「和宮様御留」有吉佐和子
「貧福 貧福 貧福……」
とつぶやきながら、毎日、職場の長い廊下を往復している。
なぜならば、最近、万歩計を付けているからだ。ピ●チュウのヤツ。ピカちゃん、意味もなく「ピカッピカッ」と鳴いてかわいいの。
毎日、あまりにも動かないので、一体どのくらい歩いているのか計測してみようと思って。
計測の結果、ごく普通に家と職場の往復で終える日の歩数はおよそ3000歩と判明!
3000か……。事前の予想よりは歩いているような気もするが(予想低すぎ?)、運動量としてはかなり低いんだろうなあ……。
これでは、あまりピ●チュウとお友達になれないかも……。くそう、ピカちゃんとラブラブになりたいよう!
それなので、仕事前の朝、職場の長い廊下をひたすら往復することにしたのだ。
100メートル近くある廊下をだいたい5往復。それだとほぼ1000歩くらいになるの。たいして時間もかからない。10分弱。
うーん、マンダム。我ながら、ナイスなアイデアだ。
ただ歩くのではつまらないので、「和宮様御留」で紹介されていた、幕末の公家の間で行われていたという呪い(まじない)を実行することにした。和宮生母観行院の兄橋本実麗(さねあきら)が作中で、こだわりまくっていた呪いだ。
それが「貧福 貧福……」である。
左足が「貧」右足が「福」。
歩き始めや門とか扉なんかに入る一歩目が「貧=左足」だと縁起が悪い、というよくわかんない呪いだ。
ちなみに「ひだり」の「ひ」が「貧」につながるからだそうだ。
うーん、そのあたりもよく分からん。なんでこんな妙なもんが……?
でも、そのわからなさが、公家っぽくて面白い。
私の愛する東久世通禧(卒論を書いた)もこの迷信を行っていたのかしら?うふ。ステキ。
江戸期の公家はやること無し、お金もなし。あるのは古さばかりなり。なので、不思議な迷信をみんなこぞって実行してしまうんだろうなあ。真面目だ。
あ、でも、子どもの頃「お墓の前を通るときは親指を隠して通らないと、悪いことが起きる」なんてことを言われ、真剣に親指隠してたよ、私!
別に公家じゃなくても、現代でもこういうのってけっこう生きているのかも。都市伝説!
「夜に口笛を吹くと蛇がでる」とか。(ちなみに我が家では「夜に口笛を吹くと泥棒が来る」と教えられてました。リアルだ……。どこで間違ってしまったんだろう?)
まあ、それはともかく、私が実行している「貧福歩行法(仮)」を簡単に説明したい。
まず、当然のことながら、歩き出しは「福=右足」である。扉や敷居などをまたぐときは必ず「福=右足」でまたぐことに留意する。
そのまま歩き続け、折り返し地点に到着するときは、「貧=左足」の足を軸に体を回転させる。
方向転換が終了したら、回転時浮いている「福=右足」で第一歩を踏み出す。
このパターンならば、間違いなく、「福=右足」で第一歩を踏み出すことができるのだ!すごいぜ、私!ふはははは!「貧福ターン」と名づけようかな~。うふ。あ、くだらないですか……?くだらないかもね……。
ちなみに、歩いているときは「貧福 貧福」をぶつぶつとつぶやきつつ歩く。つぶやいてないと、とっさの時(どんな時だ?不明)に対応しきれないのだ。
はたから見たら、すっごい変な人だ、私……。ただ、ひたすら廊下を歩いているだけでも変な人なのに、訳の分からん呪文みたいな言葉をつぶやいているのよ!
どうしよう、密かに「魔女」というあだ名をつけられてしまったら!いや、それはそれでいいか。キキとかハーマイオニーみたいだし。ちょっと違うか?
それ以上に、職場の人に「宗教じゃないです!」とはあらかじめ言っておかないとダメかしら?「貧福教」教徒だと思われたらまずいな。
こんな危険をはらみつつ、私は毎日コツコツ歩いているのだ。ピ●チュウと仲良くなるために!いや、違った!自らの健康のために!
そして、「貧福歩行法(仮)」により、私の運気を上昇させるために!
しかし、こんだけ気をつけているのに、全然運気が上昇していない気がする……。
おかしいなあ。カモン!福!