「銀曜日のおとぎばなし」萩岩睦美
といっても、そこは近所のホームセンター付属の施設であって、かつての華族のお屋敷、とかではない。
でも、四季折々の花が咲いてきれいなの~。園内のレストランでは3段トレーのアフタヌーンティもいただけるしさ。乙女の夢。
私とシロさんはその庭で、「どう?悩める乙女のポーズよ」などど、阿呆な写真を撮りまくっているのだ。人があまりいないので、最適なの。
先日、その庭の前を通りかかったときに、シロさんは言った。
「庭なんだから、その辺のフェンス乗り越えれば入れるんじゃないかな……?入園料浮くよ」
……いかん。そんな考えは!人倫にもとるわ。
でも、私の口をついて出たセリフは 「「銀曜日のおとぎばなし」でロンドン動物園に行くときに、ピーターが「動物園なんてものは金払ってはいるもんじゃないぜ」とか言って、フェンス乗り越えてたよね?」
であった。
「……ピーターって誰よ?」
残念、シロさんは「銀曜日のおとぎばなし」を知らなかった!
なんだよ~同級生のくせに、当時「りぼん」を読んでなかったのか?いや、読んでいても、そんな細かいエピソードは忘れ去っているかしら?ちぇっ。
件のエピソードは「銀曜日のおとぎ話」第2部(と銘打っているわけではないが)のポールとピーターのお話だ。
「ピーターはね、ロンドンの下町?みたいなところで育ったちょっとワルの子なの。でも、お母さんが病気で、自分が働いたりしてる優しい子なのよ」
「おお!典型的じゃないの!ステキ!貧しいけれど、心優しい少年。私の好物だわ!」 シロさんは俄然のってきた。少年好きなのだ、彼女は。
私も説明に熱が入る。「銀曜日のおとぎばなし」も好きだし、少年も好きなんですもの。えへ。
「対するポールは金持ち貴族のぼんぼん。苦労知らずに育ったから、素直でかわいいの。ピーターに出会って「兄貴」と慕うようになるのよ」
「ますます典型的じゃない!いいね!少年二人!ぐふ(何かを想像しているらしい)」
「でね。話はさらに典型的でさ、実はピーターは、ポールの家(金持ち)の子だったの!ポールは養子なのさ」
「ええっ!ちょっと複雑になってきたわ!なんか怒濤の展開ね。運命の波に翻弄されちゃう2人。僕は本当は誰なんだろう?みたいな!かーっ!」
「ピーターの病気のお母さんが、昔、ピーター実父のモデルをしていてね。好きになっちゃうのよ。でも、ピーター父には妻も子(ピーター)もいたので……つい出来心でピーターを誘拐しちゃうのよ」
「おお!父は画家なの?ますます乙女心を揺らす設定じゃないの!」
「そうなの。だから、ピーターも絵の才能があってさ~。病気の母は「元の家に帰ればこの子の絵の才能も伸ばしてあげられる」と、ついに自殺未遂までしちゃうの」
「すごいわ!まさに私たちが愛する少女漫画の設定!いいわ~!」
「本当にいいのよ!でもね、ここまで長々とストーリーを話したけれど、主人公は小人なの」
「は?」
という会話を交わしました。
いや、本当に主人公はポーという名前の小人なんですよ。
かわいいんだ。ポー。相棒はリルフィーという名のヒタキ科の鳥。
一部はこのポーの出生にまつわるお話。母親との葛藤が泣けるの。
しかし、当時は思わなかったけど、今「ポー」と聞くと「ポーの一族」が浮かんできてしまうなあ。エドガー、君はどこにいるんだい?
とりあえず、シロさんには「銀曜日のおとぎばなし」を貸すことにして、その場では庭に入らずに立ち去った。
次、庭に行くときはちゃんとお金を払いますよ。
でも、ポールとピーターごっこができるとなると、ちょっと心が揺れるなあ……。フェンス乗り越えか……。
いや、しません。そんなこと!