睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

「まほうをかけられた舌」安房直子

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 フォア文庫567円。  

少し前の話になるが、私が働いていた事務所には「女性だけのお食事会」なるイベントが存在した。  

何だかよく分からないけれど、季節ごとに、全員強制参加で仕事終了後に食事に行く、というはっきり言って、面倒なイベントだった。

(女だけどとね……店の場所が悪かったり、味がイマイチだったりすると、オツボネーズにクソミソにけなされたり……。まあ、多くは語るまい)  

クリスマスにはプレゼント交換するんだぜ。小学校かよ!しかも、プレゼントの値段は500円まで!値段も小学生並み。  

その行事で、ちょっとした料亭風の処に行ったときのこと。  

おツボネーズのおばさまたち(主婦)は、出てくる品出てくる品「これって何が入っているのかしら?」と、推理し合い、店の人に聞いていた。  

(そんな風に楽しげにしていたくせに「料理イマイチだったわね~。うちでも作れるわ、あれくらい」と終わった直後、不満を漏らしてましたが……) オツボネーズの皆さんは、主婦業の余暇でお金をもらいたい、という感じの人たちだったため、料理とかには関心が高いのだ。主婦として立派。(その分、仕事には不熱心だが)  

こういう皆さんは、さぞ「まほうをかけられた舌」を持っていたら、便利だろうに。

「まほうをかけられた舌」は、お料理を食べると「おから ニンジン 油揚げ 砂糖大さじ5杯 塩小さじ2杯 仕上げにローリエ」などと、そのお料理に使われている材料が瞬時に分かってしまう舌なのだ!(おからをローリエ……!?適当に書いたんで!)  

スバラシイ!  

分かった材料通りにお料理すれば、すっかり同じ料理が出来上がる、という寸法。  

料理人にとっては、まさに垂涎の一品!これを得るために、悪魔に魂を売ってもいいくらいだろうなあ。  

このお話の主人公は、その魔法をかけられた舌で、方々の名店レストランの人気商品を食べまくり、まったく同じ料理を作る。そして、主人公のお店は大繁盛するのだ。(ズルイ!という批判は的を射ています)  

料理に必要なのは腕じゃない。舌さ!」という魔法使いの主張は、「なるほど~」と幼い私を唸らせた。  

いや、オトナになってから考えれば、火加減とか調味料投入の順番とか、その他諸々、おいしい料理作りには、魔法をかけられた舌だけじゃ足りない、と思わんでもないですけどね。  

でも、この舌があったら、おいしい料理を自分で作れるんだ~と、思うと夢は広がる。  まさに「家庭で名店のお味」だ。  

この舌があったら、「帝●ホテルのカレー」とか「ホテルオーク●のハッシュドビーフ」とか、缶詰で買わなくてもすむなあ。買ったこと無いけど。そのうえ、食べたこともないけど。貧乏人にはそんな贅沢はできねえ!  

または、我が家大好物の「崎陽軒のシュウマイ」すらも、自家製で……!!  

作るの面倒そうだけど……。  

しかし、もし、この舌を私が以前働いていたおツボネーズのみなさんが手に入れてしまったら、もっとお店選びとか大変になるな……。  

「こんな手が込んだもの、作れないわ。それに、手が込んでいる割においしくないわね」とか「値段の割に、たいした調理してないね」とか「これは素材だけの味だから、せっかくの舌がもったいない」とかとか……。うう。容易に想像できるわ。  

やはり、この魔法をかけられた舌はお話の内容通り、なくていいものなのかもしれません。