立山(2日目)~白き地獄の頂~
2日目である。今日は立山に登る。
雄山 大汝山 富士の折立を縦走し、大走りから下山する予定だ。残雪状況によっては、大走りではなく、ピストンの下山も視野に入れている。
みくりが池温泉にて、5:00起床。
前日、ここから日の出を見るのもいいね、などとノムさんと話をしていたが、無理であった。外に出て、空を見上げると、日はとっくに昇っていた。(日の出の時刻はだいたい4:30くらい)
天候は、雲多めながらも、まあまあ。山がキレイだ。
さすが、登山指数(?)Aである。
行けそう。
スキップでその辺を走り回りたいところだが、ぐっと堪え、小さくガッツポーズを決めるに留まる。
「極楽立山」へ期待が持てそうだ。
バイキング形式の朝ご飯をいただき、準備を整えて、みくりが池温泉を出発。だいたい7:00。
室堂ターミナルで、不要の荷物をコインロッカーに預けたりしていたので、立山に向けて歩き出したのは、8:00くらいになっていた。わりと時間がかかってしまった。
でも、まだ、バスの始発が到着していない時間なので、登山客の姿はまばらである。
室堂山荘を過ぎると、残雪に覆われたルートが現れる。室堂ターミナルの掲示板情報によると、一ノ越までのルートの8割が残雪あり、だそうだ。
8割って、ほとんど雪ということではないか。気をつけて行こう。
そして、歩くにつれて、周りはだんだん白いガスに覆われ始める。
おかしい。この景色は2年前に来た時にも見たような気がする。
足下は残雪で、どこを見渡してもガスがただよう薄ぼんやりとした白い世界で「これが立山の地獄の世界か…」と途方にくれたような気持ちになる。
梅雨ど真ん中だもんなー。無念。晴守りの力もこのあたりが限界か。
「ノムさん、確か「ときめきトゥナイト」の魔界って、霧がたちこめているんだよね…」
「そうだ!確か、サンドは霧になって出没するのよね!」←マニアック
そうか、やはりここは魔界か。
ノムさんと2人、同世代にしか通じないマンガの話に花を咲かせながら、だらだら歩いていると、真っ白世界もなかなか楽しい。アロン様、どこかにいないかな。
9:30 一ノ越山荘着。
途中、休憩を大分とったので、かなり遅いペース。まあいいのだ、マイペースで。
前回来た時は、真っ白のガスと強風により、ここから引き返した。
今回は…またもや、真っ白のガスと強風に包まれている。雨も降っていた2年前よりはましだが。
またなのー!!立山って、本当はいつ来てもガスに覆われている山なのか!
一ノ越山荘は鞍部の風の通り道にあるので、他の場所よりは強風を感じるようだ。それにしても、この先の岩場もかなりの強い風が吹いていると思われる。
山小屋の中でホットコーヒー(200円)を飲みながら、ううむ、と考えを巡らせたが、今回の答えは1つだった。
行こう、頂上目指して!
一緒に休憩していた皆さんも、みな、そのまま山を登るルートに進路をとっていた。私たちもとりあえず、行けるところまでは行ってみよう。
2連続敗退はなんとしても避けたい。行かせてくれ、おっかさん!
今回手袋を忘れた私は、ここで軍手(200円)を購入し、レベルアップ。素手だと、霧で手がびしょびしょになって寒かったのだ。これで岩場もどんとこいだ。
昨日、アルペンルートを巡っているときに、お土産の「雷鳥さん軍手」が欲しくなったのだが、あのとき、買っておけばよかった。多分、軍手が必要になるぞ、という虫の知らせだったのに。欲望には従っておくべきだったのだなあ。
一ノ越山荘からの道は、むき出しの岩場だ。森林限界を突破したガレ道。残雪はない。
晴れならば、多分、最高の景色に包まれて登山ができるのだろう。
しかし、今、私たちを覆うのは白いガス…。先の見えない地獄の階段…。
風上に岩が無いと、吹きっさらしの強風にさらされ「風、つえー」とついつい大声で叫んでしまう。自然の感情の発露。叫ばすにはいられない。
でも、意外とよろけたりはしない。人間って、自分で思っているよりもしっかり大地に立てるものなのだ。
岩場に可憐な花が咲いていたりしたのだが、強風と戦って登っていたので「今、花に気持ちをさいている余裕がない!すまん、花!」と写真も撮らずに、ひたすら頂上を目指して登る。
何が咲いていたんだろう。下山した今はちょっと気になるが、もはやわからない。黄色いのと白いのが咲いていた…。
岩場を登ること、およそ1時間半。
11:00少し前に、ついに雄山山頂着。
ガスの水分でびしょびしょ、よれよれの汚い姿ではあったが、ついに憧れの山頂に着いた。苦労して登っただけに、喜びもひとしお。感無量!
さっそく、雄山神社のご祈祷をうける。ちょうど11時のご祈祷に間に合った。
神主さんのお話を聞いている途中、2年越しの登頂への感動がわき上がり、うっかり涙しそうになる。
立山は古くから、修験道の霊場であり、もくもく煙が立ちこめる地獄と頂上からの絶景の極楽の両方がある場所とされてきたそうだ。極楽の頂上の景色は未だ見ることが出来ないが、ここまでたどり着くと、確かに極楽に上り詰めたという気持ちになる。
一ノ越で諦めないで、登ってこれてよかった。
ご祈祷を終えて、社殿(?)を出ると、吹き付ける強風におもわず「わーっ」と声を上げてしまう。台風か!?
頂上なので、遮るものがなく、風が直接吹き抜けるのだ。
建物の中の穏やかな空気との隔世感がすごい。建物ってすごい。
天候もあまり良くないので、ここで折り返しかな、とも考えたが、「大汝山20分」の看板を見て、そのくらいなら行くか、と色気を出してしまい、もう一山行くことにした。
雄山は3003m、大汝山は3015mで、最高峰だというのも魅力的。
大汝山へのルートは概ね、山肌に沿ってつけられている。山がちょうど防風壁になり、雄山登頂時の風にさらされた感じとは全く異なり、かなり快適に歩けた。相変わらずの白きガスの世界だが…。
雄山神社まではそこそこ登山者もいたのだが、大汝までいかずに引き返した人が多いのか、人影はほぼない。ちょっと寂しい気持ちもするが、様々なポースを決めた写真を撮りまくったりして、なかなか楽しい。やはり、風のないルートはいいねえ。
12:10ころ、大汝山登頂。
大汝山の頂上は、登山道の脇にいきなり登場し、積み上げられたような岩場の上にある。とても狭く、頂上を示す看板は手書きの板だ。空に突き出た感じがあまりなく、岩に包まれたような場所で、何故か妙に落ち着く。
今回は、大汝山まで到着できた。嬉しい。
頂上の少し先にある「大汝休憩所」で遅めのお昼ご飯。
小屋の外でお湯を沸かし、インスタントラーメン(ミニ)を食す。
が、ここで重大問題が発生。
「しまった、箸を持ってこなかった…」
うろたえる私。もうすでにラーメンにお湯を注いでしまっている。どうしよう!ど、どどどドラえも~ん(byのび太くん)
ここで頼りになるノムさんに閃光のごとくひらめきが!
「大丈夫。みくりがけ温泉パンセットの中に、魚肉ソーセージがある!これを箸にすればいい!」
考案者のノムさんによると、ソーセージの先を横に半分くらい囓り、そのギザギザの不揃い部分で麺をすくうと、良い感じだとのこと。
確かに食べられる!大内宿のネギですくう蕎麦に比べたら、格段にこっちの方が使いやすい。
窮すれば通ず!人間の英知を見た。スバラシイ。
楽しい食事を終え、大汝休憩所を後にする。13:15頃。
富士の折立まで30分くらいで行けるのだろうが、時間も遅くなっていたし、多分、残雪の大走りは結構辛いだろうとの判断で、ここから折り返して室堂を目指すことにした。
何より、この悪天候の中、大汝まで来られたことで大満足。富士の折立は、次に来るとき(晴天の時!)にとっておこう。
13:45 再び雄山。
14:45 一ノ越山荘。
ここから室堂を目指して、残雪地帯を下る。
「滑るから気をつけて下ろうね」
と互いに声を掛けたが、その舌の根も乾かぬうちに、ノムさん転倒!立ち上がるが、またすぐに転倒。そして、おしりで斜面を下っていく。つるーっと。
「ノムさーん、大丈夫かー」
と私も声をかけるが、後を追うかのごとく転倒。
あまりの事態に二人で大笑い。コントの様だ。
…雪道の下りは怖い。
ふたりとも、立派な脂肪に覆われているので、特段怪我は無かったけど…。
そして、周りは登山者の姿はほとんど無い。
毎度の事ながら、下山が遅いので、周りに人がいなくなってしまうのだ。
「確か最終バスの時間が17:00くらいだよね。私たちは絶対にその前に下るから関係ないと思ってたけどさ…」
「おかしいねえ。なんで、毎回最終便ギリギリになっちゃうのかねえ」
それは、計画の立て方が甘いからだろう…。あと、必要以上にアホ写真撮ったりして遊んでいるからだろう…。
わかっちゃいるけどやめられない(by植木等)いや、ご利用は計画的に!だ。
室堂手前、一日あたりを包んでいたガスが少しだけ晴れ、振り返ると、今まさに登ってきた立山が姿を現した。
がんばった。上にいるときは真っ白地獄だったけれど、本当にあの場所に立っていたのだ。
下ってしまうと、嘘のように感じるが、ザックの中には、頂上でもらったお札も入っている。やったなあ、私。
最後の残雪地帯も楽しい気分で越え(転倒は最初のところだけで、後は大丈夫だった)室堂に到着した。16:00
室堂でロッカーから荷物を取り出したり、雄山神社の古い社殿を見物したりした後、バスに乗ろうと乗り場に行ったところ
「今、16:20のバスが出たので、次は最終の17:05です」
…結局最終バス…。
まあ、乗れないわけじゃないからいいか…。
<コースタイム>
8:00室堂…9:30一ノ越山荘…11:00雄山(30分休憩)…12:10大汝山(お昼ご飯1時間)…13:45雄山…14:45一ノ越山荘…16:00室堂