睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

にゅう〜きのこの森〜

ようやく梅雨が明けた。

今年の梅雨は本当に長かった。じっとこらえていただけに、喜びもひとしおだ。

これでようやく、夏空の登山が出来るぞ、とガッツポーズを決める。

梅雨明けと同時にやって来た猛暑もあまり苦にならない。高い山に行けばいいだけのことである。

 

今回の行き先はにゅう、である。

お手軽に行ける北八ヶ岳の山として、私の行きたい山リストの割と上位にランクインしていた。

なにしろ、名前が可愛い。ひらがなの山は珍しいのではないか。(漢字だと「乳」だそうだ。いきなり可愛くなくなる…)

今回こそは、青空に連なる八ヶ岳の山々の絶景を拝ませていだだこうではないか。ヤッホー。

今回も同行のノムさんは「山と天気と暮らす」(山の天気予報サイト)をじっくり検討して、晴れそうな日をチョイス。

お互いに気合い十分である。

 

しかしながら、検討を重ねて選んだはずの当日、一言で言い表すとすれば「くもり」の空模様。

おかしい…。数日前まで並んでいた晴れマークはなんだったのだ?

「女心と秋の空」を改めて「女心と山の天気」に変えた方がいいのではないか。ころころ変わって、私の心をもてあそぶ悪いヤツだな、山の天気。

信頼の「山と天気と暮らす」には登山指数Bが並んでいる。どうやら、くもりに加えて、風が強いらしい。午後3時以降は少し良いらしいが、さすがにその時間に頂上に立っているようでは、ものすごく遅いな、と私でも感じる時間だ。

うむ。まあいい。

雨が降らないだけで良しとする。

北八ヶ岳の森の時間が長いルートなので、晴天じゃなくてもそんなに影響はない。

 

8:00 スタート地点である白駒池駐車場発。

「白駒の池」の大きな看板を通過すると、すぐに緑けぶる森が広がっている。

シラビソの木から光が差し、こんもりと生い茂ったコケが黄緑にきらきらと光っている。

のっけから綺麗な森である。

足下は幅の広い木道で歩きやすい。白駒池までは一般の観光客も沢山訪れるので、がっつり整備されている。

ほどなく白駒池分岐に到着し、池に沿って青苔荘方面に進路を取る。

池に沿っている道のはずだが、あまり池は見えず…。時折、水面が姿を現す程度。

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実生の芽がかわいい。

8:30 池周遊コースを終了し、いよいよ、にゅうに向けた登山コースに入る。

「こーけーのー むぅすぅー まぁぁでー」とノムさんが歩きながら口ずさんでいる。

ついつい日本国国歌が頭に浮かぶほど、コケだらけのコケの森である。

前日に少し雨が降ったのか、しっとり湿っていて、緑がつやつやしている。

「はりつめたー ゆみーのー」 

私もお返しに米●さん(も●●け姫)を歌ってみる。

黙れ、小僧!」と即座に●輪様(モ●の君)で返すノムさん

この森を歩く人の十中八九は、も●●け姫を思い出すだろう。ジ●リって偉大だなあ。

余談だが、私は「も●●け姫」を映画館で見たが、たまたま隣の劇場が「ジ●ラシックパーク」を上演中であった。「も●●け姫」でこだまがころころ鳴る、静かなシーンに、隣から漏れ聞こえる「ギャオーン」という恐竜の雄叫び(?)。気になって仕方がなかった…。

 

コケむす森を足取り軽く歩いて行くと、あちこちに大好きなキノコを発見する。

コケとキノコはベストフレンド(?)

どちらも私の心をとらえて離さない。

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つやつやキノコ。もう、名前を調べることは諦めた。

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食べちゃダメな気がする。

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遠目だとスズランみたい。

「キノコはイイね」とノムさんと夢中で写真を撮りまくる。
すると突然、自分の失敗に気づいた。

「しまった!「き●この山」をおやつに持ってくるべきだった!

「それは…!!大失敗だね!」

どうして、この重要な事項に気づかなかったのか。自分の準備不足が悔やまれる。北八ヶ岳の森にはキノコにたくさん出会えることは知っていたのに…。

この森で「き●この山」を食べたら、さらに倍!(byクイズ●ービー)の美味しさだったであろうに…。

次に北八ヶ岳に来るときは、かならず「き●この山」持参、と心のノートに書き留める。

 

9:00 コケとキノコに癒やされながら、るんるん登っていくと、白樺尾根との分岐に出る。

分岐の看板をみて、首を捻る私とノムさん

「ニュー中山」

…この先には何があるのだ?田舎のアパートか、パチンコ屋か!?

「あ。ニューは「にゅう」か…」

気づくのに、けっこう時間がかかった。

「にゅう」と「中山」はこちら方面、との標識であった。

「にゅう」→かわいい

「乳」→なんか、変な名前

「ニュー」→昭和感。レトロ。

同じ響きでも、書き方によってかなり印象が異なる。改めて日本語の奥深さに気づかされた。ううむ、にゅう、奥が深い。

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ナイス看板。

 

ニュー中山方面に進路を取り、再び森の中を登っていく。

だんだんと周りの木の丈が低くなり頂上の近さを感じる。

「そろそろかな」「いや、油断は禁物だ。頂上かと思ったら、もう一山、というのは登山あるあるだよ!

しかし、あまりフェイント無く、森を抜け、ダイレクトな空が見えると、その先に岩が積み重なった頂上があった。

森を抜けると、本当にすぐ。

 

10:00 登頂 2352m

森の中ではそれほど登山者と出会わなかったが、頂上ではそこそこの人がやって来ていた。

何故か皆「ニュー」「ニュー」と口にしながら、頂上にやってくる。

この不思議な語感が、登頂の興奮と相まって、ついつい発声したくなってしまうのだろうか。もちろん、私とノムさんも「ニュー」「ニュー」を連発した。

ついでに、頂上の三角点の横の杭には「ニュウ」と書かれていた。新たな表記方法…。多彩である。

ちなみに、天気は真っ白地獄、何も見えねえ、というほどではないが、基本は白い世界であった。天気予報、さすがである。

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にゅう山頂から。くもり。

 

私たちにしては早い時間に登頂してしまったので、今回は色気を出して、帰りは大回りコースを取り、黒百合ヒュッテまで足を伸ばすことにする。

黒百合ヒュッテは八ヶ岳の数ある山小屋の中でも、一番行ってみたいと思っていた山小屋だ。何しろ、黒百合のマークがかわいい。マフィンが食べられたりと女性人気が非常に高いらしい。

 

にゅうの山頂を下り、中山方面へ。

ほとんど人と遭遇しない。さっき、山頂で出会った人たちは、こちらのコースをとらず、みんなピストンで帰るのだろうか。もったいない。

歩いていると、風がどんどん強くなり、時々「おおぅ」と体を持って行かれそうになる。「山と天気と暮らす」の予報どおりの強風。本当に、最近の天気予報の精度は目を見張るものがある。すごい。

 

11:30 中山峠

11:40 黒百合ヒュッテ

時間がちょうど良いので、黒百合ヒュッテでお昼ご飯をいただくことにする。

ラーメン(王道のサッポロ一番)なども持って行っていたのだが、あこがれの黒百合ヒュッテである。ごはんも食べちゃうのだ。

ノムさんはカレーセット。私はビーフシチューセットを注文。

山の中でビーフシチューが食べられる。なんて贅沢なのかしら。 

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ビーフシチューセット。1300円。

食後にお湯を沸かしてコーヒーで一服していると、だんだんと空に晴れ間が見えてきた。感動の青い空である。

午後から晴れるって、またしても天気予報ドンピシャ。

あまりにも的中率が高いので、ちょっと恐ろしく感じるほどだ。気象予報士の勉強してみたいな。

気象予報士の資格を取れば、きっと自分で登る山の天気予報が出せる。魅力的だ。

いや、自分でやらなくても、信頼の「山と天気と暮らす」があれば大丈夫か…。

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青空の黒百合ヒュッテ

12:30 満腹のお腹をさすりながら、黒百合ヒュッテ発。にゅう分岐までは来た道を戻る。

カレーでお腹が満たされている」とは、今回のノムさんの名言。ノムさんは常に名言を世に送り出してくれる。

スバラシイ友人を持って幸せである。

 

12:45 にゅう分岐

13:10 中山 2496m

ひとつのピークなのだが、周りを木に囲まれており、特になんと言うこともない場所である。

やっぱり、山の頂上は眺望が開けていないと何となく寂しい。

それでも、にゅうの頂上より100m以上高い場所なのだ。そんなに登った気はしなかったのだが、結構登ったらしい。

 

13:30 中山展望台

ここは打って変わって、眺望最高。

信頼のおける天気予報どおり、ほぼ晴れ。

やっぱり、景色がいいと、気分もいい。

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多分にゅう。

「今回は、なんか余裕がある登山だね」

「何だか、余裕がある登山なんて、私たちらしくないねー

展望台では、休憩している人たちも何人かいて、毎度「おかしい、周囲に人がいなくなってしまった。みんな帰っちゃったのかしら」とつぶやいている私たちだが、今回は他の登山者さん並の時間に帰れそう、という自信が湧いてきた。

今日の私たちは、いつもの私たちとは違う。ふふふ。

地図によると、ここから次のポイントとなる高見石小屋までは40分とのことである。

そこから駐車場までが約35分、と持参した地図には書かれている。

3時くらいには帰れそうである。余裕がある。

 

展望台から先は、高見石小屋へ向けた激下りルートに突入する。

私たちは下りが苦手である。

さらに、湿った岩にコケが生えていたりして、滑りやすいので、いつもより慎重に足の置き場を探しつつ下る。

もちろん、後続者にはどんどん抜かれる。(これはいつものことだが)

下りが早い人って、本当に早い。すごいなー。足の置き場に迷いなく、どんどんどんどん進んでいく。滑って転んだりしないのだろうか。

そして、膝の軟骨はすり減っていないのだろうか。グルコサミン飲んでるのかな。

私たちは慎重にゆっくりくだったが、二人とも1,2回転倒した。なんだろう、バランスが悪いのだろうか。それとも、重いお尻が悪いのか?

「おかしい、そんなに登った覚えがないのに、何でこんなに下るのだ?

「ミステリー!山のミステリー!

時々生えているキノコに癒やされたりしながら、高見石小屋を目指す。

 

15:00 高見石小屋着

コースタイム40分って、本当なのか?倍以上(1.5時間)かかった私たちって…。

事実は事実として受け止めて、今後、下りのコースタイムは、さらに倍!(byクイズ●ービー)で計算するようにしよう。

中山展望台で「余裕!」と高らかに笑っていた時の計算では、もう、駐車場に着いているはずだったのに…。

おかしい。

 

さて、高見石小屋のすぐ脇には高見石がある。

岩が積み重なっていて、その頂上は景色抜群らしい。

予定よりも相当遅くなっているのだが、なぜかまだ余裕を感じていて「せっかくだから登ろう」と高見石にチャレンジする。

結構、怖い。

ルートを示す「○」が岩に書かれているが「ここからその○までどうやって行くのさ!?」と聞かずにはいられない。誰も答えてくれないのだが…。

なんとか登り切った高見石からの眺めは最高。この時間には完全な晴れになっている。

「今日一番の絶景!登ってよかった高見石!」

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高見石。猛者は私たちよりさらに上まで登ってらっしゃる。

ちなみに、登りよりも下りの方が怖かった…。

「三点支持!三点支持だよ」とのノムさんのアドバイスに「三点目がお尻になってるけど大丈夫!?」と尻餅をつきながら叫び返し、近くにいたお兄さんに笑われた…。

お尻は安定感がある。

 

15:45 高見石小屋発。再び激下り。

白駒荘までのコースタイムは25分って書いてあるけれど…45分後の16:30に到着した。

やっぱり、倍か…。

白駒荘まで下りてくると、まわりは登山スタイルではない、一般の観光客の方ばかり。

通常の山ならもう誰もいない時間だが、観光客の方がいるので、最後の下山者かも、という焦りがなく、のんびり池を眺めたりして過ごす。

一日、満喫出来て楽しかったなー。

 

結局、白駒池駐車場に到着したのは17:00であった。

遅い…。

中山展望台のあたりで余裕があるなんて、どうして思ってしまったのか。

全然、余裕じゃなかった。

でも、ちゃんと暗くなる前に下山できているので良しとしよう。

次こそは余裕のある登山!毎回思っているけれど、余裕のある登山!

 

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コケがリースのよう。華やか。

<コースタイム>

8:00白駒池駐車場…8:30分岐(にゅう方面)…9:00白樺尾根との分岐…10:00にゅう頂上…11:30中山峠…11:40黒百合ヒュッテ(昼食50分)…13:20中山展望台…15:00高見石小屋…15:30高見石…16:30白駒山荘…17:00白駒池駐車場