突然、勾玉作り
もともと影響を受けやすい性格である。
東博の特別展「出雲と大和」で勾玉の展示を見て、「そうだ、勾玉つくろう」と突然思い立った。
やっぱり、宝飾品には心引かれるものがあったのか、あの独特の形の謎に興味が湧いたのか、自分でもよくわからないが、勾玉を作ることに決めたのだ。
というのも、私の手元には勾玉の素材となる石があったからだ。
数年前、発掘関係の仕事をしている知人から「勾玉にするといいよ」と貰った黒い石があった。何の石なのかはよくわからないが「ちょっと硬いけど、磨くとキレイになると思う」と言われた記憶がある。
思い立ったが吉日。よし。作ってみよう。
幸い、石を切る金ノコや、やすりも発見した。道具は揃っている。
まず、勾玉の大きさに合わせて、石を切る作業を行う。
貰った石はそこそこの大きさだったので、作りたい勾玉の大きさ程度に切り出す必要があったのだ。
金ノコをギコギコと押したり引いたりしまくる。
徐々に溝が出来、刃は石を切断していく。
が、石は硬い。とにかく硬い。
1時間ギコギコして、1ミリ進むくらいの進捗状況だ。
これは…もしや、途方も無い時間をかけないと切断できないのではないだろうか。
まだ寒い時期であったが、この先の展開に不安を覚え、冷や汗がにじむ。いや、本当はのこぎりをひきまくったせいで、単純に暑くなっていただけかもしれない。
午前中からスタートした切断作業は、お昼ご飯を食べても、晩ご飯を食べても一向に終わる気配を見せない。
もうやめよう。誰に頼まれたわけでもないし。
という後ろ向きな考えが頭をよぎったりもしたが「ここまで来て、途中で投げ出すなんて出来るわけないやろ!」と、生来の頑固な負けず嫌いの性格の方が全面に出て、本当に1円の得にもならない作業を、ただひたすら続けた。
私は登山が趣味だが、雨が降ってきたりしても「せっかく来たから頂上まで行くぜ!」と無理をする、本来、登山に向いていない性格だ。勇気ある撤退が出来る性格が必要だとわかってはいるのだが…。
ギコギコ作業を続けて、およそ10時間(多分)
ようやく、石の切断に成功。
えいどりあーーーん!やりとげたぜ!
思う念力岩をも通す!いや、正に、雨だれ石を穿つだ!
石を切り始めた時は、1時間もあれば終わると軽く考えていた。しかし、実際は、午前中から切り始めて、夜の9時過ぎまでかかった。その間、他のことはほぼ何一つやっていない。
金ノコを引き続けた右手親指は、じんじんと痺れている。(親指で押さえながらノコギリをひいていたらしい)
疲労困憊だ。
石を切断したことで、ものすごい達成感に浸っていたが、実はこの作業は勾玉作りのほんの一丁目なのだ。
まだまだ先は長いが、このぼろぼろの体はもう使い物にならない…。
さすがにこの日は、これ以上の作業は断念することにした。
古代の先人は、私が切った石より遙かに硬い翡翠や瑪瑙で勾玉をつくっていたのだ。
すごい根気だ。
玉造部(勾玉作りの職人集団)の先人達に、言いしれぬ尊敬の念を抱いて、布団に疲れた体を横たえた。
さて、勾玉の素材になる石を切り出したら、ここから先は、ひたすら自分の好みの形になるまで削り続ける作業になる。
当初、私が用意した道具は粗めの紙やすりであった。
ザリザリこすると、だんだんと角が取れて丸くなってくる。
だかしかし、数時間ザリザリしても、削り作業は遅遅として進まない。そりゃそうである。金ノコでの切断に1日かかったのだ。
一計を案じた私は、ここで新道具を投入した。
ダイヤモンドやすり(ダ●ソー商品)である。
角形と丸形の2本用意した。
ダイヤモンドはこの世で一番硬い鉱物だそうだ。
これで、削り作業がガツガツ進むこと、間違いない!頼むぞ、期待の新人!
果たして、ダイヤモンドやすりの能力は素晴らしかった。
紙やすりより遙かに早いスピードで石が削れていく。
丸形のやすりの活躍により、懸案の勾玉のくぼみ部分も形が取れてきた。
すごいよ、現代日本。こんな高性能の商品が110円(税込み)で購入できるのなんて。ダイヤモンド使っているのに、このお値段!
古代の玉造部の先人に対して、何か申し訳ない気持ちになる。
当時はどんな道具で削っていたのだろう。
タイムマシンで、ダイヤモンドやすりを届けたい気持ちだ。
約1週間後。まあまあ、勾玉のもとになる形っぽくなってきた。
…1週間、暇さえあれば削り続けて、こんなものである。ダイヤモンドやすりで格段にスピードアップしたはずだが、先は長い。
しかし、この削り作業は全く苦にならない。時間を忘れて没頭できる。
一心不乱に、ざりざり削っているだけの作業だが、切断作業よりも楽しいのは何故だろうか。「ここをもうちょっと、つるんと丸くしたい」とかの、クリエイティブな(?)思考が入るからなのか。不思議である。
何かにとりつかれたかのように、石を削り続けること2週間。
ようやく形はほぼ完成した。
私は、比較的足(勾玉の先っぽ)が長い形が好みである。そして、先が尖った靴のように、シュッと細くなっている形が好きだ。
スマートで都会っぽいから。私は田舎者なので、都会にあこがれるのだ。
ここから、ダイヤモンドやすりを終了し、1000番台と2000番台の目の細かい紙やすりを使って表面を磨いていく。
ダイヤモンドやすりで削った状態では、がさがさで白くなっていて、若干不安を感じていたが、多分、紙やすりで磨くと、つやつやのぴかぴかお肌になるはずだ。
だって、石をくれた知人が「キレイになる」って言っていたから。
紙やすりって、凄い。
磨き続けて数時間後、表面はつやつやのぴかぴかになった。艶のある黒ってキレイ!
ありがとう、石をくれた方!数年越しに、石は勾玉になりました!
最後に、穴を開けて完成だ。
穴開け…。結構、大変だったので、電動ドリルを使ってしまった。
電動ドリル使っても、数時間かかったけど…。
玉造部の方に対して、何となく後ろめたい。
勾玉作りに着手して、15日でようやく完成にこぎつけた。
長かった…。
この間、空いた時間は、ほぼこの作業に費やした。正に没頭していた。気持ちだけは、玉造部の工人だった。
大王様に私のつくった勾玉の首飾りをお納めしたい!
…いや、こんなに苦労して作った勾玉はずっと私の手元に置いておきたい!誰にも渡したりするもんか!
実は、ちょっと形に不満もあるのだが、(丸い部分の形がちょっと気に入らない…)苦労して作っただけに、思い入れもひとしお。
大事にしよう。
そして、次に作る勾玉はもうちょっと柔らかい石を使おう。
次に作る石を求めて、ア●ゾンで石を探す私なのであった。