無かったので、大文字山に登れるなんて知らなかった。知っていたとしても、決して登ろうとは思わなかっただろう。そのころの私は登山は疲れるだけのものだと思っていたのだから。

 

そういえば、学生時代に聞いた都市伝説がある。

ある年の五山送り火の日。とある大学の血気にはやった学生達が、「やるで!」と集まった。そして、学生達はそれぞれにたいまつを掲げて「わーっ」と一気に大文字山を駆け登り、目的の地で、一斉に頭上にたいまつを掲げた。その日、送り火「大」ではなく「犬」になったという。…都市伝説だ。

今回、一応、その伝説が可能かどうかも検証したいと思う…。

 

今回の同行者は学生時代の友人、キキちゃん(関西在住)

以前、何度かブログにも書いたが、キキちゃんと私は二人揃うと、強烈雨女パワーを炸裂させる。何度か二人で山に行っているが、雨が降らなかったのは、日光男体山に行った時だけだ。他は全部雨!呪われているのかな…。

しかし、時はカラカラ乾燥シーズンの1月だ。しかも、今年の1月は記録的に雨が少ないとのこと。数日前の天気予報では晴れマーク。さすがにいけるやろ~と思った。

前日の天気予報。曇り時々雨。

…うむ。なんか、雨マークが登場したな…。まあ、曇りだろう。きっと大丈夫だ

「曇りやったら、まあいいか。なんとか天気は保つやろ~」と、キキちゃんと前日夜、京都木屋町で酒杯を重ね、就寝前に天気予報の確認を怠った私が悪かったのかもしれない。

当日朝、テレビの情報番組から流れる音声に我が耳を疑った。

京都市内の天気予報 雨のち曇り 午前中は雨が降りますが、午後には上がるでしょう」

えっ?

テレビからは「ハブアグッタイ~」と陽気な歌が流れてくるが、「グッタイ」を過ごせるのか!雨で!?(八つ当たり)

ホテルの重い遮光カーテンを開けると雨に濡れそぼる道路が見える…。本当に雨だ…。

こういうとき、欧米の皆さんは「Oh Lord!」とか言うのかもしれないが、生粋の日本人の私は「雨女の呪い、顕在か…」と自らを責めることしかできなかった…。

 

当日朝、8:00 銀閣寺道のバス停でキキちゃんと待ち合わせ。

雨でもとりあえず決行するのだ。やると決めたらやる!

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天気が悪いけど…「大」の字は火がついて無くても、結構見える。

京都の五山送り火の「大」の字は二つあるが、今日、目指すは東の「大」の字の方だ。通常、「大文字」といえば、こちらを指す。

もう一つの「大」の方は金閣寺方面にあり「左大文字」という。(今気づいたが、右京の「大」が左大文字なんだ…。不思議。これだけは、御所中心ではないらしい)

大文字山は「京都一周トレイル」にも組み込まれている。

「京都一周トレイル」は京都を囲む山々を一周するコースで、山だけではなく、時には街も通るトレイルルートで、全長83.3kmの京都市を一周するコースと、全長48.7kmの京北コースがある。

いずれは制覇してみたいものだ。ぐんま県境稜線トレイルよりははるかに実現の可能性が高そう。

 

本日のルートは銀閣寺の脇から大文字山に登り、南禅寺へ下るルート。おそらく、最もメジャーなルートだと思われる。

まだ観光客のいない土産物屋通りを歩き、登山口を探して少しうろうろ。なにしろ登山客よりはるかに観光客の多い場所なので、「登山口こちら」といった親切な看板はない。

京都市内でないと入手困難な「京都一周トレイル 東山コース」の地図を頼りに、なんとか登山口を発見。

カッパを着込んだりして、登山準備を整え、いざ出発!8:40

行こうではないか、京都の街を一望できるという大文字山へ!雨降ってるけど、もう、腹をくくるしかない。

キキちゃんはカッパを着込みながら「カッパに袖を通すと安心する。ユニフォームみたいなもんや」と豪語し、一周回って吹っ切れた模様。

 

道は非常に歩きやすい。

さすが、大文字山。多分、登山者のためではなく、送り火で登る方々のためにきちんと整備されている。

しばらく歩くと、千人塚に到着。9:00

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千人塚。ちょっとした広場です。

謂われはよくわからないけれど、塚に軽く手を合わせて、先へ進む。

行き交う人は皆無。冬枯れの枝にとまったカラスに「こんにちは」と言うことしかできない…。カラスは「ぐるぐるぐる」とよくわからない声で返事(?)してくれたけど、結構寂しい…。

雨だからね…。晴れてればもう少し人がいるはずなんだと思うけれど…。

 

9:10 五山送り火の火床に到着。登りはじめから約30分。すぐに到着した感じ。

「大」の字の「一」と「人」の交わる部分に到着だ。「大」の字の要と言ってよい場所だ。

京都市街一望!天気が良ければ!

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個人的には、思っていたより、いろいろ見えたと思う…

多分、木がないせいで、雨足がとても強く感じる…。

でも、雨天にしては、まあまあ下界が見下ろせたと思う。少し天狗の気持ちになれて嬉しい。(この直前に森見登美彦有頂天家族 2代目の帰朝」を読んでいたのだ) 

 「あそこが吉田神社かな~?」

下鴨神社はどこだろう?糺の森には狸がいるんだよな~(直前に読んでいた本の影響)」

などと、しばし楽しむ。

かの有名な鴨川デルタは、くっきりはっきりデルタ地帯を形成していて「ほお、まさしくデルタ!」と妙に感心した。「鴨川ホルモー」にも出てきたな~。

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火床の「大」の字の左手。アールが美しい…(渡辺篤●風で)

火床を実際に見てみての実感としては、例の都市伝説「犬」事件は、できなくはなさそうだ。そこそこの人数があつまれば、犬の「点」くらいは追加できそうである。

ちょっとだけ現実感があるけど、果てしなく無意味に馬鹿げていて、よくできた都市伝説だな~。ちなみに「太」よりも「犬」の方が、やっぱイイと思う。

ただし、ここにも書いておくが、8月16日は登山禁止である。 

そんなアホ学生達が登ってきたら、あっという間にお縄になるであろう。

 

 火床を楽しんだ後、山頂に向けてさらに山を登る。

ここからは登山者用の道なので、急に整備度ががくんと落ちる。

倒木が多く、夏の台風の影響の大きさを改めて感じる。コース全体的に被害が生じたそうだ。

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倒木。もっと激しい箇所がたくさんあった。

倒木をかわしながら、眺望のない道を歩くこと、約30分。

大文字山山頂到着!9:50 465.4m

眺望は火床の方がいいと思うが、冬枯れているので、そこそこ。

倒木を利用したベンチがあったりして、ちょっとした休憩スポットになっている。

当初の予定では、ここでコーヒーを飲んで「ダバダ~」を歌ったりしたかったのだが、雨なので「ま、いいか」と、ペットボトルの水で疲れを癒やす。雨はやはり、テンションを下げるのだ。

 

ここからは「京都一周トレイルルート」となる。

実は、銀閣寺方面から大文字山に登るルートは「京都一周トレイル」のルートでは無い。銀閣寺から哲学の道を通って、鹿ヶ谷から登るルートが「京都一周トレイル」のルートだ。

でも、一周トレイルのルートだと、火床を通らないのだ!

火床ははずせない!ということで、今回のルートを選択した。次は鹿ヶ谷コースで登ろうかな。ふふふ。鹿ヶ谷事件、好き。(すみません。大河ドラマ平清盛」がとにかく好きなもので…)

 

山頂をしばし楽しんだ後、南禅寺に向けて出発。

ずんずん進む。とにかく倒木が激しい。

しばらく歩き続けて、キキちゃんから気になる発言がある。

「京都一周トレイルルートは、看板があるはずなのに、一つも出てこないのはどうしてかな?

「……どうしてかな?」

やっちまったか!という不安に駆られて、ヤマレコのGPSログを確認。

…やっちまった。道間違えた。

今、私達がいる場所は如意ヶ嶽に向かう道らしい。

如意ヶ嶽薬師坊様(直前に読んでいた小説の登場人物。天狗)には会いたい気持ちはあるけど、今日は如意ヶ嶽に行くつもりはない!

「あかん。戻ろう」

来た道を戻り、ふたたび大文字山の山頂に立つ。10:20

30分ロスした感じか…。

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これが「京都一周トレイル」の看板。大文字山四つ辻

地図をよく確認したところ、山頂からすこし先の「大文字山四つ辻」で道が分岐するのだが、そこで間違えたらしい。

しまった。山頂まで戻っちゃったよ…。戻りすぎ。

再び、大文字山四つ辻まで歩き、今度は道を慎重に選択する。

私もキキちゃんも地図が読めない女なので、二人で地図をぐるぐるまわして「こっちで間違いないと思う」という道を選択した。

だってさ。北がどっちで、自分が今どこにいるのかとかよくわかんないじゃないの…。

しばらく歩くと、ヤマレコのGPSログが正しい道をたどったので、安心する。私の場合、ヤマレコのGPSログは、道を間違えた時の確認、という役割が一番大きいかもしれない。便利な世の中、ありがとう!

 

「京都一周トレイル」の看板も現れるようになり、俄然元気が出る私たち。

しかし、次にまた難所が現れる。

この「京都一周トレイル」ルートをそのままたどると、蹴上、インクラインねじりマンボ方面(あやしい名前だが、簡単に言うとトンネルだ)に行くのだが、今回は南禅寺に下りたいのだ。

そのためには、途中の「七福思案処」で違うルートに入らなければならない。

「今度こそ間違えないようにしよう」と二人で誓い合って、慎重に道を下る。

だが、道は意外とわかりやすかった。

「京都一周トレイル」の看板には、簡単な地図も付いているので、「38番で分岐」と覚えておけば、38番の看板の地図で簡単に道を選択できるのだ。

さっきの「大文字山四つ辻」でも、この確認をすればよかったのに…。いや、「大文字四つ辻」で失敗したからこそ、次に活かされたのだ。失敗は成功の母。

 

南禅寺方面への道を選択後、キキちゃんから「この道で大丈夫や!南禅寺水路閣へ続く道の雰囲気やもん」との発言が飛び出す。

「キキちゃん。大丈夫の根拠は「雰囲気」だけなんか~!!

「そう、雰囲気だけ!」

「だけかい!」

なんて希薄な根拠!二人でげらげら大爆笑しながら道を下る。

果たして、キキちゃんの言うとおり、水路閣に到着した。11:20

頼りになるな、キキちゃんの直感!

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南禅寺山門。石川五右衛門の「絶景じゃ」の場所。登れます。

二人で健闘をたたえ合い、山門の下の片隅をお借りしてでカッパを脱いだりして身繕いをする。

お寺の軒先を借りるって、日本むかしばなしみたいだなあ。「今晩一夜、軒先をお貸しくださいませ」って感じだ。

雨にめげずお寺を見学する観光客の皆さんに混じって、登山スタイルの私たちはちょっと浮いていた…。

が、そんなことは一切気にしない。キキちゃんは、まるで自分の家であるかのように、山門下の片隅で、座り込んで荷物を広げてた。キキちゃん、ここ公共の場だからね~!

 

さて、どうして南禅寺に下りたのか。

それは、湯豆腐を食べるためである。冬の京都といったら湯豆腐。

雨のおかげか、人気店も空いていて、ゆっくり豆腐を味わえた。怪我の功名(?)

あったまる~。おいしい~。

登山後の湯豆腐、最高!

 

まさかの雨という信じられない出来事が私たちを襲ったが、結構楽しい登山だった。

市街地の眺望もそこそこだったし。次は清水山まで行こうかな~。

 

しかし、キキちゃんと私の雨女の呪いはどうにかせねばならんな。…どうすればいいんだろう。

天気ばかりはどうにもならない。日頃の行いを良くするくらいしか思いつかないんだけど!

それとも、雨女の呪いを受け入れて、ゴアテックスいいカッパ買おうかな…。そっちの方向に舵を切った方が建設的かも…。

ちなみに、この日は一日中雨だった…。天気予報は午後止むって言ったのに…。

相当強力な雨女パワーを持ってるみたいだ…。どうしよう。

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飛行機から見た富士山。一人で大興奮!前日は晴れてました…

<コースタイム>

8:00 銀閣寺道…8:40 登山口…9:00 千人塚…9:10 火床…9:50 山頂…(道間違い)10:20 再び山頂…11:20 南禅寺