巻機山~バテバテでたどり着く楽園~
巻機山は私の中で長いこと憧れの山であった。
以前、職場の人(元登山部)から「巻機はいい。登山経験ゼロの友人を連れて行ったが、すごくよかった、と感謝された」と聞いていたからだ。
ガイドブックなどを読んでみると「穏やかな山容が美しく」なんて書かれていて、一面の緑の中に登山道がすっと延びている写真を見ると「この道を歩いたら、ものすごく気持ちいいだろう」と思ってしまう。
いつか、行こう、とずっと思っていた。
梅雨明けの夏山登山の一発目にふさわしい山を考えていたときに、巻機山に行く時が来たな、と急にピンときた。
最初はソロでもいいか、と思っていたが、山の相棒ノムさんが一緒に行ってくれることになった。心強い。
上越国境の山なのだから、近いのは当たり前と言えば当たり前なのだが、昔は山を越えないと行けなかった越後の国は今ではトンネルを通る高速道路が整備されていて、とても簡単にたどり着けるのだ。
国境の長いトンネル(関越トンネル)を走りながら「田●角栄ってすごいなあ。このトンネル作る権力って、相当なもんだよ」とノムさんと感心し合う。田●角栄がいなければ、私が気軽に巻機山に登ることはなかったかもしれない。ありがとう、田●角栄。
7:20 登山口着
駐車場にはまだそこそこ空きがあった。まわりにはこれから登るという様子の登山者のみなさんがたくさんいて心強い。
コースタイムが結構長い山みたいなので、この時間の出発で大丈夫なのか少し心配だったが、大丈夫のようだ。
いや、いつも歩きはじめは人が沢山いるが、帰りには周りに誰もいなくなってしまう不思議な現象が起こるので、この時間で大丈夫なのかはまだなんとも言えない。
歩き始めは緩やかな樹林帯。ところどころ急なところもあるが、それほど大変でない。
「ずっとこのくらいの登りなら何とかなるね」などど、歩きはじめで元気があるからこその余裕な発言をしたりして、てくてく登る。
それにしても、事前に集めた情報の中に「とにかく暑い」というものが多数あったが、本当に暑い。
汗が比喩ではなく滝のように流れる。
ちょっと止まると額から汗がぽろぽろぽろっと流れ落ちるのだ。もちろん、止まらなくても、歩いている間中ずっと、だらだら流れていて、目に入ると染みて痛い。
「なんじゃ、こりゃ!(ちょっと松●優作風)湿度か、湿度のせいなのか!さすが1年中じめじめしている町、新潟!」
下山中のすれ違う登山者の方はみんな、ひとっ風呂浴びたかのように、真っ赤な顔である。
とりあえず、水は3本(ペットボトル)持ってきたが、大丈夫だろうか、と少し不安になる。私は登山中、あまり水を飲まない方なので、大丈夫だと思っていたのだが…
8:00 四合目(二、三合目はない)
8:30 五合目
9:30 六合目
六合目展望台(?)からは、上級者が登るコースのヌクビ沢(多分)が見える。
ガツンとした岩山にはまだ残雪があった。こんなに暑いのに、雪がとけないというのは不思議な気持ちだ。
「ノムさん。私、あの残雪にダイブして、顔を埋めたいよ」
「…残雪、近くで見ると、結構硬くて汚いけどね…」
「うん…。ちょっと、今暑いから…」
気温より、体感の問題か。ついつい、アホな発言をしてしまうくらい、やっぱり暑いのだった。
首に巻いた手ぬぐいは、もう、水を吸わないくらいびちゃびちゃである。
朝からてくてく歩き続けて、ふと「景色、代わり映えしないな」とつぶやき、ちょっと樹林帯に飽きている自分に気づく。
周りの木はだんだん背が低くなっているような気がするが、それでも一向に樹林帯を抜ける気配がない。
ガイドブックに掲載されている「穏やかな山容」の頂上付近へはいつ着けるのか。
「早く、湿原が見たいよ」とノムさんに愚痴ると「まだまだ先は長いよ。何しろ、ニセ巻機があるんだからね」と諭される。
そうか、そうだった…。
今回私は、事前に地図でルートも確認しているし、ガイドブックも読んでいるのだが、何故かルートがあまり頭に入っていない。とにかく憧れが強すぎて「山の上には湿原と池塘がある穏やかな緑の牧場が広がっている」というところだけ覚えていて、何合目あたりで樹林帯を抜けるとか、この間のコースタイムがどのくらいとか、このあたりは急登とか、そういうことを全然気にとめていなかった。(地図は持っているので、見ればわかるのだが)
この樹林帯を抜ければ、穏やかになるのかな、と漠然と思って、道の先をにらみつけて坂道を登る。
10:30 七合目
ようやく樹林帯を抜ける。やったー。
少しひらけたガレ場に、そろそろ「穏やかな山容」が見えてくるのかしら、などと期待する。
が、そんな私の淡い期待を打ち砕くように目の前にどーんとそびえるニセ巻機山の姿。
「やだー、あそこまで登るのやだー」
期待があったからこそ、裏切られた絶望感は深い。一気に、樹林帯登りの疲れが出てきて、次なる登りへの一歩がなかなか出ない。
そんな、ニセ巻機山を目の前にして立ちすくむ私の頭に、突然「あの坂をこえれば海がみえる」という希望のフレーズが湧いてきた。
山を登っているときに、よく思い出すフレーズだ。確か、国語の教科書に載っていた。
海を見るために坂を登るのだが、その先にはまた坂があるばかりで一向に海が見えない。それでも、少年は海を見るために先に進んでいく、というような内容だった。多分。
この先には確実に巻機山の頂上があるのだ。見えるかどうかわからない海よりも遙かに状況はいいのだ。
私も頑張って登る。あの坂を登れば巻機山の「おだやかな山容」だ。
ようやく、自分を奮い起こして先に進む。
多分、大量の汗で脱水症状気味だったのだろう。
気持ちも新たにニセ巻機を登り出すが、絶不調。ものすごく疲れる。
しかも、お腹を下しそうな気配も感じる。
もし、ソロで登っていたら、多分ここでリタイアしていたと思う。
しかし、下痢止め飲んでみようかな(一応持ってる)、と休憩した際に、多めに水を飲み、梅干しを食べたところ、一気に回復。薬を飲まずに、お腹も復調。
おそらくガスが出てきたので、涼しくなったこともよかったのだろう。
「ノムさん、心配かけたが、多分もう大丈夫だ。先に進む力が急に湧いてきたよ」
へろへろな私に心配そうであったノムさんに、力強くうなずいて、先に進むことが出来た。
自分は暑さには強い、と勝手に思っていたところがあったのだが、過信であった。
ちゃんと暑さ対策して、体力も付けねば、と歩きながら反省しきりである。
次からは水を多めにもって、万が一に備えて冷えピタとかも救急セットに入れておくことにする。
11:30 八合目
ここからが地獄の追い込み白い階段ゾーン。
「この期に及んで階段!」
「階段大嫌い!」
体調が復調しているので、ノムさんとのアホな会話もいつもどおりである(?)
持つべきものは友だなあ、と会話をしながら実感する。キツい登りでも、軽口をたたいていると楽しくなるのだ。
12:00 ニセ巻機 山頂。そして、九合目。
ようやくたどり着いた。「ニセ」巻機山であることはわかっているが、ここまでが辛かったのでものすごい達成感である。
ハイテンションで写真を撮りまくる。楽しい。もう、このまま下山してもいいくらいだ。いや、せっかくここまで来たのだから、本当の巻機山を目指すに決まっている。
そして、ようやくここからが私が憧れた「おだやかな山容」の湿原が広がるご褒美ゾーンなのだ。
ニセ巻機山からの下り道は木道が設置されており、両側の湿原に白いワタスゲが揺れる。
運良くちょうど晴れて、青空に白い雲、緑の湿原に揺れるワタスゲ、という桃源郷のような景色が広がっている。
ハイジがユキちゃん(子ヤギ)と一緒に駆けて来そうである。
「ふわふわタイム!ふわふわタイム!」
山頂からのハイテンションのままに、写真を撮りまくるノムさんと私。
「予定から大幅に遅れているんだから、写真撮りまくったりするのやめればいいのにね」
「でも、やめられないよね。これがしたくて山登ってるんだもんね」
苦労してたどり着いた先にある、圧倒的に綺麗な山の景色は中毒性がある。
これが、車やらロープウェイやらで簡単に行ける場所にあるのではなく、自分で一歩一歩歩いてきた先にある、というのがいいのだ。
ここまで来ることができて、本当に感謝である。
ふわふわゾーンで大満足していたのだが、まだまだ頂上への道は遠い。現実は厳しい。
12:15 避難小屋
ここですれ違った人は、みんな下山組であった。
そりゃそうだよね。お昼過ぎてるのに、これから頂上に行く人、あんまりいないよね…。
でも、私たちはもうちょっと頑張るのだ。
避難小屋はニセ巻機山とホンモノの巻機山の鞍部になっていて、これから登るルートがしっかり見える。
「まだ、結構登るじゃないか…」
と言いつつも、もうここまで来たら、このくらいの登りは誤差の範囲(?)である。今更ジタバタしても仕方がない。
12:50 山頂標
ついに到着である。長かった。
朝から、なんと五時間半かかった計算だ。途中、絶不調だったので、いつもに増して遅い。
ここでようやくお昼ご飯をそそくさと食す。
地図上ではこの先の牛ヶ岳までがルートになっていたので、そこまで行くつもりでいたのだが、時間も押しているし「巻機山山頂」の標識までとりあえずたどり着けたので、今日はこれでよしとする。
13:30 ご飯を食べ終わって、帰路に着こうとしたところ、他の登山者の方がやってきて(割引岳に登ってきたみたいだった)「本当の山頂はここから10分くらい」と言っているのを耳にしてしまった。
「…10分。本当の山頂まで10分」
「行きたいところだけど、その往復で、ここを起つのが14:00になってしまう。冷静になろう」
「断腸の思いで、今日はここまでにしとこう」
さすがに、遅すぎている自覚があるので、そこはぐっと思いとどまった。
次に来る時の宿題にしよう。
「今日も下山目標は18:00。それまでには絶対」
ここからピストンで下山する。
通常の登山行程では、完全に怒られるレベルの目標だが、仕方がない。
夏だから、多分なんとか日は保つだろう。一応、二人ともヘッドランプ持ってるし。
七合目のニセ巻機下山までは、「また、周りに人が全然いなくなっちゃったねー」などと楽しく下山した。
しかし、そこからの樹林帯下りが長く苦しかった。
気持ちが焦っているので、全然進んでいないような気がするのだ。気持ちの持ち様って本当に大きく影響する。
そして、標高が下がると、また汗が滝のようである。暑い。
17:30 日が落ちる前に、なんとか駐車場に到着できた。よかった。
残りの車は私を含めて2台。(もう一台の方は、ちょっと前に下山した方のようだった)
今日は、嘘ではなく本当に最後の登山者になったようである。
今日の反省点。
振り返ってみると、職場の人の「登山経験ゼロの友人を連れて行った」発言及び「穏やかな山容」という文言に、うっかり騙され「割と気軽に登れる山」だと思いこんでいたのがそもそもの間違いであった。
地図も事前に確認していたにも関わらず、とんでもない楽観的思考から、ルートをよく把握していなかった、というのも問題だ。
そして、熱中症になるかもしれない可能性を全く考えていなかった。水、もう1本持って行くべきだった。3本は飲み干した。
何の気なしに持って行った梅干しはポテンヒットだったが、熱中症対策には最高。次回以降、必ず持って行くことにする。
下山の樹林帯が、長く辛かったので(急いでいたので、余計苦しかった)「ひょっとしたら、私、もうこの山絶対行きたくない」と思うんじゃないかな、とふと考えてしまった。
全くの杞憂であった。
帰りの車の中では「次に登るときのために、もっと体力つけなくちゃ。ゼリー凍らせて持って行くのはどうだろう」などど、ノムさんと楽しく会話している自分がいた。
のどもと過ぎれば暑さ忘れる…。
ニワトリ並の自分の記憶力に乾杯だ。
巻機山にまた行きたい。
<コースタイム>
7:20登山口…8:00四合目…8:30五合目…9:30六合目…10:30七合目…11:30八合目…12:00九合目(ニセ巻機山)…12:15避難小屋…12:50山頂標(40分昼食)…14:00避難小屋…14:15九合目(ニセ巻機山)15:00七合目…17:30登山口着
鳴神山~ソロできままに~
ここのところ怠惰な生活を送っていたせいで、妙に体が重くなった気がしていて(気がするだけではなくて、実際に重くなっている)、夏山シーズン前に足慣らしでどこかの山に行っておきたいと思っていた。
G県内の近めの山で、手頃な山はないかな、と探していたところ、以前、職場の上司が「眺めがいいよ」とお勧めしてくれていたことを思い出し、鳴神山に行くことにした。
この山には、「カッコソウ」というここにしか咲かない花があるそうで、いつか見に行こう、と思っていたのだが、残念ながらカッコソウの時期はすでに過ぎていた。ゴールデンウィークくらいが見頃らしい。
今回は世情を考慮してソロで行く。
滅多に一人で山には行かないのだが、マンボウちゃんの時期だったので、一人ならよかんべ(G県方言)と、一応気にしてみたのだ。
これで今流行のソロ活女子の仲間入りをしたと胸を張ってもいいだろう。
鳴神山はG県東部の桐生市にある980mの山である。
登山ルートはいくつがあるが、一番利用されているという大滝登山口(木品登山口)から登るコースにする。(情報源:上毛新聞社「ぐんま百名山まるごとガイド」)
だいたい1時間半くらいのコースタイムらしいので、多分私は2時間くらいかかるだろう。最近、ようやく己の実力を素直に認められるようになった。遅いんです、私。
全国的に人気のある山と違って、こういう里山は得てして登山口までの道がわかりにくいことが多いが、今回は迷うことなく到着する事が出来た。私にしては珍しい。
途中、ユンボで道路を全面にふさいだ工事箇所があったが、道路誘導員さんに「この先に行きたい」と言ったら、ユンボがカタカタと道幅の広いところまで移動して、道を空けて通してくれた。珍しいタイプの工事現場。たぶん、ほとんど車は通らないのだろう。
9:30 登山口到着
案内の看板の横に張られた「山火事予防」ポスターに描かれたタヌキ?アライグマ?の目の炎の迫力に圧倒される。
昨年の冬はこのあたりで山火事が多発した。
「火の用心、マッチ一本火事のもと」と心の中で唱えてみる。
多分、この標語は若い世代は知らないだろう。
昔、テレビCMで「人類 みな兄弟!」と、この地域でなじみの某艇関係の方が大声で唱えたあと「戸締まり用心 火の用心」と続けて流れるのを聞いて、我が母は「兄弟なのに用心するのか…」と疑問を感じだそうだ。
ああ、昭和も遠くになりにけり。
樹林帯の登山道はしっかり整備されていて、緩い傾斜で歩きやすい。この季節は林を抜ける風がちょうど涼しく、とても気持ちが良い道である。
小鳥のさえずりがうるさいほどで、ウグイスのホーホケキョが響き渡っている。
その他、私がわかる鳴き声はせいぜいシジュウカラのツツピーくらい。
鳥の鳴き声もわかったら楽しそうだ。
初夏の若葉の頃の登山は楽しい。
うきうき歩いていると、すぐに大滝に到着。(9:45)
小ぶりだが、風情があってキレイな滝だ。
しばし、滝を眺めて、さらに頂上を目指す。
大滝のところにあった案内板は、そのまま滝の横あたりを登っていく方向を指している。
忠実にその方向に歩を進めるが、すぐに踏み跡らしきものはどんどん薄くなり、なんだか急勾配の崖っぽい感じになってきた。
足下には昭和を感じさせる、今よりもちょっとダンディな彼が描かれたポッ●の細長いコーヒーの空き缶が落ちている。
この道で合っているのか、と不安に駆られて後ろを振り返ると、看板とは反対方向にしっかりとした道があるのを発見する。
でも、看板とは方向逆だし、頂上の方向とも(多分)逆だし、と自分を励まして、さらに崖を登る。
ほどなく、しっかりした登山道に到達。完全に脇から崖を登ってきた、という、たどり着き感だった。
登山道を振り返ると、先ほど、方向が逆だから、と切り捨てたしっかりとした道であった。途中でカーブしてた。
看板の嘘つきめ。方向逆じゃないか。
一応、すぐに登山道に出たからよかったけど、このまま迷ったら遭難するところだった。
登山事故のほとんどは道間違い。低い山でも、道間違いは命取りだ。しかも、今回はソロである。いつも、一緒にわーわー言ってくれる相棒のノムさんはいない。
危なかった…。
大滝以降は、順調に登山道を登っていく。
道沿いに川が流れていて、その水の音も気持ちいい。
杉が真っ直ぐに空に向かって伸びている林から、時々光がきらきらとまぶしい。
私は花粉症とは全く縁がないので、杉に対して特別な思いはないが、花粉症の人は複雑な思いなのだろうか。
それにしても、まったくと言って良いほど人がいない。ずっと私一人である。
ふと、今日は熊鈴をもって来なかったことに気づき、急に熊とかイノシシが出たらどうしよう、という不安にかられる。
熊がいるかどうかわからないが、イノシシは絶対にいる。
いつもなら相棒のノムさんが熊鈴をカラカラさせているし、二人で騒がしくアホな話をしているので、熊もイノシシも近寄ってこないだろうが、今日は一人である。
本当に誰もいないので、「おかーをこーえー いこーうよー」と小声で歌ってみたが、さすがに何か恥ずかしい。
こうなったら、何でも知っているというSiriさんとおしゃべりするしかないのか。
一人でSiriさんとぶつぶつ会話しているなんて、街でもちょっと怖いのに、山ではもっと怖いのではないか。
いろいろ考えたが、結局、時々トレッキングポールを打ち合わせてガシャガシャ鳴らす、という方法に落ち着いた。
これで効果があるのかはよくわからないが、まあ何もしないよりはきっといい。
10:30 中間点
標識があり、休憩用のベンチ(というか丸太)があったので、ご厚意に甘えて水を飲んで休憩。
やっぱり体がまだ汗をかくことに慣れていないせいなのか、がっつりと汗だくになっているので水がとにかく美味しい。
「うまーっ」と声に出すと、充実感が増すような気がする。
ちなみに、ここで本日初めての他の登山者さんと遭遇した。
こちらも女性のソロ登山者さんであった。ちょっと安心。
中間点からの道も、樹林帯をひたすら登るルートで、ずっとずっと登り。下ることは多分一度もなかった。もくもくと登る。まあまあハードである。
途中、きのこにときめいたり、絶妙なバランスで積まれたケルン(?)に感動したりしながら、とにかく登る。
11:30 肩の広場
頂上だ!と思ったが、ここは頂上の一歩手前。
鳴神山は眺望が良い、と聞いていたのに、ここは全く眺望無し。頂上の訳がなかった。
ここには雷神岳神社と、ものすごく立派な避難小屋があった。中にこたつ有り。シュラフなくても泊まれる。多分。
ここで休憩するのもいいかも、と思ったが、今回はのぞき見だけして、頂上を目指すことにする。
11:45 頂上(桐生岳)980m
肩の広場からの急登を登ると、すぐに山頂だ。
周りの木々で、少し高いところからじゃないと景色は見られないが、360度の眺望である。この日は、雲多めながらも晴れだったので、まずまずの景色。
ちょっとした岩の上にのって、周りを眺めてひゃっほーと心の中で叫ぶ。
頂上はそれほど広くないが、小さな祠があり、それを取り囲むようにベンチがいくつが設置されていた。
そのうちのひとつをどーんと占領し、本日のお昼ご飯。
今日のメニューはサバ味噌パスタである。
私のレモンサワー夜会(一人飲み)のおつまみの余りのサバ味噌缶詰を、茹であがったパスタにまぶすだけ、というものすごく簡単な料理だ。
ゆで汁を出さないように、少量のお湯でパスタをゆでる、というところだけが気をつけるポイントである。
最後に、味噌とチーズはあうかな、ということでスライスチーズをトッピング。
なかなか美味しい。
広い空の下で食べると、それだけでもう美味しさが3割増しである。
ちなみに山頂にも迫力の「山火事予防」ポスターが貼ってあり、火を使ってお昼ご飯を作る登山者達への注意喚起もばっちりであった。
本当に、火は気をつけなければいけない。
火の用心。火の用心。
お昼ご飯を堪能した後は、同じルートをピストンで下る。
実は鳴神山は双耳峰であり、桐生岳と仁田山岳の二つのピークがある。
私が登頂した桐生岳と仁田山岳はすぐなので、この両方に行き、少し北側の鞍部から下る、という周回ルートをとることもできるのだが、めずらしく今回はそのまま下ることにした。ソロなので、気ままなのだ。
12:30 頂上発
行きと同じルートを下るのだが、行きにはわからなかったポイントが一つあり、帰りは見逃さないようにしようと思っていた。
それは、水場である。
事前に読んだ「ぐんま百名山 まるごとガイド」に水場があると書かれていて、ルート上にあった地図にも「水場」の文字が見えるのだが、どこなのかよくわからなかった。
多分、ぜーぜー息を切らしながら登っていたので、見落としたのだろう。
下りは多分若干余裕があるので、注意していればきっと大丈夫だ。
かなり汗だくになっているので、せっかくなので、冷たい水を飲みたいと思っていたのだ。
13:15 (多分)水場
特に何の案内も見当たらなかったが、ここかな、という場所を発見した。
岩の間から水がわき出ていて、ここから川の流れが始まっている。
多分、ここだろう。ここじゃなかったとしても、この水、おいしそう。
という感じで、水を汲んで飲んでみる。
一瞬「この水、飲めない水だったらどうしよう」という現代人らしい考えも頭をよぎるが、ちょっとくらい大丈夫だろう、という登山ハイ?に基づく楽観的な気持ちで、一気にごくごく飲み干した。
とても美味!冷たくておいしい!
疲れた体に染みわたる。
この美味しい水を家に持って帰ろうかとも思ったが、それは思いとどまった。
山で飲むから美味しいのである。
私が子どもの頃、父(山男)は山で汲んできた水をよく持ち帰って、冷蔵庫で冷やしていた。父は私に「おいしいから飲みなよ」と純粋な気持ちで言っていたのだろうが、当時私はそれがひどくキライだったのだ。
山ではおいしいのかもしれないけど、街ではなんか得体がしれない、というか、冷蔵庫で再度冷やしているというのが、なんか嫌というか…。
当時は登山が嫌いだったせいもあるが、登山を始めた今でもその気持ちは、わりと変わらずある。
あぶない、あぶない。水の美味しさにうっかり我を忘れて父と同じ行動をとるところだった。
13:40 中間点
14:10 登山口
熊にもイノシシにも出会わず無事到着。よかった。次にソロで行く時には、絶対に熊鈴を忘れないようにする。
到着した登山口では、本日最高の青空が広がっていて、「しまった、今頂上にいたら、すごくいい景色なのではないか」とちょっと悔しく思ってしまったが、それは仕方がないので諦める。
次に来る時の楽しみにとっておくのだ。
また一人で来るのもいいが、今度は、冬に相棒のノムさんと来るのもいい。
違うルートもあるようなので、そちらから登るのもいい。
久々の登山で気ままにのんびり登ったので足慣らしになったのかは不明だが、とにかく楽しかった。緑が気持ちよかった。
今年はいつごろ梅雨が明けるのだろうか。夏山登山が今から楽しみで仕方がない。
<コースタイム>
9:30木品登山口…9:45大滝…10:30中間点…11:30肩の広場…11:45山頂(お昼休憩45分)…12:30山頂発…12:45肩の広場…13:15水場…13:40中間点…14:10木品登山口
「ヤマノススメ」しろ
お茶碗が焼き上がった。
あとは、これを持って山に行くだけだ。
私は陶芸を趣味にしている。
かなり緩い趣味なので、自分の作りたいモノを適当に作りため、だいたい1年に一度くらい窯で焼く。
今回は、以前から、そのうち作ろう、と思っていたお茶の碗をついに焼いたのだ。
構想(?)1年以上。やっと自作の抹茶碗を手に入れた。感慨深い。
と、いうのも「ヤマノススメ」18巻を1年以上前に読んだ時、主人公のあおいちゃんと友達のひなたちゃんが、山の頂上で野点をする話があったのだ。
これは楽しそう。私も是非ともやってみたい。
あおいちゃんは窯元(飯能窯)にお茶碗を買いに行っていたが、私は自分で作れる。
自分で作ったお茶碗を担いで山に登り、頂上で景色を眺めながらお茶をいただく。
いいじゃないか。
陶芸と登山を両方とも趣味にしているからこそできる業だ。やらない選択肢はない。
「ヤマノススメ」は女子高生が登山をするマンガだ。
ちょっと変わった趣味や部活動を楽しむ女子高生のマンガは、わりと沢山あり、ひとつのジャンルになっているが、アウトドア系だとこの「ヤマノススメ」と「ゆるキャン」が代表格だろう。
作者は登山が趣味だというだけあって、わりと本格的な登山をしていると思うが、ショートパンツで登るなー、とか、髪長すぎるからくくったらどうかなー、など突っ込みどころも満載である。
ちなみに主人公は埼玉県飯能市在住。友達にはG県民もいたりして、身近な感じが私には好感触である。
多分、私が女子高生だったころにこのマンガを読んでも、登山始めよう、とは思わなかったと思う。でも、登山を始めた元女子高生には、登山って楽しいよね、と不思議と共感を持って読める作品である。
この手の女子高生活動マンガのジャンルは、何かノスタルジックな雰囲気を感じる。
さて、今回、私が作ったお茶碗はろくろを使わない手びねりで、あえて無骨に作ったつもりだ。
侘び寂びは理解できていないが、利休先生は金ぴか宴会お茶席じゃなくて、小さな茶室で素朴にお茶を楽しむのを良しとしたはずだ。(でも、利休も金ぴかお茶会に荷担していたが…)
形は、井戸茶碗風に底からの立ち上げをなだらかにしたが、底のラインをがっつり作ってもよかったかもしれない。その方が抹茶碗っぽかったかも。無骨だし。
釉薬は「黄唐津」一色で、素朴な感じにした。釉薬が厚くのりすぎてしまったような気もして、ちょっと残念な出来だ。
これに少しだけ織部とかの緑を垂らしたり、あえて同系色の飴釉とか火色をかけたりしてもよかったかもしれない。黒を吹きかけとかもありだったか。
反省点が次から次へと出てくる。
まあ、窯から出して「思ってたとおりに出来た!」と思うことなんて滅多にないので、こんなもんであろう。
それにしても、陶芸家の気持ちがわかる。
窯に入れる前に思い描いていた姿を違う感じで出来てくると「この出来損ないがーー!!」とガシャーンと行きたくなるのだ。
せっかく作ったら、そんなことしないけどね。出来損ないでも、かわいいのだ。
なんだかんだ言っても、このお茶碗も、かわいい出来なので、ちゃんと野点に使うつもりだ。
でも、バリエーションを広げるために、もう2,3個作ろう。シャープなラインに絵付けのお茶碗とか、ごつい形の黒茶碗とかもあってもいいかも。
自分で作れるので、その気になれば沢山出来るのだ。1年に一度くらいしか焼かないけど…。
そもそも、登山と野点は妙に相性が良いらしく、天下のモ●ベルからは、野点セットなどという挑戦的な商品が販売されている。
最初に見た時は「これ、誰が買うんだろう…」と思ったが、なんと身近なところで、友人のでんさんが買っていた。
このセットはコンパクトに収まっていてとてもいいのだが、お茶碗がメラミン樹脂製である。
「ヤマノススメ」作中でも、ひなたちゃんはメラミン樹脂製を使っていて「適材適所」と言っている。軽くて割れないので、確かにそのとおりなのだろうが、ちょっと情緒に欠ける気がするのだ。
ちなみに、モ●ベルでは陶器製のお茶碗も交換用として売っているらしい。やはり、陶器派はかなりいるとみた。
さらに、調べてみたところ、ス●ーピークからも野点セットが発売されているらしいのだが、こちらのお茶碗はチタン製である。
これは惹かれるものがある。アウトドアっぽい。
以前、行道山で野点もどきをやった時には、お茶碗はシェラカップを使った。(でんさんがモ●ベルの野点セットを持っていたので開催されたのだ)
あえて陶器のお茶碗とはかけ離れたアウトドアの道具でのお茶会。これはこれでイイ。
低山は陶器製。高山はチタン(またはアルミ)製と分けたりすれば、どちらも楽しめる。
さて、茶碗はできたので、あとは山に持って行くだけである。
今はちょっと登山を控えているのだが、もうちょっとしたら、また山に行ける日々が帰ってくるだろう。
それに備えて、とりあえず、自宅でお茶をたてる練習でもすることにする。
そうだ、山に持って行く茶筅を買わなくては。百均で売っているだろうか…。いや、もっとちゃんとした竹製のものを買おうか。
いろいろ考えて準備をするのは楽しい。
作中では千葉の伊予ヶ岳で野点を行っていたが、私はどこの山に行こうかな。
今はとても八ヶ岳に行きたいのだが、荷物に入れるには重いかもしれない。
そうだ、大好きな尾瀬がイイ。
弥四郎小屋前の清水を自分で作ったお茶碗で飲み、その水を湧かしてお茶をいただくのだ。
今年中には必ずこの計画を実践しよう。楽しみだ。
kindle版。背景は赤岳。
七輪ライフ~山の持ち物 番外編~
いろいろあった2020年。
5月に書く記事の冒頭ではないことは承知しているが、あえてこの書き出しで行く。まだ、2021年の前半なので、大丈夫だ。きっと。
2020年、私が購入した物の中で一番の「買って良かった」商品は「七輪」である。
家でのバーベキューが大人気、という話題を何かで聞いて、そうだ、私は七輪を買おう、と思いついたのだ。
学生の頃、学祭で焼き鳥屋をやった時に七輪を購入した記憶があり、手軽に購入できるものだという認識があった。
その記憶どおり、近所のホームセンターで普通に売られていた。値段は忘れたが、多分2500円くらい。割と恒常的に需要はあるらしい。
季節はちょうど秋。
七輪と言ったら、サンマである。ジュージュー炭火で焼いて、アツアツほおばるのだ。
やっぱり、七輪で焼いたサンマは最高である。
2~3回、サンマを焼いたが、とにかく美味しい。コンロとは違う、脂が落ちた焼け具合に独特の炭の香りが香ばしいのだ。
「やっぱり、サンマだね!」
秋の夕方、暗くなっていく空を眺めながら、ビールを片手にサンマをつつく。
なかなかに楽しい。
ちなみに、外で食べずに、焼き上がった魚をお皿に移して、普通に家の中で食べるパターンもあるが、それでもかなり美味しい。冷めても炭火焼きは何か違うのである。
すっかり味を占めて、暇を見てはいろいろ焼いていく。
ホッケ、ホタテ、イカなど、主に海産物系が多い。これは「七輪=サンマ」の印象が強く、七輪では魚を焼けば間違いない、と私が思い込んでいるからであろう。
海産物以外も焼いている。
学生時代の「焼き鳥屋」の記憶があったので、焼き鳥もやってみた。
焼く前の串に刺さった状態の焼き鳥(鶏肉)を求めて、近所のスーパーに行ってみたが、焼き上がったもの(もしくはボイル後冷凍したもの)しか売っていなくて、すごすごと帰宅し、自分で竹串に鶏肉とネギを差して焼いた。
めっちゃ美味!居酒屋の味!
それにしても、どうして、スーパーでは焼き上がったものしか売っていないのか。焼くのが面倒だからか。そうか…。
この年になっての新たな発見。自宅で焼き鳥を焼く人は少ない。
いや、もしかすると結構いるが、みんな自分で串に刺しているのかもしれない。
その証拠に(?)焼き鳥のたれは売っていた。
写真で何となくわかるかもしれないが、焼く場所はいつも家の縁側である。
外ではあるが、屋根があるのでいろいろ便利だ。
縁側は木材でできているので、冬くらいからバーナーシートを導入し、火の取り扱いには注意を払っている。(ちなみにそれ以前に下に敷いていたのは、せんべいが入っていた缶のフタ。せんべい缶はいろいろ重宝している)
その他の備品は概ね百円均一で購入した。
網も、火吹き棒も、食材をつかむトングも、火消しとして使っているオイルポットも、火の番をするときに座る椅子も、ついでにライターもみんな百均。炭すら百均で売っている。(サイズが小さいので七輪向き)
最近、仕入れた情報によると、バーナーシートも百均に登場したとか。
すごいぞ、キャンプブーム。すごいぞ、百均。
七輪を入れても多分3000円ちょっとで諸々揃うではないか。
いい世の中になったものだ。ますます、私の七輪ブームに拍車がかかる。
今後、焼きたい素材は沢山ある。
実は、私は痛恨のミスを犯してしまっているのだ。
正月に餅を焼かなかった!
年末には焼こう、と思っていた。
しかし、「元旦はかまどに火は入れないものだろう」と、どこかで読んだ知識を言い訳にして、普通にコンロで焼いた餅で雑煮を食べ(火を入れているではないか、バカめ…)、だらだらと寝正月を過ごすうちに、餅を焼く機会を逸してしまったのだ。
言い訳せずに言うと、朝から火をおこすのが面倒だった。
怠惰な自分と決別するために、来年こそは、必ず焼こうと思っている。
別に今、餅を焼いてもいい理屈だが、年中行事というものにとらわれる性分なので、来年の正月まで持ち越しする。
来年の三が日中には必ず。または、15日にお汁粉でもいいな。
それから、夏になったらトウモロコシを焼く。
キャンプをしたときに、アルミに包んで焚き火で焼いたが、とっても美味しかった記憶がある。
これを我が家の七輪でやりたい。
私は毎年、美味しいトウモロコシを手に入れるために、遠出をしたりしている。
今年は朝採りのぴちぴちトウモロコシを買いに行き、帰宅後、皮を剥いて、すぐに七輪で焼こうと思っている。
醤油をちょっと垂らして、豪快にかぶりつくのだ。歯に何かが挟まるけど、それは爪楊枝で取ればいい。
そして、気づいてはいたが、今まで焼いていないもの。
肉。
なんとなく、海産物方面に力を入れすぎていたので、手を出さずにいたジャンルである。
肉、焼いてもいいんだよなー。
そのうち、気が向いたら焼くかもしれない。あくまでも、気が向いたらだが。
行道山~花咲く里山~
ついに行道山に行くことが出来た。
行道山はG県東部からほど近い、ストロベリー県にある里山である。その気になれば、ふらっと行ける手近な山なのだが、不思議なほどご縁がなく、何度かの日程変更を経て、ようやく登ることができたのだ。
当初は、友人のでんさんから「足利に葛飾北斎が描いたお寺があるらしい」との情報により、じゃあ行ってみよう、と年明けから計画していた。
しかし、ストロベリー県に緊急事態宣言発令により、しばらく延期。
緊急事態宣言後、日程を調整したら、行道山にほど近い両崖山の山火事でまた延期。
火事収束後、ようやく予定を組んだら、激しい雨により、またまた延長。
四度目の正直で、年度の明けた四月上旬にやっとのことで、行道山に行くことができた。苦労しただけに感無量である。
ずいぶん焦らされた。せっかくだから満喫しまくってやろうではないか。気合いは十分である。
当日の出発地は大岩山西公園駐車場。10:00集合。
麓からの道路はものすごく狭く「今、ここで対向車が来たら、絶対にすれ違えない」と恐怖心を抱く道であった。
途中、「警笛鳴らせ」の標識が設置されていたので、「もちろん、従います!」と、しっかりクラクションを鳴らして通行した。
この標識、日常生活ではもちろん、結構標高の高い山ですらあまり見かけない気がするが、割と身近な山に設置されているのだなあ、と意表を突かれた思いだ。多分、都会で生活する人は、教習所で習って以降、一度も見ないで人生を全うしてしまうかもしれない。
大岩山西公園駐車場はかなりの高所にあるので、見晴らしが良い。足利の街が一望である。
多分、夜景もキレイ。ただし、夜景を見るためには、細い道路を危険と隣り合わせで登り下りしなければならないが…。あの道を夜行くのは私だったら御免被りたい。
夜景デートを楽しみたい若者ならば、血気盛んだからぐいぐい登れるのかもしれないが。
さて、今回のメンバー、でんさんとジェイ氏と合流し、景色を堪能してから歩き始める。まずはほど近い大岩山毘沙門堂にお参り。
日本三大毘沙門らしい。ちなみの残りの二つは奈良の信貴山と京都の鞍馬山だとか。
…絶対三つめは他にも沢山ある気がする…。
「三大○○」はいろいろなジャンルであるが、だいたい三つめが怪しい。三大東照宮が日光東照宮、久能山東照宮、そして世良田東照宮(G県東部にある)だと言われているとか…。
私が大岩山毘沙門堂を訪れるのは二度目である。最初は高校生の時に、先輩に連れられてやってきた。当時、先輩と私は歴史が非常に好きだったので(「歴女」などという言葉は当時なかった)「三大毘沙門があるらしいから、行くよ」と言われ「はいっ」と元気よくついて行ったのだった。
何も考えずに男坂を登り「男坂って、急な道だったのでは。心臓が破裂しそうなほど苦しいです!」と先輩に訴えた記憶がある。
改めて、大岩山毘沙門堂にあった看板を見てみたら「男坂 全行程急坂」と書かれていて「やっぱり…」と改めて当時の辛さを思い出す。もっとも、今、麓から登るとしても「男坂」を選択すると思うが。
時間のたいしてかからない行程なので、より困難な道を行った方が御利益がありそう。
毘沙門堂をふらふらしてから、10:20頃から大岩山に向けて登り出す。
道には椿の花が沢山落ちていて、その赤色が落ち葉の茶の中でひときわ映える。私は椿が好きなので、一気にテンションが上がる。
さらに、道に積もっている落ち葉がどうも見覚えがあるような気がして、何の葉だかわからないもどかしい気持ちでいたところ、でんさんが答えを発見した。
「柏餅の葉っぱだ!」
そうだ、柏餅の葉っぱだ。つまり、柏の木の葉だ。
「5月に柏餅食べるけど、その頃には木に葉が出ているのかな。今は、多分全部落ち葉になっているけど」とでんさんが疑問を抱く。
「5月上旬に立派な柏の葉が生えている可能性は低いんじゃないですかねー。前の年のを保管しておくんですかね。氷付けとかで」
そんな話をしていると、柏餅が食べたくなってくる。季節的には桜餅だが。
10:35 あっという間に大岩山山頂着。417m。
それほど時間はかかっていないが、ずっと登りだったので、息切れがする。
でんさんは「運動不足なので、このまま登ったら、もうリタイヤするしかない、と思った」と、のっけから苦しい発言をしていたので、山頂でゆっくり休憩することにする。
ベンチとテーブルが設置されているので、快適である。
G県ふるさとの山、赤城山の裾野が見える。この日は天気がよかったが、春なので霞んでいて赤城は裾野しか見えなかった。残念。
30分ほど近況報告などで休んだ後、本来の目的の山である行道山に向けて出発する。
ここからは道の傾斜はぐっと緩くなり、ぜーぜー荒い息をついていたでんさんも余裕が出てきて、楽しくおしゃべりをしながら歩くことができた。
下り道になると「私は知っているぞ。下るということは、その後、登るということ!もったいない!」と、下り道の真実に気づいてしまったでんさん。そのセリフ、私も良く言っている。登山あるある?
11:20 行道山頂 442m
あまりに早く着いたので、最初は行道山頂だと気づかずに、途中の見晴らしのいいピークの一つだろうと勘違いしていた。よく見たら、山頂の表示があった。
見晴らしが良く、気持ちが良いので、ここでお昼ご飯にする。
こちらの頂上もベンチとテーブルが設置されているので、ご飯を作るには最高の環境だ。
そう、今日のメンバーは私のキャンプ仲間なので、いつもの登山メインよりは、野外ご飯がメインである。
今回のお題は「サッポ○一番 塩らーめん」である。共通の食材でそれぞれが料理を作成する。ちょっとした料理の鉄○である。
それぞれが、おもむろにザックから「サッポ○一番 塩らーめん」を取り出して見せ合ってから調理を開始する。(見せ合ったところで、みんな同じものなのだが)
私が作成したのは、一度作ってみたいと思っていた、ラーメンご飯(?)である。カップヌードルで作っている人が多いが、インスタントラーメンでもおいしく出来る、という動画を見たので、サッポ○一番でトライしてみることにした。
作り方は簡単。
細かく砕いたサッポ○一番を少量のお湯で戻し、そこにレトルトご飯を加えて炒め、サッポ○一番のスープの素で炒めるだけ。最後に、真ん中に生卵を割り入れ、食べる時にかき混ぜる。
とても美味しいらしいので、やってみたいと思っていたのだが、ラーメン1袋とレトルトご飯(一人前)を使う時点で、どう考えても二人前出来てしまう、という問題点があって、ずっと作らずにいたのだ。
今回はメンバーが多く、分け合って食べる予定だったので、チャレンジしてみた。(ちなみに取り箸は分けている。感染症対策)
出来上がりの見た目を見た時は「あまり美味しくなさそう…」と思ったが、これが美味しい!なるほど、話題になるだけのことはある。
山で一人分作るときは、ラーメンとご飯をあらかじめ半分の量にして持って行ってもいいかもしれない。
今度は、王道のカップヌードルで作ってみるのもいい。
ちなみに、でんさんはカルボナーラ風サッポ○一番、ジェイ氏はイタリアンなサッポ○一番を作成していた。
どっちも美味。特にカルボナーラ風、美味しかった。
サッポ○一番は無限の可能性を秘めている。
ゆっくりとご飯を堪能して、今日のメインの目的地である浄因寺に向かう。
ここからはだいたい下りだが、それほど急な下りではないので、ゆっくり景色も見つつ下っていく。
下界の桜はほとんど葉桜になっている時期だが、山桜はちょうど花盛りの時期。
時々、目を引くピンクの花はヤシオツツジだ。(でんさんに教えてもらった)
まわりの葉が落ちた木々には、小さな黄緑の葉がちらほら出始めている。きっとすぐに新緑が美しい時期になるだろう。
山もしっかり春になってる。
途中、寝釈迦を経て、13:10行道山浄因寺に到着。
お寺に至る直前は、かなりの急な階段下り。ガツガツ下って、回り込んだ先には、花盛りのお寺の建物が目に入る。
立派なしだれ桜が鐘撞き堂にかかっている。
お寺と桜はベストカップリングである。とにかくキレイである。多分、浄土にもこんな桜があるに違いない。
お寺を進むと、葛飾北斎が描いたという清心亭が空に飛んでいきそうに浮かんでいる。向かいの岩場から太鼓橋がかかっていて、この「くものかけはし」を渡って、清心亭でお茶を楽しむのだろう。
入れるものなら入ってみたいが、清心亭に至る階段は登れないようになっていた。
しかし、近くの建物(掘立小屋?)には「料金200円」と書かれた古い紙が貼られていたので、もしかすると特別な日だけ入れるのかもしれない。
だったら、是非とも入ってみたい。そして、そこでお茶を飲んでみたい。
13:30 浄因寺を堪能して、帰路を行くことにする。
帰りは短い距離でさくっ帰れると思われる「巻き道」を選択することにするが、「巻き道」の分岐が非常にわかりにくい。
うろうろ歩き回り、「多分、こっちだよねー」と向かった先にあった四阿でちょっと休憩していたら、山菜採り(多分)をしている地元の人達がやってきた。
「これから、どっちに行くの?」とフレンドリーに話しかけていただいたので「こっちかな?大岩山毘沙門天の方です」と曖昧に答えたところ「大岩山は反対方向だよ。戻ったところに、巻き道の分岐があるから」と教えてくれた。
さらに「大丈夫かい?帰れる?」と笑われながら、心配される。
なんてこった!一応、YAMAPの地図を確認しながら歩いていたのに、反対方向に向かっていたとは。
ここで地元の人に会えなかったら、多分、かなり迷走を続けたと思う。ありがとう、地元の方々。
教えてもらった道を戻ったら、確かに分岐があった。しかも、小さいけれど、案内板もあった。ちゃんと見ながらあるこうと、深く反省する。
巻き道はその名のとおり、トラバース道で、斜面の横を通る道であった。かなり道幅は狭く、うっかり崖側に落ちたら大事故になってしまいそうで、ちょっと怖い道だ。
しかし、アップダウンはほぼなく、淡々と歩くことができる。眺望はない。
「この道はつまらないかもしれないけど、歩くのは楽でいいやー」とジェイ氏。
確かに、帰り道にはよいと思う。
どんどん進んで、あっという間に出発地の大岩山西公園駐車場に到着した。14:30。
西公園駐車場で、今日の目的その2を行うことにする。
それは野点である。
清心亭はお茶室なので、じゃあ、山で野点をしてみようよ、という話になったのだ。
浄因寺でやろうかとも思ったのだが、ベンチなどがなかったので、駐車場のベンチとテーブルを借りて行うことにした。
見晴らし良好のベンチで、シェラカップに入れたお抹茶をいただく。(お抹茶はでんさんが持ってきてくれた)
良い気分である。
お抹茶って、つかれた体に染みこむなあ。
お茶菓子の豆大福(ジェイ氏提供)を食べながら、本日も楽しい登山が出来たことに感謝である。
行道山には縁がないのか、と諦めかけたこともあったが、晴れの日に登れて大変楽しかった。
清心亭、いつか入ってみたいものだが、そのチャンスはあるのだろうか。
<コースタイム>
10:10大岩山西公園駐車場…10:15大岩毘沙門天…10:35大岩山(約30分休憩)…11:20行道山(約1時間昼食)…13:00寝釈迦…13:10浄因寺(40分ほど滞在。道迷いあり)…13:50巻道分岐…14:30大岩山西公園駐車場
水沢山~小鳥と温泉と~
このままでは山に行かないまま春がやってきてしまう。
まあ、春が来てしまっても何の問題もないのだが、急に心忙しい気持ちになり、G県の名湯伊香保温泉にほど近い水沢山に行くことにした。
「ランドネ」2020年9月号の紹介記事を読み「これは、冬に行くべき山だ」とずっと暖めていたのだ。
何しろ、伊香保温泉の裏山(?)である。登山帰りに、伊香保温泉でゆったり暖まることが出来るのだ。最高だ。
伊香保なら、それほど雪は降らないし、何より近いし、それほど高い山でもないので、しばらく山に行かずになまった体を慣らすにも最適なはずである。
今回も山の相棒ノムさんと行く。ノムさんも久しぶりの山だという。毎度のことだが、ゆっくりマイペースで登ることにする。
9:00 登山口である水沢観音到着。
天気は上々である。
まわりを見ると、参拝客より登山スタイルの人の方が多い気がする。思っていたより、人気の山のようである。
本堂の奥の階段を登ることから登山が始まる。のっけから階段が長く苦しい。
「登り始める前からもう苦しい。やっぱり体がなまっている」
「階段ってこんなに辛かったっけ」
ノムさんと二人、息を切らしながら登る。神社の急勾配の階段って本当に辛い。神主さんは意外と体力仕事なのだろうなあ。
水沢山は水沢観音の裏の山で、よくある麓に寺社、頂上に城跡とかがあったりするハイキングコースのような山だと思っていた。標高は1194mと若干高めだが、そもそも水沢観音が標高が高いところにあるので、標高差は実際には少なく、軽い気持ちで登れるはずであった。私の当初のもくろみでは。
どうして、そんな勘違いをしていたのだろう。
がっつり直登の山であった。
そもそも駐車場から行くべき山頂を見上げたときに「しっかり三角の山だな」とは思った。
ノムさんも事前に控えめに「職場の山好きの上司が、武尊登ろうとしたら雪崩で登れなくて、かわりに水沢山登ったらしい」と言っていた。雪の武尊登るクラスの人が、急な予定変更とは言えハイキングクラスの山に行くわけないではないか。(ハイキングだって行く時は行くのだろうが…)
行けども行けども登り。ずっと登り。
「うおぉー疲れるじゃないか」
「久しぶりだから、明日、筋肉痛くるかも」
と困難を口に出しながら登り続けるが、実は結構楽しい。
辛い登りの苦しさも「山はこうでなくっちゃ」という、久しぶりの登山の喜びに変換されていたのだろう。息を切らして登るからこそ、頂上に着いたときの達成感が心地良いのだ。登山の麻薬。
10:00 お休み石
ひたすら登り続けることおよそ1時間。この山のお楽しみゾーンに到着した。
ヤマガラ餌付けゾーンである。
誰が置いているのかはわからないが、平たい石の上にエサがおかれており、ヤマガラ他小鳥がやってくるのだ。
すっかり人慣れしているので、人の手からもエサを持って行くらしい。
私は事前に登山ルートを調べた時にこの場所を知り、エサを用意していこう、と意気込んでいた。しかし、前日にはすっかり忘れ、手ぶらでこの場所に至ってしまったのだ。
「しまったー。ポン菓子持ってこようと思ってたのにー」と嘆くも、手元にはない。
しかたがなく、石の上のエサ目当てにやってくる小鳥をじっと眺めることにする。
「コガラたん、ラブリー」「わあい、ゴジュぴー(ゴジュウカラのこと)こんな近くで見るの初めて!!」
「ゴジュぴーって、何…?」
とノムさんがちょっと引くくらい、私は大興奮である。
最近の私は、You Tubeで鳥の餌付けをしている人の動画を見まくっているのだ。野鳥大好き。
おかげで、コガラ、ヒガラ、ゴジュウカラ、シジュウカラの見分けもバッチリ出来るようになっている。ついでに、「とりぱん」(とりのなんこ著)での呼び方を踏襲している。(ゴジュぴーとか)
この場所にはコガラたん、ヤマガラさん、ゴジュぴー(ゴジュウカラ)が来ているようだった。歩いている時に「ツツピー ツツピー」という鳴き声が聞こえていたので、多分シジュウカラもいると思う。
周りで手のひら餌付けに挑戦している方も何人かいたが、皆、エサはひまわりの種を用意していた。
カラ類はひまわりの種が好き!私が見ている動画でも、エサはひまわりの種だ。
なぜか私は「エサはポン菓子」と思い込んでいたが、ひまわりの種が最適品だったのだ。(ポン菓子を神社の鳩にあげた幼少期の記憶のせいであろう)
次、来る時はひまわりの種を用意してこよう。忘れないように、心のノートに赤字でしっかり記しておくことにする。
私も手からエサ食べてもらいたい!
何時間でもトリを眺めていられる気持ちであったが、そんな訳にはいかない。山頂が待っているのだ。
「コガラたん、またくるからね」と後ろ髪を引かれる思いでお休み石を後にする。
また直登。やっぱり、ずっと直登…。
11:10 山頂
最高の見晴らし。
最高の快晴に下界の温泉街や、上信越国境の冠雪した白い山が見渡せる。雪山のなんと綺麗なことか。
ヤッホーだ。快晴ヤッホー。心の中で叫んでみる。大人なので、声には出さない。
今年は雪山デビューは逃してしまったが、来年は雪山にも行ってみたいものだ。
ここでお昼ご飯、といきたかったところだが、水沢山の山頂はそれほど広くなく、既に何組か食事をしていたので、ここは潔く諦めて、先に進むことにする。
頂上からは伊香保温泉側に下る。上山公園まで下りて、その先は伊香保ロープウエイを使って、一気に石段街まで下りちゃう楽ちんコースで行くのだ。
道を進むと、さっきまで沢山いた登山者の姿がぱったり見えなくなってしまった。どうやら、大半の方がピストンで帰るようなのだ。
「なんでかなー。ランドネの記事では、温泉側に下りているんだけどねー」
「日本の名湯に入りたくないはずないけどねー」
まあいい。私は、ガイド(ランドネの記事)に忠実に行く。
周りに人がいなくなったので、気楽にマイペースで進む。
当たり前だが、今度は下りである。
「今日、初めての下りかもしれない。ずっと登ってたから、下り方忘れた」
「そういえば、私、下り苦手だったわー」
山を登った分だけ、下りがあるのだ。何度山に行っても、下りのたびに「にがてー」と叫んでいる気がする。進歩という文字は私たちの辞書にないのだろうか…。
11:35 お昼ご飯
下りが一段落したところで、お昼を食べるのにちょうどいいスペースを発見したので、ここでお昼にする。
今回は水沢山なので、うどんを持参してみた。(水沢はうどんが名物。マイタケの天ぷらと一緒にいただく)
卵を入れたので、ちょっと見た目が悪いが、おいしく仕上がった。
この日はあまり寒くはなかったが、やはり暖かいものはイイ。
ガスバーナーは災害時にも備えて、一家に一つは必要だよね、とノムさんと熱く語り合った。ちなみに、私は山に行くとき以外は非常持ち出し袋に入れている。
12:30 電波塔
13:00 つつじヶ丘
つつじヶ丘はナイスビューポイントで、トイレが設置されている。すぐ脇を道路が通っており、車でも来られるみたいだ。
相変わらずの最高の景色。
山の名前が記された案内板があったが、その写真とまったく同じ景色が目の前に広がっている。
「こんなに同じ景色に見える日なんて、滅多にない」とその場にいたドライブ客の方は嬉しそうに言っていた。
確かに、案内板に映っている山が全部見える。いい日に来た。ヤッホー。また、心の中だけで叫んでみる。大人っていろいろ不自由だ。
ここからは、勾配が少なくハイキングという感じになる。
周りにまったく人はいないが、登山客向けではなく、ファミリーの方や遠足などに最適だ。スニーカーでも大丈夫。
しかし、不安になるくらい人がいない。
13:30 上ノ山公園
立派な見晴台(しかも新しい)があるが、人影はない。
私とノムさんで独り占め(いや、二人占め?)である。
景色を十分堪能して、伊香保温泉に下りるためにロープウェイ乗り場へ向かう。
スケートリンクはちらほら滑っている人はいるが、本当にちらほらで「営業、大変そうだなあ」と心配になってしまった。
まあ、いい。私たちはスケートではなく、ロープウェイに乗るのだ。
「何回も伊香保に来てるけど、ロープウェイに乗るの、初めてだよー」などど、楽しく会話をしていた私たちに衝撃の事実。
やってないよ、ロープウェイ!
コロナのせいなのか、冬のせいなのか理由はわからねど、その乗り場にはシャッターが下ろされている。
「このせいで、これまで全然人がいなかったのか!なんで、スケート場はやってるのに、ロープウェイはやってないわけ!?どうやって、ここまでスケートしにきてるのさ!」
「…車でしょ」
よく考えれば、当たり前。車で来れるに決まっているのである。自分が歩いてきたものだから、交通手段が他にないような気がしていた。
「私、昨日、バスの時間(伊香保温泉から水沢観音までバスで帰るので)とかしっかり調べたのに、ロープウェイのこと、まったく調べなかった。もう、やっているものだとばかり…」
深く反省する私。なんか、いつもツメが甘いのだ。ヤマガラさんにあげるポン菓子も買うの忘れたし…。こういう性格は年を取っても改善するものなのだろうか…。
仕方がないので、温泉街まで歩くことにする。
「まあ、1時間も歩けば着くでしょう」
登山に来ているので、1時間くらいの歩きはなんということもない。
伊香保温泉こちら、という看板に従って、階段道をひたすら下り続ける。どこに出るのかよくわからないが、とにかく、ずっと階段。途中、手すりがはずれている部分などもあったが、かなりキレイに整備されている。
今回はこの道が非常にありがたかった。ものすごくショートカットして温泉に至る道だったので。
ただし、温泉街からこの階段をひたすら登ってスケートリンク(または上ノ山公園)に行く人はとても少ないと思う。浴衣でそぞろ歩きには多分、辛すぎる…。
14:20 伊香保神社
ありがたいしっかりとした道のおかげで予想よりもかなり早い時間に伊香保神社の裏に出ることが出来た。
なるほど、ここに出るのか。
ここまで来れば、もう道は大丈夫である。G県民なので、伊香保には何度もお世話になっている。
河鹿橋奥の露天風呂で温泉にぬくぬくとつかり、温泉まんじゅうやら玉こんにゃくを食したりして石段街を満喫。
登山の後に、温泉と温泉街散策が楽しめるなんて、最高だ。
16:00すぎ 石段街のバス停から水沢観音までバスで帰着。
やっぱり登山は楽しい。
水沢山は気軽に行ける山なので、今後も何回も登ることになると思う。
この山を教えてくれた「ランドネ」に感謝しなくては。たまにしか買ってなくてすみません…。
<コースタイム>
9:00水沢観音駐車場…10:00お休み石…11:15水沢山…11:35昼食…12:30電波塔…13:00つつじヶ丘…13:30上ノ山公園(見晴台)…14:00伊香保ロープウェイ…14:20伊香保神社…14:30伊香保露天風呂…16:00石段前
「白夜行」東野圭吾
本邦でも近年は便器の洋式化が急速に進んでおり、公共施設のトイレでも相当の割合が洋式便器になっている。
そして、本場(?)の西欧ではどうだか知らないが、日本の洋式便器には蓋がついている。
その蓋については、閉めるべきだ、いや、開けといてもいいんじゃないかと喧々諤々の議論があるのではないかと推察するが、私個人としては、公共施設の洋式トイレの蓋は開けておいて欲しいのだ。
なぜならば、「もしかしたら、便座の中に青酸ガスが入ってるかも」との不安がどうしてもぬぐえないからだ。毎度、ものすごくドキドキして蓋をあけている。
東野圭吾「白夜行」の中で、探偵の今枝氏はこの方法で殺害されている。
帰宅し、閉まっていた洋式トイレの蓋を開けたところ、中に入れられていた青酸ガスを吸い込んでしまい、彼は殺されるのだ。
ミステリーの殺人方法として、青酸カリはメジャーすぎる毒物だが、ガスにして吸わせる、というパターンは、私はこの小説でしか読んだことがない。
飲み物に混ぜて殺す方法が大半だ。多分、ホームズ先生もポワロさんも金田一君(孫)もコナン君もそんな事件は解決していないと思う。
しかし、作中で、青酸カリは水に溶けるか、と聞かれた典子(薬剤師)は言う。
「溶けるけど、たとえばジュースに仕込んで飲ませるというような方法を考えているんだとしたら、耳かき一杯とか二杯じゃだめだと思うわよ」
「ふつうなら一口飲んで変だと思うからよ。舌を刺激するような味なんだって」
「青酸カリ自体は安定した物質なのよ。それが胃に入ると、胃酸と反応して青酸ガスを発生させる。それで中毒症状がおきるわけ」
この薬剤師のアドバイスにより、洋式トイレに青酸カリと硫酸を入れて蓋をし、青酸ガスを発生させ、それをターゲットに吸わせる、という方法が編み出されたのだ。(トイレの換気扇を回して、漏れ出た青酸ガスの臭いで気づかせない、という念入りの工夫もしている)
そんなのすぐに隙間から溢れ出ちゃって無理すぎるわ、と思ったりもするが、作中ではターゲットの帰宅直前に仕掛けているので、そのあたりのフォローも万全だ。(ちゃんと尾行している)
なんと、今までのミステリーの常識を覆す内容ではないか。
青酸カリと言えば猛毒で、飲み物に混ぜられた状態で一口でも口にすれば、確実に死んでしまうものだと思っていた。それが、致死量としては耳かき一杯分くらいの量が必要
だとは驚きである。
作中でも書かれているが、切手の裏に塗る程度では全然致死量に満たないのだそうだ。多分、カップに塗る方法でも致死量に満たないだろう。
また、ミステリーではワインに混入して飲ませるパターンが多いような気がするが、ワインは香りを楽しんでから少しずつ味わう飲み方をするもので(それはソムリエだけ?)、いきなりごくごく飲み干したりしないので、青酸カリには最も適さない飲み物のような気がする。
ターゲットが、ワインに口をつける前に香りをかいで「ん?…アーモンド臭が…?」と気づき、失敗する可能性が高すぎるではないか。
余談だが、毎度、アーモンド臭ってどんな臭いやねん、と思う。平均的日本人の大半は知らないと思うが、警察や探偵の皆さんは、多分、「これがアーモンド臭です」という何かの研修を受けているのであろう、と自分に言い聞かせている。
ごくごく一気にいく、というポイントのみに絞って考えれば、多分生ビールが一番だと思う。それも、夏の暑い日。
しかし、寡聞にして、私は生ビールに青酸カリを入れた殺人が出てくるミステリー小説を知らない…。あるのかもしれないけど。
それにしても、この作品で青酸カリ殺人の限界(?)が描かれた訳だが、その後のミステリー小説でも相も変わらず青酸カリは飲み物に混入させたり、何かに塗られたりしている。
多くのミステリー作家がこの作品を読んでいるはずなのに、どうして青酸ガスの方面に舵を取らないのか不思議である。洋式トイレトリック以上のトリックが思いつかないのかしら。
なんとなく「洋式トイレに毒ガスを詰め込むなんて!」という、感覚的なうさんくささを感じる方法だからだろうか。
そういえば、ミステリー小説はガス系の殺害はあまり好まれないような気がする。にくい特定の相手のみの殺害が主流のミステリーには、ガスは広範囲に広がる感じで、なじまないのかもしれない。
しかし、このやり方はあまりに斬新で、確実に殺されてしまう危険な殺人方法だ、と私の記憶に強烈に焼き付いてしまった。
そして、公共施設のトイレとかだと、私がうっかりターゲットよりも先に便座の蓋を開けてしまう事態が発生するかもしれない。(むしろ、その場合は、不特定多数を狙ったケースだろうか)
閉まった洋式便座の蓋を見る度に、息を止めてそーっと開けるようにしている。
私の精神衛生上よくないので、できれば公共施設の便座の蓋はあけておいていただきたいのだ。
そんな私だが、家の便座の蓋は閉める派だ。
うちのトイレに青酸ガスを入れられたら、もうしょうがない。諦めるしかない。
我が家のトイレの便座はかなり前から電気であったかくなる仕様なので、電気代節約の観点から蓋は閉めているのだ。
かつて、新井理恵「×~ペケ~」を読んで「何はなくとも便座カバー」に深く共感したが、そんな時代はとっくに過ぎ去った。
暖かい便座を手に入れた私は、数十円(?)の電気代の節約のために、ガスが詰められているかもしれない新たな危険性を見て見ぬふりをしているのだ。
やっぱり、家のトイレも開けるようにした方がいいのかな。少し、考え直してみようと思う。
ものすごく昔に書いたもの。「何はなくても便座カバー」