睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

「人生激場」 三浦しをん

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 先日、職場で救急救命法のガイドブックが回覧されてきた。  

私が中をぱらぱらっとめくっていると、向かいに座っているこの回覧を私に回した兄さんの目がきらーんと光った。  

AED(心臓マッサージをする機械)の説明部分で、すごい記述があるんです」という。  

なんだろう?と思いながらそのページを開くと、「胸毛の濃い方は、しっかりと張り付かないことがありますので、(中略)張り付かない場合は、パッドの粘着部分を利用してべりっとはがしてください(後略)」との記述発見!  

わお!  

胸毛が濃いと、意識不明になっているときに、べりっとむしられちゃうかもしれないってことか!?  

AEDのおかげで蘇生して、気づいたとき自分の胸元を見ると、うっすら朱に染まった自分の白い胸(毛で覆われていて、日に焼けていないから白く、一気に抜かれた衝撃で赤くなっている)が広がっていて……という光景を見てしまうのだろうか?  

大変だ。胸毛が濃い人は、うっかり意識不明で倒れることも出来ないじゃないか!  

引退した朝潮関とか、気を付けないと!  

私がこの部分を読み、顔を上げると。向かいの兄さんと目があった。  

「胸毛が濃い人は、むしられたショックで蘇生するんじゃないだろうか?」と冷静に意見を言う兄さん。  

さらに「もしうちの職場にAEDがあったら(客商売の職場なので、AED設置案が以前から出ている)べりっとできますかね?」と私に聞いてくる。  

「……ごめんなさい。私には出来ません……!!」  

だって、紫落庵なんて屋号を名乗っているけど、私、まだ乙女ですもの!  

AEDが出る場面って、本当に生死の境なわけですから、やらざるを得ないんでしょうが、べりっと……」  

とあくまで冷静な向かいの兄さん。  

反面、私はもうおかしくて仕方がない。笑いをこらえるのも限界だ。  

兄さん、どうして冷静なんだ~!  

いや、待てよ。私が、ちょっと興奮しすぎているのか?  

 

と考えて、はたと思い出したのは、先日読んだ、三浦しをんの「人生激場」だった。  

三浦さんは「胸毛好き」ということを公言しているのだ!  

「人生激場」では胸毛黄金律について熱く語ったり、サッカーワールドカップの選手の胸毛をチェックしたりしている。  

同じ新潮社から出ている「しをんのしおり」でも伊勢丹の店員の胸毛をチェックしていたな……。  

そんなところ、チェックするところなのか!?  

ロードオブザリング」のアラゴルンヴィゴ・モーテンセン)に胸毛があるかどうかを気にしたり、イルハン(サッカー選手)に胸毛がないのに「やはりな」と納得したり……  

大々的に胸毛について語っているわけではないが、さりげなく「胸毛チェック」を入れている。  

おかげでそれを読んだ私の頭の中に、「胸毛」という単語が刻み込まれてしまったのだ。  

うう……。念のために言っておきますが、私は胸毛好きではない!声を大にして言うが、胸毛は無い方がいい!  

それなのに、「人生激情」を読んでいると、ボディーブローのように「胸毛」に対する意識がじわじわと高まり、いつの間にか、「胸毛」に異様に反応するようになってしまうのだ!  

恐ろしい。恐ろしい本だよ!  

そして、恐ろしい作家だよ、三浦しをん!(直木賞受賞、おめでとうございます)  

今後、どうやって、この「胸毛」への過剰反応を無くしていくかが、私の課題だ。  

だって、私は胸毛好きじゃないんだから!(2度目の主張)  

でも、三浦さんのエッセイを読むことはやめられないので、なかなか難しいかもしれない……。  

 

ちなみに、職場の兄さんとの会話は「AED導入されたら、あまり活躍しないよう祈りましょう」「そうですね。倒れる人がいない方が良いに決まってますからね」という、当たり障りのない会話で終了しました。  

しかし、兄さん……。この胸毛記述に気づいて、私にふってくるあたり、もしや三浦しをん読者なのかもしれない……。

ああ……好きでもないのに、「胸毛」を連発してしまった。こんなに(今数えたら20回だった……)この単語を打ったのは初めてだよ……。