桐生 茶臼山〜秘境の石切場探検〜
冬になり、低山登りの季節がやってきた。
年明け最初の登山先に選んだのはG県東部にある茶臼山だ。桐生市と太田市にまたがる294mの低山である。
同じ名前の山は多いが、茶臼に形が似ている山を茶臼山と名付けることが多いためらしい。
…茶臼ってどんなもの?
石臼とは違うのだろうか?現代っ子の私にはイマイチピンとこないが、かつての日本では皆がすぐに形を思い浮かべられる身近な道具だったのだろう。
気になってネットで調べてみたが、「富士山のような末広がり型の山」を差すとのこと。説明文と一緒に茶臼の写真も添えられていたが、どうみても、円筒形の石臼であった。末広がり型…??イマイチ納得できないが、これはそういうものだ、と知識として覚えておくこととする。
さて、G県桐生市の茶臼山であるが、地元の小学生のハイキングコースになっており、お手軽簡単に登れる山だ。
というのも、今回のメンバーであるジェイ氏はキャンパーではあるが、登山はほぼ未体験。登りに対する不安を激しく訴えられたので「小学生が登る山だから!大丈夫だから!」と言い聞かせられる山を選択したのだ。
コースはいろいろあるようだが、一番メジャーだと思われる東毛青少年自然の家から登るコースを選択した。
上毛新聞社「ぐんま百名山」によると、ぐるっと周遊できて、2時間10分くらいだそうだ。丁度いい。
10:00 東毛青少年自然の家の駐車場に集合。
まさかの小雪舞い散る空模様である。たとえ悪天候でも、私は登る。登るが…天候不良は悔しい。
空を見上げて「雪止まないかな~」とつぶやいていたところ、ジェイ氏が到着。
車から降りてきたジェイ氏は妙な笑顔を浮かべて「やっちまいました…」といきなり懺悔した。
「靴が…ク●ックスで来ちまいました…。玄関までは持ってたんだけど、車に乗せるのを忘れた…」
なんと、ジェイ氏は靴を忘れたという。足元はサンダルだ。
確か富士山でも同じ足元の人を見たので、茶臼山くらいなら登れるだろうけど…
「ジェイ氏、やっちまったね…」との私のセリフに「でも、これは持って来た!」と、ごそごそとT型ストックを取り出して来た。「どうだ!」と言わんばかりに、私の目の前に突きつけてくる。
登山初心者のくせにイイモノ持ってるじゃないか。
ストックがあればク●ックスでも大丈夫だ、多分。
何故か、1人だけサンダル履きで登らせるのは申し訳ない、という心境になり、私とでんさん(もう一人のメンバー)もスニーカーで登ることにする。
コ●バースで登るの、すごく久しぶりだ。登山ぺーぺー時代にはよく登っていた。懐かしい気持ちに、少しテンションが上がる。
なんだかんだで10:30登山開始。
「ぐんま百名山」に紹介されていた周遊コースの「三本松コース」で登ろうと思っていたが、ク●ックス問題が発生したので、駐車場に張られていたコース案内のうち、最も簡単だとされてた「鎖場コース」で登ることにする。
最も簡単なのに、鎖場…。
何か矛盾したネーミングに首を捻りつつ歩き出すと、すぐに疑問は氷解した。
崖に鎖が3本ほど垂らされており、アスレチック的に登ることが出来るようになってる。もちろん、ここを登らなくても道はある。子どもの練習用?に設置されているようだ。
鎖場コースは最も簡単と言うだけあり、それほど急な登りは無い。
雪も止み、穏やかに会話をしながら頂上を目指した。
ク●ックスのジェイ氏も「これなら大丈夫。山歩き、楽しいじゃないか」とご満悦だ。
でんさんは「ジェイ氏、この山が大丈夫なら、高い山も大丈夫だよ。高い山はロープウェイで一気に標高を稼ぐだけで、この山とほとんど同じだから」と言葉巧みに誘惑している。でんさん、やり手だ。
周りは寒いが、歩いているので体はほかほかだ。
11:15 茶臼山山頂到着。
茶臼山の頂上には電波塔がどーんとそびえている。赤城山の地蔵岳みたいだ。(地蔵の方が大規模)
晴れれば眺望良好らしいが、この日はあいにくのどんより天気。目の前にそびえているであろう赤城山すらほとんど窺えなかった。残念無念、涙が出ちゃう。
しかし、下界は割とよく見える。低山はここがイイ。雲の中の真っ白地獄で何も見えなくなる高い山とは違う。
「あそこ、競艇場かなあ」「車が結構走ってる」などと、しばらく下界を見下ろして楽しむ。この時、何故か私の頭にはド●フの雷様たちが浮かんできていた。彼らが雲の上にいたからだろうな、多分。
頂上から少しだけ下った場所にある四阿で昼食にする。
人が全くいないので、私たちで占領だ。
実は、今回の登山のメインテーマは「山頂でお餅を食べよう!」であった。
お正月の余ったお餅を山の上で食べる。我ながら、なんてナイスな企画なんだろう。自画自賛だ。
「ふっふっふっ、餅レシピをクックパッドで検索してきたぜ!」
「実は、正月には餅つき機でついた。自家製なので、おいしいはずだ」
などと思い思いにザックから切り餅を出す私たち。やる気にあふれている。
調理中、四阿の外を見ると、また雪が激しく降っている。
「こ…こなーゆきー ねえ るるるるるるる~」と歌い出す私。後半の歌詞はよくわからない。
お餅調理に夢中の2人は、私をほどよく放っておいてくれた…。
私の歌声だけが、灰色の空に消えていく。
寒い…。何か、外の温度と心の温度が相まって、いっそう寒さが身に染みる。
あんこをクッカーで煮て、焼いたお餅を投入する。あっという間にお汁粉が完成した。
ほかほかのお汁粉を一口すすると「あったまるー」と思わずつぶやいてしまう。冷えた心に染み渡る。
ちらちら舞う雪を眺めながら、ぬくぬくとお汁粉をいただく。まるで、こたつで雪見だ●ふく、の様な贅沢感だ。
ジェイ氏とでんさんも、それぞれ「餅は何でも合う!」「ご飯に合うものは全部いけるね」と、満足げに出来上がったお餅料理を食している。
お互いに交換していろいろ食べたが、お餅にたらこスパソースをかけたもの(仮に「たらこもち」とでも命名しよう)が、簡単お手軽でかなりおいしかった。でんさん制作。
12:30 充実のお昼ご飯タイムを終了して、下山を開始する。雪は止んだ。
下山ではあるが、ただ下るのでは無く、ぐるっと大回りの周遊コースを取って下る。
この周遊コースの終盤にある「石切場」が割と面白そうなのだ。
上毛新聞社「ぐんま百名山」によると「西洋の神殿か古代遺跡を思わせるような」と記載されている。
「まあ、よくある城跡の礎石程度のものかもしれないので、あまり期待しないでおこう」
「そうね。G県東部に住んでるけど、ここに古代遺跡みたいなものがあるなんて、聞いたことないしね」
東部の住民である私もでんさんも聞いたことがないので、やはり、たいしたことないのかもしれない。
行きと同じルートをだいたい庚申塔までたどり、ここから周遊ルートに入る。
そのまま稜線(?)を籾山峠方面へ南下し、石尊宮から下りに入る。
13:00 石尊宮を右折すると、下りの山道は落ち葉に覆われていて、とにかく滑る。しかも、踏み跡があまり無く、道がわかりづらい。
「こんな道なのに、コ●バース!ジェイ氏、ク●ックスで大丈夫!?」
「ストックさん、ありがとう!大丈夫だ」
「この道であってるのかしら?こっち方面の道、人、全然来てないね!」
「ピンクちゃん(登山ルートを示すピンクリボンのこと)がないから、ものすごく不安!」
大声で叫びあいながら、山道を下る。
13:15 この道の選択は失敗だったか!と後悔し始めたあたりで、視界が開け、どーんとコンクリの建造物が姿を現す。
「何だ、あれ!?」
「ダム??ダムだよねえ?ダムカード、ないかな?」
どうやら、砂防ダムのようである。
今日のメンバーはダム好きでもあるので、ちょっとテンションがあがる。ちなみにこの砂防ダムにはダムカードはない。多分。
地図によると、この先は舗装道路を少し歩き、また山道に入るとなっている。
しかし、砂防ダムの脇に、山へ登る道があるのを発見。
「こっちの道かな?」「でも、地図だと違うような…?」
よくわからなかったので、とりあえず少し山道を登ってみることにした。間違ったルートだったら、すぐに戻ればいい。
道を行くと、ルートをそれた脇の木に青いテープがつけられているのを見つける。
「あれ?あっちに行くのかな?」とジェイ氏が道をそれ、確認に行くと、すぐに大声をあげた。
「こ、これは…!!すぐに来て!!」
何だ、何だと、向かった先で見たものに、私とでんさんは「すごい!」と大興奮で叫んでしまった。
まさに、古代遺跡であった。
道の先にぽっかりと口を開けた岩の隙間には、巨大な石切場跡が広がっていた。
当時、平らに切り取られた石壁は少し崩れ、植物だけが絡まっていて、失われた文明の雰囲気を醸し出している。
白い石壁が、日本では無い国のようで「ここはラ●ュタなの?」とついつい口走ってしまう。
まさか、こんなところで古代遺跡に出会うとは!
青テープをたどり、道なき道をかき分けて進むと(落ち葉だらけで道がわかりにくかったので)、さらに数カ所、石切場を覗き込める場所がある。
ここに来て、気分が登山から、秘境探検へと一気に切り替わってしまった。
「隊長!切り通しのツタを抜けた先に、第2の石切場を発見しました!」
「よし、安全を確保して進もう!」
石切場を大興奮でさまようこと30分。堪能し尽くして、砂防ダム脇の道へ戻る。
改めて地図をよく見てみると、「石切場」は地図上、2カ所あり、うち一カ所の石切場Aへの道は破線になっている。
どうやら、この石切場Aをさまよっていたらしい。
まったく何も考えていなかったが、石切場Aにたどり着けたのは本当に幸運だった。
「もしかすると、これは偶然じゃ無いとたどりつけない場所なのかもよ。行こうと思うと絶対に元来た道に戻ってしまうような不思議な場所…」とでんさん。
さすが読書家のでんさん。すばらしい発言だ!
うさぎを追いかけるアリスとか、猫に案内されて店にたどり着く波津彬子さんの世界みたい。私はいくつになっても夢見がち。でんさんも同士だ。
13:50 砂防ダムの先の舗装路を少し歩いた後、案内看板にそって、再び山道に入る、本来のルートに戻る。
14:10 「石切場跡」の看板が現れた。こちらの道の先には、石切場Bがあるらしい。もちろん石切場Bへ行ってみる。
こちらもすごい。
ぽっかり空いた岩の隙間から覗く石切場Aとは異なり、石切場Bはその中まで入っていける。
切り取られた巨大な石の空間で上を見上げて「うへー」と唸ることもできるのだ。
しっかりと見学できるように整備されている印象だ。小学生がハイキングの途中に見学したりするのかもしれない。
こちらの石切場Bしか見なかったのであれば、これでも十分満足だ。西洋の神殿のようで圧倒される。しかし、石切場Aを探検してしまった私たちには、若干物足りない。
行くなら秘境感あふれる石切場Aの方が楽しい。
この感動をバネに、これから石切場Aの広報に努めよう、と3人の意見は一致した。
しかし、石切場Aの楽しさは、整備されていないところにある。
沢山の人が行くようになって、きっちり見学ルートが作られたりしたら魅力が半減してしまうかもしれない…。密かに広報することにする。このブログはその第一歩だ。
ちなみに、この石切場は「薮塚石」を切り出していた場所だそうだ。
藪塚石は、かまどの石等として広く流通したようだが、「水に弱い」という決定的な弱点を持ち、現在では廃れてしまったとのことである。
水に弱けりゃダメだよな…。
石切場Bから、集合場所である東毛青少年自然の家まではすぐである。
14:20 滝の入神社に到着し、周遊ルートはほぼ完了。
14:30 てくてく道路を歩き、東毛青少年自然の家駐車場に到着。
当初の予想を裏切る楽しさがあり、充実した一日であった。茶臼山、スバラシイ。
ジェイ氏も「最高だった。登山、これからも行く」と力強く宣言してくれた。しめしめ。登山要員を一人確保だ。
今回、唯一の反省点はコ●バースで登ってしまったことだろうか…。
やはり、トレッキングシューズの方がいい。当たり前のことだった。低山だとなめてかかった自分に猛省を促したい。
そして、ク●ックスて登り切ったジェイ氏に拍手を送りたい。でも、次はせめてスニーカーにしてね。