睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

尾瀬ヶ原~雪中行進~

大型連休。私はついにあこがれの地に行ってきた。

尾瀬

夏や秋には何度も行っているが、5月頭のこの時期は行ったことがなかった。

なぜならば、この時期の尾瀬はまだまだ深い雪に覆われているから。尾瀬の代名詞であるミズバショウすらまだ咲いていない。

私は6月くらいまでは尾瀬に入っちゃいけない時期なのかな、とすら思っていた。

しかし、何かの本で「GWの尾瀬は一面雪で、この時期だけはどこを歩いてもいいのです」ということを読み、「行きたい!」と気持ちが一気に加速したのだ。

尾瀬でどこを歩いてもいい!なんて魅力的!

通常の尾瀬はとにかく行儀正しくしなければならない。

木道を一列に右側通行で歩き、決して湿原に足を踏み入れてはならない。かつて、ハイカーが踏み荒らしたせいで湿原が失われてしまった悲しい過去があるので、そこは徹底している。

もちろん私も尾瀬に行くときは、当然のこととして、木道をお行儀良く歩いて楽しんでいるのだが、羽目を外せるチャンスがあるのなら、その誘惑に乗ってみたい気持ちもあるのだ。

ちょい悪」ってこういうことを言うのだろうか。吉永小百合演じるお嬢様が浜田光夫演じる不良に恋してしまう、あの感じ。(古すぎたか…)

 

 この時期の尾瀬はまだ交通規制前である。自家用車で鳩待峠まで乗り入れることができる。

今回、同行の父は「鳩待峠まで行ければ楽だな。だけど、道が凍結していたら危険だから、きちんと調べて行った方がいい」と、事前に尾瀬保護財団(?)に電話して確認したらしい。父は石橋をたたいて渡るタイプ。行き当たりばったりの私とはまったく血のつながりを感じない…。

そんな父をあざ笑うがごとく、当日、車を走らせる私の前に(運転は私だ)「鳩待峠満車」の表示が現れる。鳩待峠まで車で行けなかった…。

やっぱりね。GWだから、相当早く行かないと鳩待の駐車場は埋まっちゃうだろうな、と思っていたけれど、予想通りだ。

ちなみに戸倉付近では雪は無く、ちょうど桜が満開。凍結の心配はなく、ノーマルタイヤの私でもまったく心配なしだ。(鳩待までの道も除雪されているので、ノーマルでも多分大丈夫)

それにしても、ニュースでは北海道で桜が満開と言っていたようだが、このあたりは北海道と同時期なのか。さすが、雪まだ深いという尾瀬のお膝元だ。

 

8:00。戸倉の第一駐車場に車を停めて、乗り合いタクシーで鳩待峠をめざす。

台数はハイシーズン並に出ていたので、すぐに乗車できた。値段も同じ。

他の皆さんはスキーやスノーボードを持った方が多く、どうやら至仏山に登って、山スキーを楽しむらしい。至仏山はこの後、入山が規制されるので(確か6月いっぱい)、今のうちにいく、という人が多いようだ。

スキー板やボードを担いで雪山を登り、スキー場でも無い斜面を下るなんて、かなり多方面の能力が必要な気がする。猛者だな…。

 

8:30 鳩待峠着。

小屋の周りは除雪されているが、よけた雪が積み上げられて、雪の壁になっている。

荒ぶる気持ちを抑えきれずに、その雪壁によじ登り、天辺に仁王立ちしてみる。

あたりは一面の雪景色!

そこは完全に冬だ。

f:id:suishian:20190506003007j:plain

一面の雪!至仏山に向かう人が多かった。

本当に雪が全然溶けていない。

実は、本では「一面の雪」と書かれていたけれど、最近、雪少ない年が多いし、まあまあ溶けていて、残雪ありくらいの状態なのかな、と半信半疑だった。木道も顔を出している部分も多いのだろうと、高をくくっていた。

すみませんでした!

木道は影も形もない。雪の遙か下だ。

尾瀬ヶ原に至る道のゲート(確か、杭みたいなものがあったはず)がどこだったのかもわからない。

「道がわからない…。まあ、どこ歩いてもいいようなもんだけど」と父もこの真っ白の景色に圧倒されている。

とりあえず、アイゼンをつけて前の人たちのトレースをたどって山ノ鼻を目指す。

夏とはまったく異なる景色に若干不安を覚えるが、トレースがあるから大丈夫だ、と自分に言いきかせる。ああ、やはり先達はあらまほしきものなり

途中まで、おそらく「ミズバショウ咲いてるんじゃない?」という軽い気持ちでやってきたと思われる家族連れ(スニーカーで平服)もいたが「もう帰れなくなる…」とファミリーの父が引き返す決断を下していた。正しい判断だと思うよ、お父さん。

f:id:suishian:20190506110228j:plain

先達のトレースが心のよりどころ。

 

10:00、山ノ鼻着。ビジターセンターは雪に埋もれていた。しかし、何軒か開いている山小屋もあり、テントも結構張られている。

ここに泊って至仏山登山もいいなあ。でも、まずは7月以降の夏山でトライしたいところ。

 

山ノ鼻を抜けると、ついに尾瀬ヶ原だ。

大雪原。

真っ白な雪原が四方に広がり、その東西には至仏山と燧ヶ岳がすっくとそびえ立っている。遮るものはない。

そのまっただ中に私が立っている。

人影は少なく、この景色を一人占めしているような気持ちになる。最高だ。

f:id:suishian:20190506105756j:plain

至仏山どーん!

f:id:suishian:20190506123504j:plain

逆さ燧。キレイ。

確かに、どこを歩いても問題なし。だって、湿原は雪の下だから。木道もどこにあるのかまったくわからない。

嬉しくなって雪原をうろうろする。走っても大丈夫だ。

ふと「犬はよろこび 庭駆け回り」という雪やこんこのフレーズが私の頭をよぎるが、それを強引に横にどかし、駆け回りを続行する。別にかまわない、わんこでも。

 

誰も足跡をつけていない場所に自分の足跡をつけるのって、どきどきして楽しい。

学生の頃、雪が降った後、人が全然いない植物園に行って、積もった雪にさくさく足跡をつけて回ったことがあったな…。ついでに雪の妖精(雪にダイブし、手足を大きく動かしてつくる跡。「ここはグリーンウッド」に書いてあったので、あこがれていた)も作成した。

変なことに労力を費やす性格は、昔からまったく変わっていない。

 

 しばらく雪原をうろうろして気持ちを落ち着けた後、先達のトレースをたどるルートに戻る。そのまま、好きなように歩いて前に進んでもいいのだが、やはり安心の道に戻りたくなってしまったのだ。

というのも、尾瀬には池塘がたくさんあり、その部分はさすがに雪も氷も薄くなっている。うっかり踏み込むと水に落ちてしまいそうで怖いのだ。

現に川を渡る部分の雪が薄くなっていて、私も父も片足水に落ちた…。(先達のトレースをたどっていたのだが…)

一瞬「タイタニック」のレオ様が氷の海に沈んでいくシーンが脳裏をよぎった。大丈夫だ、尾瀬池塘は多分海より浅いぞ、私!でも、かなり怖かった…。

ちなみに、この日は何故か上下とも裏起毛素材の服を着ていたので、一回水に落ちたくらいでは染みこんで来なかった。すごいぞ、モ●ベル!

 

牛首 10:50 竜宮 11:30

標識が雪に埋もれているので、ポイントがよくわからない。夏の尾瀬なら、休憩のためのベンチがあちこちにあるのだが、雪に埋もれているので、これまたよくわからない。

f:id:suishian:20190506122418j:plain

多分、牛首の標識

とにかく黙々と先達のトレースをたどって、雪原を歩く。

牛首から先はほぼ無人で、雪原独り占めという気持ちから、雪原ひとりぼっち(父もいるのだが…)という気持ちにだんだん変わってくる。

雪道歩きの疲れも蓄積してきて「八甲田山の行軍、本当に辛かっただろうなあ…。(高倉)健さんは地元の人に案内を頼んだで生き延びた。やはり、先達は大切だよなあ」と、不穏な事をずっと考えていた。 

 

竜宮小屋手前、そんなやさぐれてきていた私の気持ちを一気に上昇させるものを発見する。

ミズバショウ、咲いてる!

f:id:suishian:20190506123856j:plain

ミズバショウ ひょっこりはん

すこしだけ顔を出していた木道の影に、咲いているミズバショウを発見したのだ。

「咲いてるじゃないか~!」と一気にテンションが上がる私と父。

しかし、父は水に片足落ちた際に、カメラも水につけてしまい、写真撮影不可になっていたため「なんでこんな大事な時に、カメラが…!!」と悔しそう。

仕方が無く、スマホのカメラで写真を撮っていた。まあ、いいじゃない、私もスマホのカメラだし。

この周辺は雪解けが早いらしく、あちこちでミズバショウのつぼみ(?)が顔を出していた。もうすこしで、ミズバショウだらけの尾瀬の季節だ。

 

雪道をどんどん、どんどん進むと竜宮小屋がすこしづつ大きく見えてくる。なんだか、ほっとする。山小屋って暖かくてありがたい存在だ。

竜宮小屋はすでに開いていて、ベンチも掘り出してあったので、ここでお昼ご飯を食べて折り返し。

夏の尾瀬なら少し物足りないくらいのコースだが、慣れない雪道歩きだと思えば、少し頑張りすぎたくらいだったかもしれない。

 

12:00 竜宮小屋発

また先達のトレースをたどって帰路につく。人が全然いないので、父と雪道を行進する感じ。

広いな。大きな尾瀬にすっぽり包まれている感じがする。

f:id:suishian:20190506125530j:plain

竜宮小屋

13:40 山ノ鼻 15:10 鳩待峠

夏の尾瀬だとラストの地獄の階段に苦しめられるのだが、雪に埋もれているので、割と楽に登れた。父も「思ったより早く着いたな~」と言っていた。

 

真っ白大地の尾瀬、とてもキレイだった。そして、大きかった。

夏の花咲く尾瀬、秋の紅葉する尾瀬に加えて、雪景色の尾瀬も堪能できて満足だ。

いつ行っても様々な姿を楽しめる尾瀬

今年は何回行けるかな。

f:id:suishian:20190506131815j:plain

景鶴山。竜宮小屋に泊っていた方が、翌日登ると言っていた。

<コースタイム>

8:00戸倉(駐車場)…8:30鳩待峠…10:00山ノ鼻…10:50牛首…11:30竜宮(昼食30分)…13:40山ノ鼻…15:10鳩待峠…15:45戸倉(駐車場)