睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

鳴神山~ソロできままに~

ここのところ怠惰な生活を送っていたせいで、妙に体が重くなった気がしていて(気がするだけではなくて、実際に重くなっている)、夏山シーズン前に足慣らしでどこかの山に行っておきたいと思っていた。

G県内の近めの山で、手頃な山はないかな、と探していたところ、以前、職場の上司が「眺めがいいよ」とお勧めしてくれていたことを思い出し、鳴神山に行くことにした。

この山には、「カッコソウ」というここにしか咲かない花があるそうで、いつか見に行こう、と思っていたのだが、残念ながらカッコソウの時期はすでに過ぎていた。ゴールデンウィークくらいが見頃らしい。

今回は世情を考慮してソロで行く。

滅多に一人で山には行かないのだが、マンボウちゃんの時期だったので、一人ならよかんべ(G県方言)と、一応気にしてみたのだ。

これで今流行のソロ活女子の仲間入りをしたと胸を張ってもいいだろう。

 

鳴神山はG県東部の桐生市にある980mの山である。

登山ルートはいくつがあるが、一番利用されているという大滝登山口(木品登山口)から登るコースにする。(情報源:上毛新聞社「ぐんま百名山まるごとガイド」)

だいたい1時間半くらいのコースタイムらしいので、多分私は2時間くらいかかるだろう。最近、ようやく己の実力を素直に認められるようになった。遅いんです、私。

 

全国的に人気のある山と違って、こういう里山は得てして登山口までの道がわかりにくいことが多いが、今回は迷うことなく到着する事が出来た。私にしては珍しい。

途中、ユンボで道路を全面にふさいだ工事箇所があったが、道路誘導員さんに「この先に行きたい」と言ったら、ユンボがカタカタと道幅の広いところまで移動して、道を空けて通してくれた。珍しいタイプの工事現場。たぶん、ほとんど車は通らないのだろう。

 

9:30 登山口到着

案内の看板の横に張られた「山火事予防」ポスターに描かれたタヌキ?アライグマ?の目の炎の迫力に圧倒される。

昨年の冬はこのあたりで山火事が多発した。

火の用心、マッチ一本火事のもと」と心の中で唱えてみる。

多分、この標語は若い世代は知らないだろう。

昔、テレビCMで「人類 みな兄弟!」と、この地域でなじみの某艇関係の方が大声で唱えたあと「戸締まり用心 火の用心」と続けて流れるのを聞いて、我が母は「兄弟なのに用心するのか…」と疑問を感じだそうだ。

ああ、昭和も遠くになりにけり。

f:id:suishian:20210627192633j:plain

看板横の山火事ポスター。タヌキかな…?

樹林帯の登山道はしっかり整備されていて、緩い傾斜で歩きやすい。この季節は林を抜ける風がちょうど涼しく、とても気持ちが良い道である。

小鳥のさえずりがうるさいほどで、ウグイスのホーホケキョが響き渡っている。

その他、私がわかる鳴き声はせいぜいシジュウカラのツツピーくらい。

鳥の鳴き声もわかったら楽しそうだ。

初夏の若葉の頃の登山は楽しい。

うきうき歩いていると、すぐに大滝に到着。(9:45)

小ぶりだが、風情があってキレイな滝だ。

f:id:suishian:20210627193924j:plain

赤い鳥居は緑に映える。

しばし、滝を眺めて、さらに頂上を目指す。

大滝のところにあった案内板は、そのまま滝の横あたりを登っていく方向を指している。

忠実にその方向に歩を進めるが、すぐに踏み跡らしきものはどんどん薄くなり、なんだか急勾配の崖っぽい感じになってきた。

足下には昭和を感じさせる、今よりもちょっとダンディな彼が描かれたポッ●の細長いコーヒーの空き缶が落ちている。

 この道で合っているのか、と不安に駆られて後ろを振り返ると、看板とは反対方向にしっかりとした道があるのを発見する。

でも、看板とは方向逆だし、頂上の方向とも(多分)逆だし、と自分を励まして、さらに崖を登る。

ほどなく、しっかりした登山道に到達。完全に脇から崖を登ってきた、という、たどり着き感だった。

登山道を振り返ると、先ほど、方向が逆だから、と切り捨てたしっかりとした道であった。途中でカーブしてた。

看板の嘘つきめ。方向逆じゃないか。

一応、すぐに登山道に出たからよかったけど、このまま迷ったら遭難するところだった。

登山事故のほとんどは道間違い。低い山でも、道間違いは命取りだ。しかも、今回はソロである。いつも、一緒にわーわー言ってくれる相棒のノムさんはいない。

危なかった…。

 

大滝以降は、順調に登山道を登っていく。

道沿いに川が流れていて、その水の音も気持ちいい。

杉が真っ直ぐに空に向かって伸びている林から、時々光がきらきらとまぶしい。

私は花粉症とは全く縁がないので、杉に対して特別な思いはないが、花粉症の人は複雑な思いなのだろうか。

f:id:suishian:20210627200107j:plain

気持ちいい登山道。

それにしても、まったくと言って良いほど人がいない。ずっと私一人である。

ふと、今日は熊鈴をもって来なかったことに気づき、急に熊とかイノシシが出たらどうしよう、という不安にかられる。

熊がいるかどうかわからないが、イノシシは絶対にいる。

いつもなら相棒のノムさんが熊鈴をカラカラさせているし、二人で騒がしくアホな話をしているので、熊もイノシシも近寄ってこないだろうが、今日は一人である。

本当に誰もいないので、「おかーをこーえー いこーうよー」と小声で歌ってみたが、さすがに何か恥ずかしい。

こうなったら、何でも知っているというSiriさんとおしゃべりするしかないのか。

一人でSiriさんとぶつぶつ会話しているなんて、街でもちょっと怖いのに、山ではもっと怖いのではないか。

いろいろ考えたが、結局、時々トレッキングポールを打ち合わせてガシャガシャ鳴らす、という方法に落ち着いた。

これで効果があるのかはよくわからないが、まあ何もしないよりはきっといい。

 

10:30 中間点

標識があり、休憩用のベンチ(というか丸太)があったので、ご厚意に甘えて水を飲んで休憩。

やっぱり体がまだ汗をかくことに慣れていないせいなのか、がっつりと汗だくになっているので水がとにかく美味しい。

「うまーっ」と声に出すと、充実感が増すような気がする。

 

ちなみに、ここで本日初めての他の登山者さんと遭遇した。

こちらも女性のソロ登山者さんであった。ちょっと安心。

 

中間点からの道も、樹林帯をひたすら登るルートで、ずっとずっと登り。下ることは多分一度もなかった。もくもくと登る。まあまあハードである。

途中、きのこにときめいたり、絶妙なバランスで積まれたケルン(?)に感動したりしながら、とにかく登る。

 

11:30 肩の広場

頂上だ!と思ったが、ここは頂上の一歩手前

鳴神山は眺望が良い、と聞いていたのに、ここは全く眺望無し。頂上の訳がなかった。

ここには雷神岳神社と、ものすごく立派な避難小屋があった。中にこたつ有り。シュラフなくても泊まれる。多分。

ここで休憩するのもいいかも、と思ったが、今回はのぞき見だけして、頂上を目指すことにする。

 

11:45 頂上(桐生岳)980m

肩の広場からの急登を登ると、すぐに山頂だ。

周りの木々で、少し高いところからじゃないと景色は見られないが、360度の眺望である。この日は、雲多めながらも晴れだったので、まずまずの景色。

ちょっとした岩の上にのって、周りを眺めてひゃっほーと心の中で叫ぶ。

f:id:suishian:20210627231723j:plain

雲多めながら、なかなかの景色。

頂上はそれほど広くないが、小さな祠があり、それを取り囲むようにベンチがいくつが設置されていた。

そのうちのひとつをどーんと占領し、本日のお昼ご飯。

今日のメニューはサバ味噌パスタである。

私のレモンサワー夜会(一人飲み)のおつまみの余りのサバ味噌缶詰を、茹であがったパスタにまぶすだけ、というものすごく簡単な料理だ。

ゆで汁を出さないように、少量のお湯でパスタをゆでる、というところだけが気をつけるポイントである。

最後に、味噌とチーズはあうかな、ということでスライスチーズをトッピング。

なかなか美味しい。

広い空の下で食べると、それだけでもう美味しさが3割増しである。

 

ちなみに山頂にも迫力の「山火事予防」ポスターが貼ってあり、火を使ってお昼ご飯を作る登山者達への注意喚起もばっちりであった。

本当に、火は気をつけなければいけない。

火の用心。火の用心。

f:id:suishian:20210627233249j:plain

サバ味噌パスタ。チーズを添えて。

お昼ご飯を堪能した後は、同じルートをピストンで下る。

実は鳴神山は双耳峰であり、桐生岳と仁田山岳の二つのピークがある。

私が登頂した桐生岳と仁田山岳はすぐなので、この両方に行き、少し北側の鞍部から下る、という周回ルートをとることもできるのだが、めずらしく今回はそのまま下ることにした。ソロなので、気ままなのだ。

 

12:30 頂上発

行きと同じルートを下るのだが、行きにはわからなかったポイントが一つあり、帰りは見逃さないようにしようと思っていた。

それは、水場である。

事前に読んだ「ぐんま百名山 まるごとガイド」に水場があると書かれていて、ルート上にあった地図にも「水場」の文字が見えるのだが、どこなのかよくわからなかった。

多分、ぜーぜー息を切らしながら登っていたので、見落としたのだろう。

下りは多分若干余裕があるので、注意していればきっと大丈夫だ。

かなり汗だくになっているので、せっかくなので、冷たい水を飲みたいと思っていたのだ。

 

13:15 (多分)水場

特に何の案内も見当たらなかったが、ここかな、という場所を発見した。

岩の間から水がわき出ていて、ここから川の流れが始まっている。

多分、ここだろう。ここじゃなかったとしても、この水、おいしそう。

という感じで、水を汲んで飲んでみる。

一瞬「この水、飲めない水だったらどうしよう」という現代人らしい考えも頭をよぎるが、ちょっとくらい大丈夫だろう、という登山ハイ?に基づく楽観的な気持ちで、一気にごくごく飲み干した。

とても美味!冷たくておいしい!

疲れた体に染みわたる。

この美味しい水を家に持って帰ろうかとも思ったが、それは思いとどまった。

山で飲むから美味しいのである。

私が子どもの頃、父(山男)は山で汲んできた水をよく持ち帰って、冷蔵庫で冷やしていた。父は私に「おいしいから飲みなよ」と純粋な気持ちで言っていたのだろうが、当時私はそれがひどくキライだったのだ。

山ではおいしいのかもしれないけど、街ではなんか得体がしれない、というか、冷蔵庫で再度冷やしているというのが、なんか嫌というか…。

当時は登山が嫌いだったせいもあるが、登山を始めた今でもその気持ちは、わりと変わらずある。

あぶない、あぶない。水の美味しさにうっかり我を忘れて父と同じ行動をとるところだった。

f:id:suishian:20210627235902j:plain

シェラカップで水を汲む。

13:40 中間点

14:10 登山口

熊にもイノシシにも出会わず無事到着。よかった。次にソロで行く時には、絶対に熊鈴を忘れないようにする。

到着した登山口では、本日最高の青空が広がっていて、「しまった、今頂上にいたら、すごくいい景色なのではないか」とちょっと悔しく思ってしまったが、それは仕方がないので諦める。

次に来る時の楽しみにとっておくのだ。

また一人で来るのもいいが、今度は、冬に相棒のノムさんと来るのもいい。

違うルートもあるようなので、そちらから登るのもいい。

久々の登山で気ままにのんびり登ったので足慣らしになったのかは不明だが、とにかく楽しかった。緑が気持ちよかった。

今年はいつごろ梅雨が明けるのだろうか。夏山登山が今から楽しみで仕方がない。

f:id:suishian:20210628002720j:plain

絶妙なバランスのケルン?

<コースタイム>

9:30木品登山口…9:45大滝…10:30中間点…11:30肩の広場…11:45山頂(お昼休憩45分)…12:30山頂発…12:45肩の広場…13:15水場…13:40中間点…14:10木品登山口