睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

安達太良山~くろがね小屋泊で温泉満喫~

今年の紅葉登山は安達太良山に行った。しかも、温泉付き山小屋として人気の高いくろがね小屋泊である。

数年前にも安達太良山に行ったが、そのときは時間がなくて、温泉に入れずに小屋を通過しただけだった。

今年は満を持しての小屋泊である。温泉入り放題だ。

温泉は私の大好きな白濁の酸性泉。源泉から最も近い場所のお湯だという。

もう、楽しみ!

温泉付きの山小屋、最高である。

 

朝9:00 どんよりと雲に覆われた二本松の街を抜け、雲海の上の青空の安達太良山ゴンドラリフトの駐車場に到着。

山道の途中で急にぴかぴかの青空になった。真っ青。

雲を抜けたらその上は青空、という仙人になったような気持ちにさせて貰える天候である。

f:id:suishian:20201123200833j:plain

駐車場からの見事な雲海。

下界の雲海にテンションが最高潮に上がる。しかし、浮き立つ心と裏腹に私とノムさんには大きな不安があった。

風は大丈夫だろうか。今日はゴンドラは動いているのか」

実は、数年前に安達太良山に来た時は強風でゴンドラ運休。ショックを胸に、スキー場のゲレンデを登る、という悲しい経験をしたのだ。しかも、ゴンドラ山頂駅まで登った時には運転再開していたというオマケ付き…。

「今回は、絶対にゴンドラに乗る!楽に頂上へ行く!」という強い決意をしてやってきたのだ。私とノムさんはロープウェイ好き。

果たして、ゴンドラは動いていた。

しかし、なんだかよくわからないが長蛇の列である。人だらけ!

「ど、どういうことだ…!この人達は何のためにここにいるのだ!?

「わからん…。とにかく列があるということは、並ぶ必要があるのでは?

想定外の事態に狼狽し、とりあえずノムさんは、手近な列に並び、その間私が情報収集に走った。

ドラクエ並に、その辺の人にいろいろ聞いてみたところ、この人々はゴンドラに乗るために列に並んでいる人達であることが判明。よく考えれば、それ以外に考えられないのだが、この時は現実を受け入れたくなくて、頭が理解を拒否していたのであろう。

しかも、集めた情報によると「チケット買うのに1時間」「ゴンドラ乗るのに1時間」かかるという。

あわてて列に並んでいるノムさんの元に報告する。

「何ぃ!?ゴンドラ待っている間に、ゲレンデを行けば登れてしまうではないか!

「で…でも、二手に分かれて並べば、短縮できるよう。友よ、今回はゴンドラに乗ることを誓ったではないか!

「そう…そうだね。紅葉シーズンは恐ろしいね…

本当に…。来る道での大渋滞はなかったが、やはり紅葉名物の山のトップシーズンは、大にぎわいらしい。

紅葉トップシーズンに人混みを避けて登山するのは不可能なのか…。ものすごい険しい山に行けばいいのか。いや、険しいと私たちが登れない。何年経っても初心者マークから抜け出せない私たちなのだ。

 

それにしても、日本人って、こんなに紅葉に貪欲なんだ

那須岳で思ったことをさらに再認識する。確かに、結構前に、いつもはガラガラの東福寺(京都)に紅葉の時期に行ったら「動けない…」と思うほどの大混雑だった。

そういえば「源氏物語」にも「紅葉賀」という章があって、紅葉見物の宴で源氏の君と頭中将(この時は中将ではないかもしれないが)が青海波を舞っていた。(耳の前に紙のない扇子みたいな飾りをつけていたという強い印象がある。何のマンガで見たのだろうか?)

平安の昔から、日本人は紅葉が好きなのだ。

登山を始める前の私はとにかく情緒不足で紅葉狩りにほとんど興味がなかったので、その事実に全く思い至らなかった。もののあはれを解さない私…

 

9:45 二手に分かれて並んだおかげで、なんとか45分の待ちでゴンドラに乗れた。

予想外に時間がかかったが、お昼頃には山頂に着けそうなのでよしとする。

しかし、ゴンドラを待っている間に青かった空は、雲に覆われ出している。

f:id:suishian:20201123204431j:plain

「ほんとの空」もどんより…。

まあいい。目指す山頂、乳首はくっきりと見えている。そして、紅葉は最高だ。

「あの乳首を目指して進もう!いやん、ちょっとハズカシイ

あの乳首は男性だよね!やっぱり、そのものにしか見えないね」

数年前に来た時も同じようなことを言いながら登った気がするが、今回も山頂「乳首」について、二人で語り合いながら歩く。

多分、地元の方達のこんな会話があったに違いない。

「おっ今日もくっきり晴れて、乳首がなっから見えんなー」

「やだ、あんた。あの山には安達太良山っていう名前があんのに、そんな変な名前つけて!」

「だって、おめえ、あの形。どう見ても乳首だんべよ

「…まあ。そりゃ、そう見えるけど…

※我がG県の方言でお送りしました。地元じゃないけど。

 

歩きはじめは安心の木道。徐々に傾斜がある山道になっていく。

道はずっと整備されていてとても歩きやすいのだが、とにかく狭い。人1人幅なので、すれ違いが非常に困難である。

しかも、両脇がシャクナゲとかの低木になっていて、脇によけにくい。がさーっと思い切って、背中側を樹木につっこんでよけるしかない。

前回来た時は、それほど混んでいなかったので、狭い道という印象はなかったが、今回はとにかく多い人出である。

特に、朝一くらいのゴンドラで登り始めた人が帰路につきだす時間帯と思われる11:00過ぎからは、歩いている時間よりもすれ違いの人を待っている時間の方が長いんじゃないか、と思うほどの混雑ぶりだ。

まあ、仕方がない。自分も紅葉につられてやってきた登山客なのだ。気持ちよく譲り合おう。

 

 

11:45 混雑の山道を抜けて、山頂到着。ゴンドラを下りてからだいたい2時間なので、まあまあである。

もちろん、山頂は大混雑。乳首登頂も混雑していたので、とりあえず先にご飯を食べることにする。

f:id:suishian:20201123224801j:plain

やっぱり、近くによっても乳首そのもの。

お昼ご飯(ラ王味噌味)を食べた後、乳首に登り、完全登頂を果たす。(1,700m)

周りの山を360度見渡せる大パノラマ。これから行く予定の沼ノ平への道も見下ろせる。ヤッホーだ。

しかし、残念ながら、朝の晴天は幻だったかのように、空は雲に覆われている。景色が全く見えない真っ白地獄ではないので、まずますとするべきか。磐梯山はなんとか見えた。

 

12:45 乳首を下山し、沼ノ平方面へ出発する。

実は、前回来た時は、元来た道を少し下ったところにあるルートから下山を開始してしまい、沼ノ平の爆裂火口を見ずに山を下りてしまったのだ。簡単にいうと、道を間違えた。

「今回は、絶対に爆裂火口!」と何故か火口好きのノムさんは熱を込めて主張し、私も激しく同意した。写真で見ると、すごい迫力。これは絶対に見たい。

稜線を20分ほど歩くと、左手に爆裂火口が姿を現す。

おおー!!これはすごい!写真どおりの大迫力だ。

f:id:suishian:20201123230825j:plain

正に爆裂火口。大迫力。

ここは、昔、ここから噴火したのね、と城跡を眺めるようなノスタルジックな気持ちで眺めるような場所ではない。

安達太良山って、活火山なんだ。噴煙をあげて、ここからマグマが吹き出すし、火山弾もバンバン飛ぶのだ。

そういう、現役感のある爆裂火口だ。危険地帯だ。硫黄の臭いに震いする。

この火口のどこからか、くろがね小屋は温泉をひいているらしい。すごく、臨場感のある(?)いいお湯に違いない。

ノムさんと大興奮して写真を撮りまくる。もちろん、二人ともキメキメポーズである。周りの人の目は全く忘れていた。大丈夫だ。まわりの人も興奮してポーズを決めまくっていたから。

 

13:30 矢筈の森手前の分岐

日帰り登山ならここから下るところだが、今回は小屋泊で余裕があるので、分岐で曲がらずに鉄山に行ってみることにする。

爆裂火口に沿って、ぐるっと回る感じのルートだ。

爆裂火口に心を奪われた私たちは、出来るものなら一周したいくらいの気持ちだった。できるだけ、ずっと眺めていたいのだ。

鉄山へ向かう道は「馬の背」の名の通り、細く急な道だ。足下は土なので、わりと歩きやすいのが救いである。

沼ノ平までは沢山いた登山者がほとんど姿を消したので、マイペースに楽しく登る。

鉄山頂上に至るルートは急登に見えたが、大きく巻いて頂上に至るので、それほど辛くはなかった。

f:id:suishian:20201123232550j:plain

馬の背。

14:00 鉄山 1,709m(実は安達太良山より9m高い

上空は白い雲だが、下界が見渡せて、なかなか良い景色。爆裂火口の向こうに磐梯山も見えた。

人がほとんどいないので、写真撮り放題。楽しい。ますます、変なポーズ写真の撮影に励んでしまう。

小屋泊だから、こんな時間にこの場所にいても大丈夫なのだ。「下山時間、ヤバいね」と言っている、いつもの日帰り登山とは違うのだ。ふふふ。嬉しい。

 

14:30 矢筈の森手前の分岐まで戻り、ここから下り。

当然だが、人はまばらである。

まわりの山の紅葉が非常にきれいな道だ。あちこち立ち止まり、写真を撮りながら下る。

綾錦の絨毯のよう。まばらにいる登山者のカラフルなウエアも紅葉になじんでいる。

f:id:suishian:20201123233831j:plain

紅葉の中を行く人たち。

15:40 峰ノ辻を経て、くろがね小屋到着。

シュラフを広げて寝る場所を確保したら(今年はシュラフ持参)、すぐに温泉である。

今年は感染症対策で一度に3人までに制限されており、受付で木札を貰って入浴する形式だ。

そんなに広くないので、この措置はありがたい。

私たちが行った時は誰もいなかったので、二人でうはうは笑いながら大胆に入浴する。

白濁の酸性湯最高!疲れた体に染み渡る。

「極楽だねえ、ノムさん

「山小屋でこんな贅沢を味わっていいのかしら」

「あの沼ノ平からひいてるらしいよ」

ありがたいねえ

「本当、ありがたいねえ

あまりのありがたさに、夕食後(名物カレー)もう一回入ってしまった。

山小屋なのに、2回も入浴できるなんて、幸せ過ぎる。

 

お風呂後は、小屋にあった「火の鳥 未来編」を読みながら早々と就寝。

所謂「寝落ち」だ。

マサトとムーピーのタマミがどうなるのか気になるのだが、眠さに勝てなかった。うちの本棚にあるはずなので、帰宅したら続きを読まなくては。

 

6:30 朝食を頂き、荷物を片付けてくろがね小屋出発。

とても居心地のいい山小屋でとてもよかった。何より温泉最高!

また是非とも、泊りたい。

f:id:suishian:20201123235451j:plain

くろがね小屋のくろがね。紅葉に映える。

さて、2日目のルートは、昨日の逆を行き、沼ノ平から山頂(乳首)を経て、ゴンドラで駐車場に戻る。つまり、2日かけてのピストンである。

天気も晴れているし、人の少ない朝の山頂に行ってみたかったのだ。

 

7:30 峰ノ辻

8:00 矢筈の森手前の分岐

この日も朝は雲海であった。しかし、馬の背まで来ると、大分雲は薄くなっていてちょっと残念。

ほとんど人はおらず、景色独り占め。写真撮り放題。

山の朝の空気は透明で、うっすらかかる白いモヤも少し幻想的でいい。

昨日見た景色のはずなのだが、朝見るとちょっと違った印象があり、とても楽しくなる。空間が昼間より広いような気がする。

朝の景色はいいねえ

「もっと早いとまた違う印象なのかなあ」

すこしまだらになってきた雲海を眺めながら、二人で感動にひたってしまった。

f:id:suishian:20201124015406j:image

まだらな雲海を眺める

 

8:30 再び乳首登頂。

景色を存分に堪能した後、乳首を下りて、コーヒーを湧かして一休み。

イイ。

朝から山頂で暖かいコーヒーを飲む。

浸れるくらいイイ。

「山小屋泊、スバラシイね。優雅だよ

「本当に優雅だよ。昨日の喧噪が嘘のようだよ」

この山はゴンドラ利用の登山者が大半のようで、山頂にいる人は本当に数えるほどしかいなかった。他の人気の山なら、日の出とともに登り始める人が結構いるような気がする。

 

9:15 山頂発。

名残惜しいが、登った山は下らなければならない。

昨日通った道を下り始める。

途中、登っている人が現れたので(ゴンドラ始発組?)「ゴンドラは動いていますよね?」と確認の質問をして「動いてますよ」の回答に安心する。ちょっと風が出てきているような気がしたのだ。

これでゴンドラが動いていなかったら、ゲレンデを下りで下りなくてはならない。下りが苦手な私たちとしては、出来れば避けたいところだ。

 

昨日同様、道を譲り合いながら、てくてく下り、ゴンドラ山頂駅到着。10:45。

せっかくなので、薬師岳から見納めに紅葉を眺める。ここが安達太良山紅葉ベストポジションらしいのだ。

赤黄緑の入り交じった山がどーんと目の前にある。自然って面白いことをする。

これは確かに苦労しても見に来たい光景だ。

登山を始めてから、私も少しはもののあはれを理解してきているので、紅葉した山を見て、素直に「きれいだな」と思えるようになっている。

来年の紅葉シーズンはどの山に登ろうか。もう、来年のことに思いを馳せて、わくわくしまうのだった。

f:id:suishian:20201124005244j:plain

ケルン?てるてる坊主みたいでかわいい。

<コースタイム>

9:00駐車場…9:45ゴンドラリフト…10:00智恵子抄の碑…10:45仙女平分岐…11:45山頂(昼食1時間)…13:15沼ノ平…14:00鉄山…14:50峰ノ辻…15:40くろがね小屋(泊)…6:30くろがね小屋発…7:30峰ノ辻…8:00矢筈の森前分岐…8:30山頂(休憩45分)…9:15山頂発…10:30薬師岳…10:50ゴンドラリフト…11:30駐車場

 

suishian.hatenadiary.jp

 前回の安達太良山。ゲレンデを登った時のもの。