稲荷山(伏見稲荷大社)~妖しのインバウンド~
引き続き、京都の話である。
大文字山を登った翌日、帰路につく前に時間があったので、伏見稲荷大社に行ってみることにした。
実は、伏見稲荷大社は「京都一周トレイル」の出発地点。伏見稲荷大社の一ノ峰(山頂)への参拝コースはそのままトレイルコースにもなっているのだ。
少しでもトレイルルートを埋めておき、制覇を目指す。貪欲な私。
伏見稲荷大社には、15年くらい前に行ったことがあるが、その時は奥社までしか行かなかった。「どこまで続くのか、この鳥居は…」と早々に心が折れてしまったのだ。
あの頃の私は坂道を歩くことがひどく苦痛だった。
でも、今の私は違う。必ず、一ノ峰(頂上)まで登ってみせようではないか。
登山だけど登山じゃない。スニーカーにジーンズ、サコッシュを肩掛けし、片手にミネラルウォーター(サコッシュに入らなかった)の軽装で挑む。
ちなみに、天気は雲多めの晴れ。
単独行動だから…。私一人なら、それほど雨女ではない。
8:30 朝だが、伏見稲荷大社はかなり賑わっていた。JR伏見駅は小さな駅だが、その駅前は黒山の人だかり。
たぶん、8割くらいが外国からのお客さま。
インバウンド!
私の頭に、最近、流行りの言葉が浮かぶ。
…すごいな…。話には聞いていたが、これほどとは…!!
15年くらい前に来たときは、訪れる人もまばらだったと記憶しているが…。15年も経てば変わるものなのだろう。生まれた子どもが高校生になっちゃうのか、15年…。
変化にかなり圧倒されながら、インバウンドの皆さんの間をすりぬけ、朱色も鮮やかな本殿にお参りする。(私が来なかった15年くらいの間に修繕したのであろう)
8:40 本殿奥の千本鳥居入口に到着。
ここは京都観光雑誌などに必ず掲載される場所だ。
隙間がないほど立ち並ぶ鳥居が二筋に分かれている。誰が撮ってもインスタ映え~な写真が撮れる。
だがしかし、ここで写真を撮りたいのはみな同じ。ものすごい人だかりだ。
早々に写真はあきらめて先へ進む。
びっしりと並ぶ鳥居の下は、朱に閉じ込められた世界で、朱く色づいた空気が立ち込めている。
この鳥居の道をたどっていくと、現世では無い怪しい世界にたどりついてしまう気がする。鳥居は世界を分ける垣根だから。
「Amazing!」
心の中でだけ、英語圏の人間になりきって叫んでみる。
周りのインバウンドの皆さんは、しきりにシャッターを切っている。一眼レフ率がかなり高い。
鳥居を背景に、仲良く家族写真を撮られている皆さんも多い。
さすが、外国人観光客満足度NO.1!
どうですか?日本旅行、楽しいですか?楽しんでいただければ幸いです!
せっかく日本を選んで旅行に来てもらったんだから、是非とも楽しんでいただきたい。
なんだか旅行会社の社員のような気持になってしまったが、これが日本の「おもてなし」精神の基礎なのかもしれない。
8:45 奥社到着。
わずか15分で到着した。以前来た時はここで引き返したと記憶しているが、たった15分でつける場所だったのか…。もっと遠い気がしていた。
誰も興味を示していなかったので、「おもかる石」を一人で持ち上げてみた。
すっげー重かった!
なんでも、「おもかる石」とは、持ち上げてみて「軽い」と感じると、願い事が叶う日が近い 「重い」と感じると、願い事が叶う日は遠いらしい…。
だめだこりゃ(byいかりや)
奥社でしばし楽しんで、山頂への道を進む。進んでも進んでも鳥居が続く。
以前の私の経験から、観光客の皆さんは、時間の都合もあるので、奥社で引き返す人が多いに違いない。だから、ここから先は人が凄く少ないはずだ。
でも、意外と人は減らない。すごいな、インバウンドパワー。
9:10 三ツ辻
9:15 四ツ辻
峠の茶屋といった感じの土産物店も登場。ちょっとした休憩スポットになっている。景色も良く、京都南部が見渡せた。
ここから頂上の一ノ峰に至るルートが二つに分かれる。どちらのルートを選択しても頂上にはたどり着くのだが、距離が近そうだったので、眼力社、御膳所奉拝所ルートを選択し、案内看板を頼りに石段を登る。
途端に、周りには小さな祠が林立。細い道を進んでも曲がっても小さな祠と鳥居。
古びた石の灰色に、奉納された小鳥居の朱が鮮やかに目に突き刺さる。
何かじっと見られているような気がして後ろを振り返ると、祠の前に置かれた狛狐と目が合う。厳めしく、こっちをにらんでいる。
時が止っているかのような不思議な静けさの中、「とおりゃんせ」がどこかから聞こえてきそうだ。
なぜか、さっきまでいたインバウンドの皆さんはいなくなり、私一人がこの空間をさまよっている。
ここはどこだ?
道間違った!
どうやら荒神峰に迷い込んでしまったらしい。
荒神峰、怪しい雰囲気満点過ぎる。
細い小路を曲がっても曲がっても祠と狐と鳥居だらけで、「どうしよう、異界に迷い込んだ…」と かなり不安になった。
頭の中を「彼岸」とか「人身御供」とか「神隠し」なんて妖しい単語がどんどんよぎっていって、妄想が大爆発。…いくつになっても中二病…。
異世界から脱出をはかり、今度こそ頂上に至る正しい道を行く。やっぱり、鳥居はずっと続いている。
このあたりになると、さすがに人影はかなり少なくなってきた。
9:30 眼力社
9:35 御膳所奉拝所
眼力社ではかなり真剣にお参りした。最近、視力の衰えが激しくてねえ…。
無料のおみくじもあって、楽しい。中吉だった。
ここからが山頂に至る道のラストスパート。
階段を黙々と登っていく。結構辛い。
私の前を行くお兄さん二人連れは「頭から湯気が出そうだ~」と言いながら登っていた。普段、登山をしない人たちなのであろう。(そりゃそうか)
9:55 一ノ峰(山頂) 233m
稲荷山の山頂を示すプレートもあるが、眺望はなし。立派な社がある。
末広大神と書かれた幟がはためいていたが、どうやら、アメノウズメノミコト(天岩戸の前で踊った神様)が祀られているらしい。芸能の神様だ。ここで芸事の神様か…。その関連性は、よくわからない。が、しっかり参拝する。
下の本殿から約1時間半。ここまで登るのは「今日は登る!」という気合いと「半日余裕あります」という時間が必要だと思う。
だが、山頂にはかなりの人がいた。もちろん、インバウンドの皆さんも。
余裕があって、通な旅行だ。あこがれる。きっと、何度目かの京都なのだろう。
帰路は二ノ峰、三ノ峰コースをとる。四ツ辻で行きのコースと合流。
しまった…。社の順番からいうと、このコースで登った方がよかったのかもしれない。
さくさく下る。やはり、鳥居だらけ。比較的新しい鳥居が多い。
10:10 四ツ辻
ここから急に人が増える。眺望もいいので、このあたりまでは登ってくる観光客が多いのだろう。
登山グループもちらほら見える。「京都一周トレイル」巡りだろうか。
三ツ辻で分岐。
本殿へストレートに下るルートをとる。
10:40 本殿到着 約2時間。荒神峰に迷い込まなければ、もうちょっと早く山頂往復できたはず。
下界に帰ってきて、びっくりだ。朝より格段に観光客が増えてる…!
御朱印所も本殿とは離れた場所のビル(?)の一階に大々的に設けられていて、大人数対応型だ。
しかし、いかんせんインバウンドの皆さんには、まだ御朱印文化までは浸透していないらしく、ものすごく空いていた。まだまだ伸びしろ、あるね!
かつて「頂上までは無理だよう!」と思ったが、意外と簡単に登れて楽しかった。
やはり 、上まで行く!との強い意志を持って臨んだからであろう。
それにしても、どこまでもどこまでも鳥居だった…。朱色の洪水。
この山には、間違いなく神様が住んでいる。
今度登るときは、禁断の夜に行ってみたい。灯籠に照らされた鳥居の朱色が、妖しの世界へ誘ってくれるという。少し、怖いけれど。
最後におまけ。
稲荷山攻略中、私はずっと片手にサ●トリー天然水をぶら下げて歩いていた。朝、京都駅のコンビニで購入した。
何気なく、ラベルを見て、そこに書かれた文字に仰天した。
「奥大山の天然水」
南アルプスじゃ無い!!
ラベルのデザインは全く同じなのに、「奥大山」!!
どこかの会社が大胆にパクったのかと思ったが、何度見ても、サントリーの商品である。
帰宅して調べた。
なんと、「南アルプス」の他「奥大山」「阿蘇」があり、それぞれ販売地域が異なるらしい。
私が住む関東では「南アルプス」、近畿地方では「奥大山」が販売されているという。
知らなかった!
この話を大興奮して山の相棒ノムさんに話し、ラベルの写真を見せた。すると、ノムさんから、さらっとご指摘がある。
「ラベルの山の形が違うと思う」
…!!確かに!
よく見れば、山の形が違うよ!
「違う山のラベルでは商品名に偽りありだよ」
とノムさんは、さらにたたみかける。
言われてみれば、おっしゃる通り。でも、私は気づかなかった。
さすが、サ●トリー!細かいところまでの心配りに、私は感動した。
以後、山のお供の水はサ●トリーにする!
ちなみに、味もかなり違うらしいが、私にはさっぱり…。
<コースタイム>
8:30 伏見稲荷大社本殿…8:40 千本鳥居…8:45 奥社…9:15 四ツ辻…9:20 荒神峰(迷い)…9:30 眼力社…9:35 御膳所奉拝所…9:55 一ノ峰(山頂)…10:10 四ツ辻…10:40 伏見稲荷大社本殿