「走れメロス」太宰治
人間みな、どうしてだか分からないが、頭にこびりついて離れない単語、というのがあると思う。
私の場合、その単語は「セリヌンティウス」だ。
太宰マニアの皆さん以外は、あまり覚えている人がいないだろうが、「走れメロス」中の、メロスの友人の名前だ。
メロスが妹の結婚式に参列するあいだ、身代わりにとらわれていた人ね。
特に、覚えよう!と思った訳ではない。自然と頭にこびりついて離れないのだ。
何だって、こんな長ったらしい、しかも覚えにくい名前が忘れられないのか……。
理由は本人にもまったく分からない。
うう……妹の名前は忘れちゃったけどな~。(読み返して、妹の名前は出てこないことが発覚)
私の場合、どうも西洋人(ギリシャ・ローマ系)の異様に長い名前は、頭にこびりつきやすいらしい。
高校の世界史の時間に習った、マルクス・アウレリウス・アントニウス(ローマの5賢帝の一人)とか、ペイシストラトス(ギリシアの政治家)とかが、未だにふとしたきっかけで頭をよぎる。
ローマ教皇のインノケンティウスなんてのも、ばっちり覚えているな……。
しかし、ただ名前を覚えているだけで、彼らがどんな人々なのかは、はっきりいってあまり覚えていない……。使えないな、私……。
変に長くて覚えにくそうな名前ほど、印象に残りやすいのかしら……?
先ほど、これを書くにあたって「走れメロス」を読み返してみた。
すると、セリヌンティウス以上の人がいた!
その名も「フィロストラトス」!
セリヌンティウスの弟子らしい。まったく、二人そろってどうなってるんだ、この師弟は!メロスなんて、すごくシンプルな名前の人もいるのにさ!
フィロストラトスはメロスが突っ走っているところに「メロスさん!もう間に合いませんよぉ!」と現れる。
すると「そんなことないぞ!フィロストラス!」とメロスはスムーズに叫び返す。
……すごいな、さすがはメロス。こんな言いにくそうな名前を覚えていて、且つ、さっくり叫べるとは……。たいして良く知っている人でもなかろうに。 しかし、私は彼の名前どころか、登場することすらすっかり忘れていた。
うーん、セリヌンティウスは忘れたくても忘れられないのに……。どういう基準かねえ……。我がことながら、よくわからん……。
おそらくこれからもずっと「セリヌンティウス」は私の頭の片隅で生き続けて行くんだろうなあ。
脳って不思議で面白いものだなあ。茂木健一郎さんの本とか読もうかなあ。
それにしても、ギリシア・ローマのみなさんは、こんな長くて覚えにくい名前で日常生活困らないのかしら……?
日本人の私が思うほど覚えにくくないのか?
それとも、普段は「セリー」(セリヌンティウス)とか「フィロちゃん」(フィロストラトス)とかのニックネームを使うから、平気なのかな……?
追記:太宰の作品は著作権が切れているので、青空文庫で読めます。
ちなみに、私は新潮文庫版を持っていますが、太宰の作品中今のところ一番好きな「駆け込み訴え」も同時収録されているので、オススメです。