睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

「あした、山へ行こう!」鈴木みき

何事もスタートする時には初期投資が必要だ。

登山を始める時にも、登山道具を揃えるべし、と色々な入門書に書かれている。そして、その道具は登山道具専門店に行って、店員のアドバイスの元、揃えるとよい、と判で押したように、どの本も書いている。

 

登山用の道具はハイスペック。頑丈、防水、軽量など、さすが!の機能性を備えているものが多い。山は危険と隣り合わせの場所なので、性能がよいものが必要なのだ。

しかし、その分お高い。

手元にある入門書に掲載されている、登山の三種の神器の1つであるカッパのお値段は、上下セットでだいたい25,000円から。ファストファッションが定着した現代の日本ではかなり躊躇する値段だ。

靴やザックやその他諸々、山に行くの、初めて〜、という人が、一式揃えようとすると、6桁まではいかないものの、相当な金額になってしまうと思う。

ハードル高すぎ!と思うのは私だけだろうか。

これでは簡単に友人を登山に誘うこともできない。

「山に行こうよ。道具に5万円以上かかるけどね」なんて気軽に言える人がいるだろうか…。

 

そんな時、鈴木みきさんの「あした、山へ行こう!」を読んだ。

サブタイトルに「日帰り 「山女子」のすすめ」と銘打っているとおり、女性向け登山入門のコミックエッセイだ。

入門書なので、当然、登山道具紹介のページもある。他の入門書同様、押さえるべきところを押さえた道具紹介になっているのだが、「私は、まず家にあるものを探してみました」「(日帰り登山なら)山用じゃなくてもいいんじゃないかなー」などの発言が随所にちりばめられており、私は「おお…!!」と大きくうなずいた。

私も最初、家にある適当な道具で山に行っていたのだ。

 

数年前、山登りらしきことを始めたきっかけは、友人キキちゃんの一言だった。

「富士山登ったので、登山道具一式揃えたけど、その後、一回も使ってない

キキちゃんは私とは異なる人種、「形から入る」人だった。しかも、ちゃんと登山用具専門店で「富士山に行くので、必要な道具一式見繕ってください」と言って購入したそうだ。

すごい…。

私は鈴木みきさんと同様、登山用具専門店は「ここは玄人が来る店だぜ」と言われそうな気がして、こわくてなかなか入れなかったタイプだ。(念のために申し添えるが、入ってみたら、全然怖くなかった)

そして、購入後、何度も使うかどうかわからない趣味の道具に高いお金を払いたくない、という初期投資の出来ないドケチ人間だ。

キキちゃんの発言に「一式揃えたのに、使ってないなんて、もったいない!そうだ、一緒に尾瀬に行こう!」とついつい口走ってしまったのだ。(尾瀬は地元なので、すごく前に行ったことがあった)

他人の初期投資にまで、もったいない精神を発揮してしまう私。

だって、具体的な額は聞いていないけど、相当な額だったに違いないよ。それを富士山たった一回しか使わないなんて…。

それにしても、こんな真逆な性格で、私とキキちゃんはよく長年友情を保っていられるものだな。みんな違ってみんないい。(by金子みすず

 

そんな成り行きで、キキちゃんを我がG県にお招きして、尾瀬に行くことになったのだ。

キキちゃんは登山フル装備だが(何しろ富士山用の道具だ)私は山道具率ゼロ。アンバランスな2人組だが、お互いにマイペースなので特に気にしない。

私は尾瀬に行くことになったからと言って、何ひとつ道具を買ったりしなかった。キキちゃんみたいに、その後、一度も使わなかったらもったいないから。←ドケチ。

私の基本装備は、コ●バースのスニーカーコンビニのカッパ(上下一体型)、ユ●クロのザックだ。すべてうちにあった。

服装も、登山始めたての鈴木みきさんと同じく綿のTシャツに、チノパンを合わせて、帽子や靴下はいつも使っているもの。

本当に低装備。山をなめくさった格好である。

でも、基本的に平らな木道をてくてく歩く尾瀬ならば、この装備で十分なはずであった。

雨さえ降らなければ…。

 

何度も書いているが、私とキキちゃんは強力な雨女である

この時の尾瀬も、やはり雨であった…。日程は山小屋泊の1泊2日だったが、両日ともずっと雨…。

 

 雨なので、当然、カッパを装着する。キキちゃんはゴアテックスだが(さすが、山道具専門店で購入しているだけのことはある!)私はコンビニのビニールカッパだ。

 まわりの諸先輩方の視線が痛い。

作中で鈴木みきさんは、軽装登山で、「山をなめてる」という白い目にさらされた、というエピソードを紹介しているが、この時の私ほどでは無かったであろう、きっと。

「あのこ、あんなカッパで…。全然、山のことを知らないな。ダメだねえ…」と、突き刺さるような視線を浴びまくった。コンビニカッパは、諸先輩方の信頼度は限りなくゼロに近かったのであろう。

今ならわかる。すみません、当時、本当に初心者以下だったので。

ちなみに、泊った山小屋の下駄箱で、皆のトレッキングシューズに囲まれて、私のコ●バースは異彩を放っていたことも付け加えておく。

 

それでも、当時のペーペーな私は割と楽しく雨の尾瀬を歩いていた。キキちゃんも「夏が来れば思い出す~♪」とご機嫌に鼻歌を歌っていた。

コンビニカッパでもちゃんと雨を防いでくれるし、コ●バースでも足が痛くて歩けなくなったりしないし、私にはこれで十分だ、と満足してたのだ。

しかし、尾瀬沼湖畔の山小屋でカッパを脱いで、休憩した時である。

私は「いっぱい歩いたから、のど渇いた!炭酸だ、炭酸!」と、いそいそとコーラを買って「くはーっ!染みるぜ!」と飲み干した。

コーラ片手に「ニッコウキスゲキレイだったね」などど、キキちゃんとしばらく話していると、何だか冷える…。寒くなってきた…。

透湿性の無いコンビニビニールカッパで尾瀬を歩き回ったので、カッパの下は汗でびちょびちょ。カッパを脱いで、外気に触れたので、一気に体温を奪われたのだ。気化熱って本当にすごいな、と妙に感心する。

このままでは寒さに負けてしまう、と思いすぐにカッパを再装着。湿ってるけど、暖かい…。

その後、カッパを脱ぐこと無く、登山口に帰着した。

 

山道具率ゼロ装備でも大丈夫ではあったけど、やっぱりコンビニカッパはやめた方がいいかもしれない。

この実感を元に、その後、キキちゃんと屋久島に行った際に、ようやくカッパを買ったのだった。(でも、実はそれは数年後。それまではコンビニカッパを愛用)

ちなみに鈴木みきさんも「まずはカッパを買いましょう」「透湿性のないビニール素材はNG!」と書かれている。…おっしゃる通り。

でも、家にあるものから始めればいいのよね。作中で、お母さんの「メーカー品のレインコート」でも大丈夫、とひっそり書いているし。

 

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当時の写真。ニッコウキスゲの時期でした。


 その後、登山が本当に楽しくなったので、靴を買い、ザックを買い、帽子を買い、靴下は山用のふかふかだし、Tシャツは速乾性のポリ素材になっている。

もはや、諸先輩方に白い目で見られることもない。むしろ、時々、サンダルとかで登山をしている人を見かけると「ひゃー」と見てしまうようになった。さすがの私もサンダルでは登っていなかったぞ。

しかし、実は未だに装備をグレードアップさせていない部分もある。

鈴木みきさんが「肝心要」と言っているベースレイヤーである。

…未だにユ●クロのエ●リズム着ている時がある…。

汗だくになっても、さらっとしてていて、そして、あのお値段。非常にイイと思うのだ。

山用じゃなくても十分だ。

冬山に行くとかであれば、それにふさわしいものにすると思うけれど、今の私にはユ●クロでちょうど良い。

鈴木みきさんの言う「適着適山」の精神で、これからも徐々に登山道具を買い足していくつもりだ。

最初に揃えていないからこそ、徐々に買い足していく楽しみがある。

ちなみに今欲しいものはサングラスだ。近いうちに買っちゃおうかな~♪

 

あした、山へ行こう! 日帰り「山女子」のすすめ

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