「冒険図鑑」さとうち藍 松岡達英
少し前に地元の図書館に行った際、棚に懐かしい本を見つけた。
「冒険図鑑」である。
私が小学生だった●十年前、読んでいた本だ。確か、山好きの父親が買ってくれた。
児童書はベストセラーになると、長い期間ずっと売れ続けるらしい。小学生だった、私がおばさんになっても。(by森高)
この本も、多分そうだ。
子どもの心をキャッチする何かは、時代が変わってもあまり変わらないものなのだろう。
いつの時代も「冒険」というタイトルで、わくわくしない訳がないじゃないか。
帰宅して、早速本棚の奥をあさると、若干黄ばんだ状態の「冒険図鑑」を発見した。(ついでに「自然図鑑」と「遊び図鑑」も発見)
懐かしい。物持ちの良い自分に感謝だ。
いろいろなイラストが詰め込まれた表紙のデザインが、博物館の標本みたいで、アカデミックな雰囲気を漂わせていて、「この本、やっぱり好き!」と興奮し、小学生当時の様に、ぱらぱらめくって、つまみ読みをしてみる。
松岡達英さんの絵、細密で線が美しく、変なデフォルメがなくてステキだ。
「冒険図鑑」は子ども向けのアウトドアのあれこれ、が書かれた本だ。
ちなみに対象年齢は「少年少女~大人まで」だ。ほぼ全世代。「少年少女」という言葉のチョイスに福音館書店さんのセンスを感じる。ステキ。
内容は子ども(小学生から高校生)のグループがキャンプをするにあたって、必要な知識を紹介、といった体をとって、準備、テントの建て方、料理の仕方、危険への対応など、様々な知識がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
見開き1ページが、1項目の読み切りスタイル。読みやすい。
小学生当時は、本を適当に開き、その箇所だけ読む、といったスタイルでぱらぱら読んでいた。
今なら、トイレで読んだりするかもしれない。あとは、人間ドックのお供本とか。
読み返してみて思ったが、かなり高度な内容もある、と思う。
私が全くできない「地図上で自分がどこにいるか」を判別する方法や、天気図の読み方から雪山で遭難した時のための雪洞の堀り方など。
かなりガチだ。
昨今のキャンプブームで使用されるハイスペックな道具は登場しない。
かまどは石などを利用して作るし、薪は自分で拾い集め、テーブルや椅子も自分で作成する。テントは昔ながらの家形テントだ。(他の形も紹介されている)
ついでに、マッチやライターを使用しないで、きりもみ式や弓切り式で火をつける方法も紹介されている。(ちなみに私は、弓切り式で火をつけて、前髪を燃やしたことがある…)
アウトドアというよりサバイバルという言葉が似合うかもしれない。
子ども向けの本だが、「子どもだからって容赦しないよ」という、真剣さが伝わってくる。だから、読む方も「はい、先生!」とまじめにじっくりと読まなければならない気持ちになる。
当時、ガールスカウトだった私は、家形テントを建てたりする、この本に近いキャンプに行っていたが、かまどはキャンプ場作り付けのものを利用したりしていたので、ここまでガチのキャンプには行ったことがなかった。
本格的なキャンプはすごいな~、とかなり真剣に読んでいたものだった。
なかでも、小学生だった私が真剣に読んでいたのは「野外でのトイレ」だ。
冒険図鑑のイントロダクション部分のマンガでは、キャンプ地に着いた直後に、リーダーのともあき(高校2年生)が「まずトイレを作るか」と言い、地面に穴を掘る。
わーお、本格的なキャンプはトイレも自分で作るのか!
小学生当時の私には衝撃だったのだ。
もちろん、ガールスカウトでも、トイレを自分で作るキャンプには行ったことがない。快適とは言いがたいが、きちんとトイレが設置されている場所でキャンプをしていた。
冒険図鑑で紹介されている手作りトイレは、こんな感じだ。
まず、20センチくらいの深さの穴を掘る。
穴の周りに布を貼って目隠しにする。
臭い対策に杉の葉を敷き詰めたりする。また、使用後にかける土も脇に用意し、手洗い用の水をバケツにくんでおく。
トイレットペーパーは木に刺して使いやすいようにし、足起き用の木を穴の横に設置。
使用中、あき、が両面に書かれた札を用意するとさらによし。
ちなみにキャンプ終了後はしっかりと埋め、後のキャンパーのために、トイレだったことがわかるように、トイレの札を残して置くとよい、とされている。
かなり細やかに気を遣っているトイレであるが、結局は野に掘った穴で用を足す、というだけのものだ。
なお、さりげなく「紙がなくなったら木の葉を使う」などと添え書きされていたりもする。
本当にアウトドアだ。日本語にすると野天だ。
小学生当時の私は「こういう場面になったら、絶対に必要な知識だから、トイレの作り方だけはしっかり覚えておこう」と何度も繰り返して、図解された手作りトイレを眺めていた。
この知識は、いずれ災害時とかに役に立つかもしれないので、今後もしっかりと覚えておこう。再読して、さらに強く聞く心に刻み込んだ。
正直にいうと、「冒険図鑑」の内容で覚えていたのは、トイレの作り方だけだった…。なんだろう、私はトイレに対する関心が人よりもかなり高いような気がする…。なんとなく隠しておく部分だからこそ、「みんな本当はどうなのよ!?」と気になって仕方がないのかもしれない。我が事ながら、やっかいな性格だな、と思う。
ちなみに、登山時には携帯用トイレを持って行っているので、今のところ、それで間に合っている。いずれ、お花を摘みに行く時もあるのだろうが…。
ここまで書いて、緊急時のトイレ対策として、ふと思い出したことがあるので、備忘のためにここに書いておく。
私が韓国へ旅行した時のことである。かなり前だ。
私と友人はショッピングモール(?)のようなところに入っている、ロッ●リアでコーラを飲んで休憩していた。(具体的にどこだったのか、すでに記憶は曖昧…)
コーラを飲み干し、しばらく「韓国のり、お土産に買う?」などど話していると、小さな子どもを抱いた女性がやってきて、私に話しかけた。
「(ハングル)?」←すみません、韓国語の知識が無く、文字で表現できません。
突然、女性に話しかけられ「…えーっと…」と、日本語でつぶやくと、女性は、何だ日本人かい、と理解したようで「ソノコップ、クダサイ。コドモノトイレニシマス」とかなんとか、一応日本語で話かけてくれた。(韓国の方は日本語が話せる人が多かった)
彼女の視線は私の前に置かれたコーラの空き容器に注がれている。
…これ?捨てるだけだから、あげてもいいけど、何に使うの?
子どものトイレ…!!
「ど、どーぞ!!」
と、すぐさまご要望にお応えして、空き容器を差し上げると、女性は「アリガトウ」と足早に去って行った。
子どものトイレ…。
韓国では、紙コップで緊急避難するって、ポピュラーなやり方なのか!?というか、ここはショッピングモール(?)だから、近くにトイレあるんじゃないの?
友人と「今回の旅行、最大のカルチャーショックかもしれない…」と語り合った。
日本でも、高速渋滞中の車中なんかだと、この方法をとることもあるかもしれないが。(子持ちの友人によると、車中には子ども用携帯トイレを常備しているので、それを使う、とのことだった。日本でもありか?)
町中の緊急時には、「冒険図鑑」で仕入れたトイレ作成方法はあまり役にたたない。むしろ、韓国旅行で得た知識が役に立つ。まあ、男子限定だけど…。
最後にひとつ、「冒険図鑑」を再読して気になったことを書いてみる。
この本は1985年初版なので、だいたい35年前に書かれた内容だ。相当前だが、読み返してみてもあまり古さは感じない。アウトドアは自然相手なので、そんなに大きく変わることはないのだろう。
だが、時々「おっ!」という、時代を感じさせる記載がある。
「下着を選ぶ」での記載。
ラクダのシャツがいい。お父さんの小さくなったものをもらおう。長いときは切る。
ラクダのシャツ!わーい!!
今日日のお父さんは、多分、着てない。
現在、書店で売られている版にもこの記載のままなのだろうか。非常に気になる。
今度、大型書店で見つけたら、必ず確認しようと心に決めた。
(ついでに「ヤッケ(ウィンドブレーカー)」の記載も変わっていないか、確認したいと思う。
こちらも結構楽しい。小学校の授業で「植物図鑑を持ってきなさい」と言われて、この本を持って行き、全然役に立たなかったことを覚えている…。分類方法が違ったので。