睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

「人喰いの滝」有栖川有栖(「ブラジル蝶の謎」収録)

ブラジル蝶の謎 講談社ノベルス818円 文庫は579円     

先日、久しぶりにまとまった積雪があった。10センチ弱くらい。おおっ!すごい!  

たまに雪が積もると、なんだか嬉しくなってしまって、庭の新雪にぽすぽす足跡をつけて喜んでいる私である。  

いい年だけど、気持ちだけはまだ若いから。うふ。  

もっと若かったら、雪の妖精(「ここはグリーンウッド」にて作り方が紹介されてます)にもトライしてみるんだけどねえ。そこまでははじけられないお年頃。歳月って残酷ね。    

 

さて、雪に足跡といえば、推理小説の定番である。  

死体発見!しかし、雪に残された足跡は殺された本人のもののみ!犯人はどうやって犯行現場から立ち去ったのか!?  

というパターンは、いわゆる密室モノとして、かなりの頻度で登場する。使い古された設定にどんなトリックを駆使するのか、が作家の腕の見せ所。  

名探偵コナンとかだと、テグスとかセロテープ(コナンはセロテープトリック多し。そんなに上手いことはがれるのか……?)を駆使して、なんか大がかりなことやってるものが多い気がする……。  

正直、あの手のトリックは「そういうもんかな」と思うだけで、納得いかないし、面白くない!自分で試してみるわけにもいかないしねえ。  

だから名作「本陣殺人事件」(横溝正史)も「へー」という感想しか抱けなかったわ、私。  

雪密室モノで、私が「最高である!」と思っているのは「人喰いの滝」のトリックだ。

注:ここからトリックのネタバレを書きます。嫌な人は見ないでね)  

雪が積もった道に「人喰いの滝」へ一直線に向かう足跡が残っている。他の足跡は第一発見者の往復のものだけだ。  

彼は自殺したのだろうか?  

違うのである。他殺なのだ。やっぱり!どうやって!?  

なんと犯人は、雪がまだ降っている最中に、長靴を一歩に一足ずつ残したまま(!)、殺害した人物を背負って「人食いの滝」へ向かい、死体を滝へ投げ捨てる。  

長靴を残したまま、帰宅。翌朝、長靴を回収しつつ、「人喰いの滝」へ向かい、第一発見者を装うのだ。(ちなみに、回収した長靴は「沈んだモノは二度と浮かんでこない人食いの滝」に捨てる)  

このトリックは目が覚めたね!  

一面の雪の中、延々続く、長靴の列。その数20足!  

なんてシュールな光景なんだ!かなり笑える。  

作中では「さながら透明人間が行進しているような奇妙な光景」と書いてある。うん。かなり奇妙だよ、その光景。  

しかも、回収は翌朝だ。一晩中、雪の中に大量の長靴がぽつぽつ……。誰かに見られたらどう説明するんだ!?雪降ってるから大丈夫?  

トリックとしては良くできていると思う。  

テグスとかの仕掛けと違って、わかりやすい!納得出来る。且つ面白い!(これが最重要ポイント)  

でも、犯人は20足もの長靴と死体を抱えて、一歩一歩長靴履き替えて行くわけでしょ……。  

すっごく大荷物で、そんなバランス悪いことができんのか!?と思ったのは私だけでしょうか……?  

ついでに、20足もの同じ種類の長靴を購入した犯人は、「私を疑ってください」と言っているようなもんじゃなかろうかねえ……?絶対店から足がつくよ。    

私がこの話を読んだことを友人GOちゃんに言ったとき「ああ、読んだんだ。長靴の列……」と言われたよ。GOちゃんにも強い印象を残したらしい。  

以後、私たちの中では「有栖川有栖といったら、長靴よね」という共通認識ができた。  

さらに、私の中では「雪密室といったら長靴」という認識も確立。  

今後、このトリックを超えるものが出てくるのかどうか楽しみだ。  

でも、最近、推理小説読んでいないなあ……。また、御手洗モノとか読もうかなあ……  

 

この文章を書いている最中に、またもや雪が降ってきた。  

わーお。先日の雪がまだ日陰とかには残っているのに!  

明日の朝、真っ白の世界に足跡をつけるのが楽しみです。