睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

「もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵」椎名誠

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最近の本屋では、とにかくタイトルの奇抜さで売れている本がたくさんある。  

バカの壁」「さおだけ屋はなぜつぶれないのか」「人は見た目が9割」「99%は仮説」(今気づいたけれど、私はこれらの本をどれ一つとして読んでいない……。私はタイトルでは買わないタイプみたいだ)  

しかも、「さおだけ~」はかなり人気があるようで「若者はなぜ3年でやめるのか」などという、後追いタイトルまで出現している。  

まあ、確かにタイトルは一番最初に目に入る分、インパクトは大事だろう。  

でも、これらのタイトルを上回るタイトルの本がある。  

「もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵」である。  

もう、何がなんだか分からないけど、見た瞬間「おおう!」と思ってしまうインパクトだ。  

よく「一度聞いたら忘れられない」と言うが、この本は「何度聞いても覚えられない(でも、耳に残る)」タイトルだ。  

私は古書店で見つけて、そのタイトルのパワーに惹かれ、ついふらふらとレジへ持っていってしまった。  

あ、やっぱり、私はタイトルで買うタイプなのかしら……?  

この本は椎名誠本の雑誌社から初めて出した本である。(ちなみに椎名誠はすごいタイトルを付けるのが上手く「ロシアにおけるニタリノフの便座について」とか「さらば国分寺書店のオババ」とか、目白押しだ)  

初めて出す本にこのタイトル……。多分、気合いが入っていたんだろうな……。  

なんか、「やってやるぜ」みたいな、ギンギンな気持ちがにじみ出ているような気がする。  

しかも、長い。つい、百人一首の作者の一番長い名前の人は「法勝寺前入道関白太政大臣」だったなあ……などど、どうでも良いことまで思い出す。(確か氷室冴子の何かの小説にこれが書いてあって、それ以来ずっと覚えている。でも、この人の歌がどれだったのかは覚えていない……)  

さて、奇抜なタイトルを付けた本が気を付けなければいけないことは、内容とのギャップである。いわゆる「タイトル負け」をしがちなのだ。  

「た~らこ~」の歌は、CD化されてバカ売れしたらしいが、実は「CD満足度」最下位という訳の分からない記録も持っているらしいし。    

この「もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵」の内容といえば……!  

活字中毒者(目黒さん=本の雑誌発行人)から本を取り上げて、何もない味噌蔵に押し込む。そして、「本をくれ~」ともだえ苦しむ様子を見て楽しもう、という内容だ。  

それだけ!  

何のひねりもなくタイトル通りの内容なのだ。  

こんなインパクトのあるタイトルで、その通りの内容かよ!すごいぞ、椎名誠!  

そして、読んでいてとにかく面白い。  

なんか、もう、タイトルと同じでひたすらギンギンでハイテンションなのだ。ギャップはまったく無い。  

これぞ、椎名誠ワールド!  

よく、作家はその第一作がすべてだ、と言うけれど、確かにそうなのかもしれないなあ……。  

 

蛇足ながら、私は多分、活字中毒者だ。  

もし、自分が目黒さんの状況に置かれたら……と思うと、身も細る思いだ。  

無人島には絶対に本を持っていくね!しかも、読むところが多い方が長く楽しめるから、辞書とか百科事典を持っていくね!  

ああ、目黒さんが苦しむ様子を見て、楽しもうだなんて、椎名さんは酷い人だな……。  

味噌蔵を見たら気を付けないと、とそれ以来思っている。  

ちなみに、この本を出す状況を描いた「新宿熱風どかどか団」という自伝的小説も出ている。  

この本によると、イラスト担当の沢野ひとしさんが、イラストが上がらず逃げ回って、発行が大幅に延びたらしい……。(確か10ヶ月くらい?)  

そんな大変な本だったのか……。  

そう思って、沢野画伯のイラストを見ると、また別の感慨も湧いてくる。  

10ヶ月も逃げるそのパワーにも感服だな~。