睡紫庵文庫

身辺雑記をまじえた読書雑記です。

赤城山~すでに真夏~

5月下旬、私はまた赤城山(黒檜山)の登山口に立っていた。

12月にも登ったが、あの時は冬で、とても寒かった。今はとても暑い…。5月とは思えない暑さだ。下界は軽く30度を超えた真夏日である。

季節はあっという間にめぐるものだなあ、と感慨深い。

それにしても、5月で真夏日めぐり過ぎでは無いか!?天気予報では「体が暑さに慣れていないので、熱中症に注意してください」と言っていた。

熱中症

もう、その単語を耳にするとは…。でも、本当に気をつけよう、と普段はあまり買わないア●エリアスを購入した。対策は万全だ(?)

 

今回は、赤城山の最高峰、黒檜山から駒ヶ岳への縦走ルートを選択した。

今回同行のノムさんとは数年前、登山若葉マーク時代に、同じルートで登った。

お互いに「次の日の筋肉痛はハンパなかったねえ…」「がむしゃらだったからねえ…」と、過去を振り返って苦笑い。足ぱんぱんだったなあ…

今回は、そのときの教訓を胸に、マイペースで楽しい登山を目指すことを誓う。

 

それにしても、この時期の赤城山は登山者であふれかえっている。驚くべきことだが、大沼湖畔の駐車場(広い)が満車!私、何度も赤城山に来ているけれど、この駐車場が満車だったの、初めて。

急に赤城山の魅力にみんなが気づきだしたのだろうか?いや、もともと大人気だったけれど、私たちが、たまたま空いている日に行っていたのか…?

真相はよくわからないが、何にせよ、ふるさとの山に活気があるのはいいことだ。ちょっと嬉しい。

 

大洞駐車場が満車だったので、その近くに車を駐め(駐車場は周辺にたくさんある)、黒檜山登山口まで車道を歩く。途中、赤城神社を通過。

大沼にお行儀良く並んでいるスワンボートがかわいい。暑いけれど、良い天気でよかった。やっぱり、気象神社で晴祈願した御利益かもしれない。

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スワンちゃんは観光地の定番。

10:00 登山口に到着。

やや、ゆっくり目のスタート時間だが、これから一緒に登山を始める人たちがたくさんいた。心強い。一緒に頑張って登りましょう、と心の中で熱く挨拶をする。

 

黒檜は赤城山の最高峰である。

そして、他の峰に比べて、一番がっつり登る山である。

最初からまあまあな登りだが、猫岩を過ぎたあたりから、樹林帯の中、岩がゴロゴロした、かなり急な道となる。

忘れていたわけじゃないが、改めて「そうだ、黒檜って、結構キツい登りだった」ということを思い出す。ノムさんも「冬の不摂生が…」と消極的にキツさを訴えている。

真夏並の気温も手伝い、登りはじめから汗がにじむ。いや、にじむどころではない。

おそらく、ザックを下ろせば、Tシャツがキレイに汗で染まっているだろう。夏山の風物詩…?でも、本当はまだ5月だ。夏ではないはずなのだ。

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猫岩付近から。大沼もまだ近い。

こまめに休憩を取って、水分補給。

すると、必然的に後ろから登ってくる登山者の皆さんは「こんにちはー」と声を掛けつつ、私たちを抜いていく。

その後、休憩を終えて歩き出すと、先ほど私たちを抜いていった方達が休憩を取っているので、やっぱり必然的に「こんにちはー」と声を掛けつつ抜いていくことになる。

このラリーは何度も続く。みな、思い思いの場所で、こまめに休憩を取っているので、そうなっちゃうのだ。

抜きつ抜かれつのデットヒート(?)を何回も繰り返すと、だんだん「こんにちはー」と声を掛けるのが、なんとなく恥ずかしくなってくるのは何故だろうか?

「あ、どうもー(また会いましたね)」という感じの挨拶から、アルカイックな笑顔+会釈へとだんだん挨拶レベルが下がっていってしまう。まあ、いいよね、お互い様だし。

 

ちなみに、この時、胸におおきなゾウがプリントされたTシャツを着ていた方に颯爽と抜かれたので、ついうっかり、「マ●ートさん、早いなあ…」と声に出してつぶやいてしまった。

なんとなく親近感が湧いて、勝手にニックネーム。いつもなら、心の中だけなのだが、暑さのせいか、この時は声にまで出してしまった。思いついたことをすぐに口に出してしまうのは年をとった証拠か…。

追加情報。

私の発言を聞いたノムさんは「私もマ●ートさん!」と胸を張ったので、「私はモ●ベルさん!」と主張を返してみた。

2人とも、山レベルが上がっているので、かつての若葉マークの頃のように、ユ●クロの綿Tシャツからは卒業している。成長を実感できた瞬間だ。感慨深い。

 

暑さとそれに伴う疲労感に苦しめられながら、なんとか急登を登り切る。登り切ってしまえば、頂上までは、つかの間の穏やかな道だ。

「この頂上にいたる平らな道は、心が躍るね~」

「早く着かないか、わくわくするね」

とラストスパートを心穏やかに歩く。

「決めた!この道を私はビクトリーロードと名付けるよ!

 達成者が勝利の余韻に浸って歩く道、という感じだ。音楽を流すなら、ロッキーのテーマソングのイントロ。

私の目には、そこにはない赤いカーペットが見えている。

…テンションが上がっていると、しょーも無いことを、ものすごく楽しいことのように言ってしまう癖が私にはあるような気がする。

一緒にいたノムさんもテンションがあがっているからいいか…。

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ビクトリーロード。人がいなくなるのを待って写真撮った。

 

11:40 ビクトリーロードを通って、ついに頂上到着。

看板で写真撮影だけして、すぐに看板に書かれている「絶景スポット2分」へ向かう。

12月に登ったばかりなので、お昼ご飯休憩の場所は、絶景スポットの方が適していることは勉強済みだ。

今日は天気が良いので、絶景スポット、本当に最高に絶景!

まだ雪が残っている上信越国境の山並みが周りを取り囲んでいる。圧巻の美しさだ。

私たちだけではなく、周りの登山者のみなさんも「おおー」と自然と歓声が口をついてしまう。

至仏山、燧ヶ岳、谷川岳

まわりの皆さんが口々に山の名前を言い、指さしているので、私たちにも、どれがどの山なのかだいたいわかる。

次はあの山に登りたいなー」などと、多分、みんな考えていることは似たようなものだろう。

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絶景。みんな、このために登ってきた!

 12:30 お昼ご飯を食べて、次なる駒ヶ岳に向けて絶景スポットを後にする。

10分位で御黒檜大神の祠に到着。お参りはきちんとさせていただく。

日本には頂上に祠などがない山は無いのではないか。昔の修験者は宗教家であるというよりは登山家だったと言ってもいいんじゃないかなー、と思ったりもする。

かつて、このルートを私はスニーカーで登ったが、昔の日本人は草鞋で登ったのだ。岩にぶつけたら、直で痛かっただろうに、すごいものだなあ。

 

駒ヶ岳へのルートは概ね階段での下りである。ずっとずっと階段…。

途中、息を切らして階段を登っていく登山者の方とすれ違う。階段、辛そう…。

でも、12月に登った時、それほど辛く感じなかったので、実際に登ってみれば、なんてことはないのかもしれない。

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階段は続く

ひたすら階段を下りまくると、大だるみに到着。13:25

ここから、駒ヶ岳に向けての登りが始まる。下ってまた登る…。

また登るなら、下らなくていいじゃん!という気持ちになるが、そういうわけにはいかない。

ばっち来い、駒ヶ岳という気持ちで気合いを入れて、坂を登る。黒檜への登りに比べたらかわいいものだ。

 

13:45 駒ヶ岳、到着。

駒ヶ岳山頂はそれほど広いわけでは無く、たまたま団体の皆さんが先着でいたので、しばし待つ。山は譲り合いだ。

山頂からは見晴らしも良く、小沼がキレイ。黒檜の絶景スポットとは反対側(関東平野)が見渡せるので、ちょうど良い。

このあたりでは、ミツバツツジ(多分)がちらほら咲いていて、ピンクの花が鮮やか。

実はちょっと期待していた、赤城山目物(?)のヤマツツジは全然咲いていなかった。(時期が早かったらしい) 

この日はヘンテコに真夏日で暑いけれど、季節はあくまでツツジも咲いていない春なのだ。体感的に納得しづらいが…。

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駒ヶ岳山頂。ナイスビュー

駒ヶ岳を過ぎれば、後は本当に下るだけ。

時折現れる鉄の階段をカンカンと靴音を鳴らして下界へと下っていく。鉄の手すりを持っていると、「日陰だと冷たくて気持ちいい」ということに、今更ながら気づく。日光ってやっぱりすごい。

途中で、就学前の十数人の子どもたちを引率したグループとすれ違う。子ども会とかかな?

子ども達は元気いっぱいだ。中には走っている子もいる。さすが、体力の塊だ。

「今日は本当に暑いですね」と、挨拶を交わす。

引率の方は、結構辛そうであった…。やはり大人の方が早めにバテる…。

 

このあたりで、暑さと疲労とで、足が自分が思っているよりも上がっていない現象が発生し、時々躓きそうになる。

ずっと下っているせいか、膝もなんとなくガクガク。

所謂、「膝が笑う」という状態だ。下りが続くとやっぱり辛い。

ふいに、そういえば「山笑う」は春の季語らしいけれど、どんな感じなんだろう?という疑問が浮かぶ。

多分、今の、真夏と言っても過言ではない状況の山とは違うだろうな。語感がさわやかだし。

などと、どうでもいいことを考えながら、山道をどんどん下りていくと、車の走る音が大きく聞こえるようになり、あっという間に登山口到着。

 

14:45 本日の行程終了

ほぼ真夏だったので、汗だくだ。

汗でびちょびちょになりながら、コーラをぐいっと飲む。達成感が最高に気持ちいい。

夏の山はこれがイイ。

図らずも夏山の前哨戦のようになってしまったが、夏に向けて、いいスタートを切れた感じだ。

今年もいろんな山に行けるといいなあ。

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春の証(?)山桜でしょうか?まだ咲いてました。

<コースタイム>

9:30駐車場…10:00黒檜登山口…11:40山頂…11:45絶景ポイント(お昼休憩45分)…12:40御黒檜大神…13:25大だるみ…13:45駒ヶ岳…14:45駒ヶ岳登山口

「あした、山へ行こう!」鈴木みき

何事もスタートする時には初期投資が必要だ。

登山を始める時にも、登山道具を揃えるべし、と色々な入門書に書かれている。そして、その道具は登山道具専門店に行って、店員のアドバイスの元、揃えるとよい、と判で押したように、どの本も書いている。

 

登山用の道具はハイスペック。頑丈、防水、軽量など、さすが!の機能性を備えているものが多い。山は危険と隣り合わせの場所なので、性能がよいものが必要なのだ。

しかし、その分お高い。

手元にある入門書に掲載されている、登山の三種の神器の1つであるカッパのお値段は、上下セットでだいたい25,000円から。ファストファッションが定着した現代の日本ではかなり躊躇する値段だ。

靴やザックやその他諸々、山に行くの、初めて〜、という人が、一式揃えようとすると、6桁まではいかないものの、相当な金額になってしまうと思う。

ハードル高すぎ!と思うのは私だけだろうか。

これでは簡単に友人を登山に誘うこともできない。

「山に行こうよ。道具に5万円以上かかるけどね」なんて気軽に言える人がいるだろうか…。

 

そんな時、鈴木みきさんの「あした、山へ行こう!」を読んだ。

サブタイトルに「日帰り 「山女子」のすすめ」と銘打っているとおり、女性向け登山入門のコミックエッセイだ。

入門書なので、当然、登山道具紹介のページもある。他の入門書同様、押さえるべきところを押さえた道具紹介になっているのだが、「私は、まず家にあるものを探してみました」「(日帰り登山なら)山用じゃなくてもいいんじゃないかなー」などの発言が随所にちりばめられており、私は「おお…!!」と大きくうなずいた。

私も最初、家にある適当な道具で山に行っていたのだ。

 

数年前、山登りらしきことを始めたきっかけは、友人キキちゃんの一言だった。

「富士山登ったので、登山道具一式揃えたけど、その後、一回も使ってない

キキちゃんは私とは異なる人種、「形から入る」人だった。しかも、ちゃんと登山用具専門店で「富士山に行くので、必要な道具一式見繕ってください」と言って購入したそうだ。

すごい…。

私は鈴木みきさんと同様、登山用具専門店は「ここは玄人が来る店だぜ」と言われそうな気がして、こわくてなかなか入れなかったタイプだ。(念のために申し添えるが、入ってみたら、全然怖くなかった)

そして、購入後、何度も使うかどうかわからない趣味の道具に高いお金を払いたくない、という初期投資の出来ないドケチ人間だ。

キキちゃんの発言に「一式揃えたのに、使ってないなんて、もったいない!そうだ、一緒に尾瀬に行こう!」とついつい口走ってしまったのだ。(尾瀬は地元なので、すごく前に行ったことがあった)

他人の初期投資にまで、もったいない精神を発揮してしまう私。

だって、具体的な額は聞いていないけど、相当な額だったに違いないよ。それを富士山たった一回しか使わないなんて…。

それにしても、こんな真逆な性格で、私とキキちゃんはよく長年友情を保っていられるものだな。みんな違ってみんないい。(by金子みすず

 

そんな成り行きで、キキちゃんを我がG県にお招きして、尾瀬に行くことになったのだ。

キキちゃんは登山フル装備だが(何しろ富士山用の道具だ)私は山道具率ゼロ。アンバランスな2人組だが、お互いにマイペースなので特に気にしない。

私は尾瀬に行くことになったからと言って、何ひとつ道具を買ったりしなかった。キキちゃんみたいに、その後、一度も使わなかったらもったいないから。←ドケチ。

私の基本装備は、コ●バースのスニーカーコンビニのカッパ(上下一体型)、ユ●クロのザックだ。すべてうちにあった。

服装も、登山始めたての鈴木みきさんと同じく綿のTシャツに、チノパンを合わせて、帽子や靴下はいつも使っているもの。

本当に低装備。山をなめくさった格好である。

でも、基本的に平らな木道をてくてく歩く尾瀬ならば、この装備で十分なはずであった。

雨さえ降らなければ…。

 

何度も書いているが、私とキキちゃんは強力な雨女である

この時の尾瀬も、やはり雨であった…。日程は山小屋泊の1泊2日だったが、両日ともずっと雨…。

 

 雨なので、当然、カッパを装着する。キキちゃんはゴアテックスだが(さすが、山道具専門店で購入しているだけのことはある!)私はコンビニのビニールカッパだ。

 まわりの諸先輩方の視線が痛い。

作中で鈴木みきさんは、軽装登山で、「山をなめてる」という白い目にさらされた、というエピソードを紹介しているが、この時の私ほどでは無かったであろう、きっと。

「あのこ、あんなカッパで…。全然、山のことを知らないな。ダメだねえ…」と、突き刺さるような視線を浴びまくった。コンビニカッパは、諸先輩方の信頼度は限りなくゼロに近かったのであろう。

今ならわかる。すみません、当時、本当に初心者以下だったので。

ちなみに、泊った山小屋の下駄箱で、皆のトレッキングシューズに囲まれて、私のコ●バースは異彩を放っていたことも付け加えておく。

 

それでも、当時のペーペーな私は割と楽しく雨の尾瀬を歩いていた。キキちゃんも「夏が来れば思い出す~♪」とご機嫌に鼻歌を歌っていた。

コンビニカッパでもちゃんと雨を防いでくれるし、コ●バースでも足が痛くて歩けなくなったりしないし、私にはこれで十分だ、と満足してたのだ。

しかし、尾瀬沼湖畔の山小屋でカッパを脱いで、休憩した時である。

私は「いっぱい歩いたから、のど渇いた!炭酸だ、炭酸!」と、いそいそとコーラを買って「くはーっ!染みるぜ!」と飲み干した。

コーラ片手に「ニッコウキスゲキレイだったね」などど、キキちゃんとしばらく話していると、何だか冷える…。寒くなってきた…。

透湿性の無いコンビニビニールカッパで尾瀬を歩き回ったので、カッパの下は汗でびちょびちょ。カッパを脱いで、外気に触れたので、一気に体温を奪われたのだ。気化熱って本当にすごいな、と妙に感心する。

このままでは寒さに負けてしまう、と思いすぐにカッパを再装着。湿ってるけど、暖かい…。

その後、カッパを脱ぐこと無く、登山口に帰着した。

 

山道具率ゼロ装備でも大丈夫ではあったけど、やっぱりコンビニカッパはやめた方がいいかもしれない。

この実感を元に、その後、キキちゃんと屋久島に行った際に、ようやくカッパを買ったのだった。(でも、実はそれは数年後。それまではコンビニカッパを愛用)

ちなみに鈴木みきさんも「まずはカッパを買いましょう」「透湿性のないビニール素材はNG!」と書かれている。…おっしゃる通り。

でも、家にあるものから始めればいいのよね。作中で、お母さんの「メーカー品のレインコート」でも大丈夫、とひっそり書いているし。

 

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当時の写真。ニッコウキスゲの時期でした。


 その後、登山が本当に楽しくなったので、靴を買い、ザックを買い、帽子を買い、靴下は山用のふかふかだし、Tシャツは速乾性のポリ素材になっている。

もはや、諸先輩方に白い目で見られることもない。むしろ、時々、サンダルとかで登山をしている人を見かけると「ひゃー」と見てしまうようになった。さすがの私もサンダルでは登っていなかったぞ。

しかし、実は未だに装備をグレードアップさせていない部分もある。

鈴木みきさんが「肝心要」と言っているベースレイヤーである。

…未だにユ●クロのエ●リズム着ている時がある…。

汗だくになっても、さらっとしてていて、そして、あのお値段。非常にイイと思うのだ。

山用じゃなくても十分だ。

冬山に行くとかであれば、それにふさわしいものにすると思うけれど、今の私にはユ●クロでちょうど良い。

鈴木みきさんの言う「適着適山」の精神で、これからも徐々に登山道具を買い足していくつもりだ。

最初に揃えていないからこそ、徐々に買い足していく楽しみがある。

ちなみに今欲しいものはサングラスだ。近いうちに買っちゃおうかな~♪

 

あした、山へ行こう! 日帰り「山女子」のすすめ

あした、山へ行こう! 日帰り「山女子」のすすめ

 

 

 

矢木沢ダム 恒例の放流祭り2019

5月のゴールデンウイーク明け。今年もあの季節がやってきた。

年に一度の矢木沢ダムの点検放流である。

毎年、人気がウナギ登り。

このSNS時代、良い情報はあっという間に拡散されてしまう。「穴場」「隠れた人気」なんて言葉は、すぐに意味をなさなくなる。

当たり前といえば、当たり前なのだが、いいものは人気が出るのだ。情報化社会の深化はすごい。

先日、私が最高の穴場として大事にしている果物直売農家さんには「商品が無くなっちゃうので、SNSにはあげないでください」と言われたくらいだ。なかなか、この塩梅は難しい。

 

さて、点検放流である。

そもそも、観光目的では全くなく、単なる点検目的の放流だったのだが、すでに、町をあげての祭り、フェスティバルになっている気がする。

かつてのように「今年は貯水量が少ないから、やらない」という選択肢は許されないのではないだろうか。そんなことしたら、町長が水●源機構に「そこをなんとか…!」と直談判しに行きそうだ。

そのくらい、急成長の勢いを感じる。

 

昨年と同じメンバーのジェイ氏とでんさんのダム仲間3人で見物に出掛ける。

今年は前日に奈良俣ダム藤原ダムの放流があり、堤体内見学もあったようで、大変興味を惹かれたが、都合で矢木沢ダムのみの見学。

まあ、来年にとっておいたと思おう。このイベントは私の中で、毎年行くものとして、しっかり心のスケジュール帳に書き留められている。

 

ダムへ向かう道は、昨年はガラガラで不安を覚えたほどだったが、今年はそこそこの交通量があり、「みんな、放流祭りに向かってるに違いない。大丈夫だ」と、強く安心できた。

昨年より早く出発したのに、今年は遠めの駐車場を指定され、見物客の増加を実感する。しかし、主催側(観光協会とかの人?)も手際が良くなっているのか、シャトルバスがどんどんやってきて、すぐにダムに向かって出発できた。満員ぎゅうぎゅう詰めだったが…。普段、電車の通勤ラッシュなど、ほとんど経験しない、田舎者のG県民には辛い。都会のサラリーマンって大変だなぁ。

30分弱でダムに到着。今年も地元企業の出店が大人数の客を迎えている。

バスから吐き出された見物客は、わらわらとダムに向かう。

見物客の顔触れを眺めていると、自分たちも含めて、関係性のよくわからない、いい大人のグループが多く、どことなくマニア臭を感じる。

うむ。放流そのものは子どもも大満足のファミリー向けイベントの内容になりうると思うが、集うのはこのメンツ…。

まだまだ、集客拡大の余白はある。でも、そうすると、私も含めたマニア臭ただようメンバーは隅っこに追いやられてしまうのだろう。

ちょっと寂しいので、もうちょっとだけ、私たちにメインの大通りを歩かせていただきたいものだなぁ…と、感慨に耽る。あと3年はいけるかな。

 

ダム到着時点で、放流開始の10分前くらいになっており、すぐに、吐出口にスタンバイする。

結構余裕がない。来年はもっと早く出ないとダメかもしれない。SNSめ…

放流開始5分前のサイレンが鳴り響き、あたりは緊張感が漲る。

カメラや動画撮影のタブレットを構える人々。

そんな中、ごー、というかすかな唸りとともに、吐出口から水が流れ出る。

おーっという歓声とともに自然と拍手が湧き起こる。

しかし、歓声はすぐに「汚ねー」というつぶやきがあたりを満たす。ざわ…ざわ…。(byカイジ)

1年間、水を流していないので、放水路にたまった土やらなんらやが流されてきて、最初は驚くほど真っ黒な水が流れてくるのだ。すぐに白い水に変わるけど。

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ややキレイになって来た頃。まだ水はちょろちょろだ。

ここから、放流は段階的に量を増やしていき、およそ30分後にマックス水量になる。

今年は余裕をかまして、この30分間に出店ソーンに舞い戻り、ベンチで雪イチゴ(凍らせたイチゴをかき氷状にして練乳をかけたもの。美味)をしゃりしゃりといただいた。

何しろ、私はもう4回目なので、タイムスケジュールは把握済みなのだ。優雅。

 

氷イチゴを食べたしり、新元号の額とダムガード枠で写真を撮ったりして遊んでいると、30分はあっという間。

大迫力のマックス水量に備えて、吐き出し口付近に再び移動する。

すると、妙に人だかりが薄くなっている箇所がある。どうして人が少ないのかな、と思いつつ進むと、その理由はすぐに判明した。

しぶきが凄すぎる!

雨、それも土砂降りクラスにしぶきがふりそそいでいる

私は4回目だが、今年が一番激しかったと思う。

上だけカッパを着ていたが、その日はいていたジーンズはすぐにびしょびしょ。

「この部分はスプラッシュゾーンだ!突破しよう!」というジェイ氏のかけ声の下、吐き出し口のさらに近くに進むと、若干、しぶきは弱まった。

「去年よりも今年は激しいのか!?」「風向きかな?」とびしょびしょのハイテンションで語り合う。なんか、楽しい。

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谷川連峰が背景に。なだれ注意の看板がチャームポイントだ。

轟音と共に吐き出される水に、さらにテンションが上がり、他の見物人の皆さん同様、写真を撮りまくる。

なんだか、立派な撮影機材を構えている方もいたので「今流行の(?)ユーチューバーかなあ」などと思っていたのだが、どうだろう?よくわからないけど、生配信とかしている人もいそうだ。

やっぱり、何度見てもこの放流はすごい迫力。人間の原始的な部分の何かが刺激される気がする。血湧き肉躍る。

 

マックス水量の時間は約10分。

ここが終了すると、すぐに放流は終結に向かう。

水量が減ってきたのを確認すると、我々はすぐに帰路のバス列に並ぶことを選択した。

昨年、放流を最後までしっかり見届けた後で、バス列に並んだところ、えらいこっちゃの大行列で悟りの境地にまで達するほどだったからだ。教訓をいかして、今年は早いうちに切り上げる!

すると、かなり短いバス列に並ぶことが出き、だいたい15分くらいで駐車場に向けて出発。すごい。失敗から学ぶことが出来ている。またぎゅうぎゅうの満員バスだったが…。

 

車に戻り、せっかくなので「ダム界の女王奈良俣ダムへ寄り、ダムカレーを食すことにする。当然、奈良俣なので、ロックフィル式だ。ちなみに、カレー的には、形状から「大盛り」らしい。

売り切れの日が多いのだが、この日はギリギリ滑り込みで食べられた。ラッキー。

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福神漬けで放流を表現。

 奈良俣ダムに寄ったのには、実はもう一つ訳があった。

矢木沢ダムの放流で雪イチゴを食べていた時に、後ろのテントでの聞き捨てならない会話を聞いてしまったのだ。

コンプリートカードはこちらですよ~」

…コンプリートカード…。何それ!?

即座に詳細を確かめにテントに走るジェイ氏。ダムカードに掛ける情熱は私の数倍から数十倍だ。

ジェイ氏の収集してきた情報によると「矢木沢、奈良俣、草木、下久保の4ダムのG県オリジナルカードを集めると、もう一枚のコンプリートカードが貰えるらしい」のだ。

国交省のカードはすでに全部持っているが、それではダメらしい…。G県オリジナルカードをまた集めないと…」と肩を落とすジェイ氏。

G県、流行に乗って、そんなことを始めたのか…。そつが無いな!

何か、踊らされている感があるが、仕方が無い。挑戦されれば受けて立つ。

率先して踊らせていただこうではないか。

とりあえず、手近なところを押さえておこう、ということで奈良俣に寄ったのだ。

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G県オリジナルカード。写真、多分ドローンで撮ってる。

ついでに、この時期は天皇在位30周年記念ダムカードも配布していた。(5月いっぱい)

通常のダムカードの枠が、特別仕様の色味になっているのだ。

こちらも欲しくて、ついでに藤原ダムにも寄った。

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枠が特別仕様。

枠は4種類あって、矢木沢が「お召し列車」、奈良俣が「宝物」、藤原が「帛」。

もう一つの「黄櫨染」が入手できていないのだ…。個人的には、一番、この黄櫨染が欲しかったのだが、寄ったダムのデザインには無かったのだ。悔しい。

G県オリジナルカードのある草木ダムがこのデザインらしいので、どうにかして5月中に入手したい…。無理かな…。

「せっかくだから集めたい」という気持ちはどうにも抑えがたい。身のうちに、コレクター魂を持っていると、いろいろ苦労する…。

ダムカードはゆるーく集めているだけだったのに…。

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奈良俣ダム湖の景色。右の山は至仏山らしい。

 

尾瀬ヶ原~雪中行進~

大型連休。私はついにあこがれの地に行ってきた。

尾瀬

夏や秋には何度も行っているが、5月頭のこの時期は行ったことがなかった。

なぜならば、この時期の尾瀬はまだまだ深い雪に覆われているから。尾瀬の代名詞であるミズバショウすらまだ咲いていない。

私は6月くらいまでは尾瀬に入っちゃいけない時期なのかな、とすら思っていた。

しかし、何かの本で「GWの尾瀬は一面雪で、この時期だけはどこを歩いてもいいのです」ということを読み、「行きたい!」と気持ちが一気に加速したのだ。

尾瀬でどこを歩いてもいい!なんて魅力的!

通常の尾瀬はとにかく行儀正しくしなければならない。

木道を一列に右側通行で歩き、決して湿原に足を踏み入れてはならない。かつて、ハイカーが踏み荒らしたせいで湿原が失われてしまった悲しい過去があるので、そこは徹底している。

もちろん私も尾瀬に行くときは、当然のこととして、木道をお行儀良く歩いて楽しんでいるのだが、羽目を外せるチャンスがあるのなら、その誘惑に乗ってみたい気持ちもあるのだ。

ちょい悪」ってこういうことを言うのだろうか。吉永小百合演じるお嬢様が浜田光夫演じる不良に恋してしまう、あの感じ。(古すぎたか…)

 

 この時期の尾瀬はまだ交通規制前である。自家用車で鳩待峠まで乗り入れることができる。

今回、同行の父は「鳩待峠まで行ければ楽だな。だけど、道が凍結していたら危険だから、きちんと調べて行った方がいい」と、事前に尾瀬保護財団(?)に電話して確認したらしい。父は石橋をたたいて渡るタイプ。行き当たりばったりの私とはまったく血のつながりを感じない…。

そんな父をあざ笑うがごとく、当日、車を走らせる私の前に(運転は私だ)「鳩待峠満車」の表示が現れる。鳩待峠まで車で行けなかった…。

やっぱりね。GWだから、相当早く行かないと鳩待の駐車場は埋まっちゃうだろうな、と思っていたけれど、予想通りだ。

ちなみに戸倉付近では雪は無く、ちょうど桜が満開。凍結の心配はなく、ノーマルタイヤの私でもまったく心配なしだ。(鳩待までの道も除雪されているので、ノーマルでも多分大丈夫)

それにしても、ニュースでは北海道で桜が満開と言っていたようだが、このあたりは北海道と同時期なのか。さすが、雪まだ深いという尾瀬のお膝元だ。

 

8:00。戸倉の第一駐車場に車を停めて、乗り合いタクシーで鳩待峠をめざす。

台数はハイシーズン並に出ていたので、すぐに乗車できた。値段も同じ。

他の皆さんはスキーやスノーボードを持った方が多く、どうやら至仏山に登って、山スキーを楽しむらしい。至仏山はこの後、入山が規制されるので(確か6月いっぱい)、今のうちにいく、という人が多いようだ。

スキー板やボードを担いで雪山を登り、スキー場でも無い斜面を下るなんて、かなり多方面の能力が必要な気がする。猛者だな…。

 

8:30 鳩待峠着。

小屋の周りは除雪されているが、よけた雪が積み上げられて、雪の壁になっている。

荒ぶる気持ちを抑えきれずに、その雪壁によじ登り、天辺に仁王立ちしてみる。

あたりは一面の雪景色!

そこは完全に冬だ。

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一面の雪!至仏山に向かう人が多かった。

本当に雪が全然溶けていない。

実は、本では「一面の雪」と書かれていたけれど、最近、雪少ない年が多いし、まあまあ溶けていて、残雪ありくらいの状態なのかな、と半信半疑だった。木道も顔を出している部分も多いのだろうと、高をくくっていた。

すみませんでした!

木道は影も形もない。雪の遙か下だ。

尾瀬ヶ原に至る道のゲート(確か、杭みたいなものがあったはず)がどこだったのかもわからない。

「道がわからない…。まあ、どこ歩いてもいいようなもんだけど」と父もこの真っ白の景色に圧倒されている。

とりあえず、アイゼンをつけて前の人たちのトレースをたどって山ノ鼻を目指す。

夏とはまったく異なる景色に若干不安を覚えるが、トレースがあるから大丈夫だ、と自分に言いきかせる。ああ、やはり先達はあらまほしきものなり

途中まで、おそらく「ミズバショウ咲いてるんじゃない?」という軽い気持ちでやってきたと思われる家族連れ(スニーカーで平服)もいたが「もう帰れなくなる…」とファミリーの父が引き返す決断を下していた。正しい判断だと思うよ、お父さん。

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先達のトレースが心のよりどころ。

 

10:00、山ノ鼻着。ビジターセンターは雪に埋もれていた。しかし、何軒か開いている山小屋もあり、テントも結構張られている。

ここに泊って至仏山登山もいいなあ。でも、まずは7月以降の夏山でトライしたいところ。

 

山ノ鼻を抜けると、ついに尾瀬ヶ原だ。

大雪原。

真っ白な雪原が四方に広がり、その東西には至仏山と燧ヶ岳がすっくとそびえ立っている。遮るものはない。

そのまっただ中に私が立っている。

人影は少なく、この景色を一人占めしているような気持ちになる。最高だ。

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至仏山どーん!

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逆さ燧。キレイ。

確かに、どこを歩いても問題なし。だって、湿原は雪の下だから。木道もどこにあるのかまったくわからない。

嬉しくなって雪原をうろうろする。走っても大丈夫だ。

ふと「犬はよろこび 庭駆け回り」という雪やこんこのフレーズが私の頭をよぎるが、それを強引に横にどかし、駆け回りを続行する。別にかまわない、わんこでも。

 

誰も足跡をつけていない場所に自分の足跡をつけるのって、どきどきして楽しい。

学生の頃、雪が降った後、人が全然いない植物園に行って、積もった雪にさくさく足跡をつけて回ったことがあったな…。ついでに雪の妖精(雪にダイブし、手足を大きく動かしてつくる跡。「ここはグリーンウッド」に書いてあったので、あこがれていた)も作成した。

変なことに労力を費やす性格は、昔からまったく変わっていない。

 

 しばらく雪原をうろうろして気持ちを落ち着けた後、先達のトレースをたどるルートに戻る。そのまま、好きなように歩いて前に進んでもいいのだが、やはり安心の道に戻りたくなってしまったのだ。

というのも、尾瀬には池塘がたくさんあり、その部分はさすがに雪も氷も薄くなっている。うっかり踏み込むと水に落ちてしまいそうで怖いのだ。

現に川を渡る部分の雪が薄くなっていて、私も父も片足水に落ちた…。(先達のトレースをたどっていたのだが…)

一瞬「タイタニック」のレオ様が氷の海に沈んでいくシーンが脳裏をよぎった。大丈夫だ、尾瀬池塘は多分海より浅いぞ、私!でも、かなり怖かった…。

ちなみに、この日は何故か上下とも裏起毛素材の服を着ていたので、一回水に落ちたくらいでは染みこんで来なかった。すごいぞ、モ●ベル!

 

牛首 10:50 竜宮 11:30

標識が雪に埋もれているので、ポイントがよくわからない。夏の尾瀬なら、休憩のためのベンチがあちこちにあるのだが、雪に埋もれているので、これまたよくわからない。

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多分、牛首の標識

とにかく黙々と先達のトレースをたどって、雪原を歩く。

牛首から先はほぼ無人で、雪原独り占めという気持ちから、雪原ひとりぼっち(父もいるのだが…)という気持ちにだんだん変わってくる。

雪道歩きの疲れも蓄積してきて「八甲田山の行軍、本当に辛かっただろうなあ…。(高倉)健さんは地元の人に案内を頼んだで生き延びた。やはり、先達は大切だよなあ」と、不穏な事をずっと考えていた。 

 

竜宮小屋手前、そんなやさぐれてきていた私の気持ちを一気に上昇させるものを発見する。

ミズバショウ、咲いてる!

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ミズバショウ ひょっこりはん

すこしだけ顔を出していた木道の影に、咲いているミズバショウを発見したのだ。

「咲いてるじゃないか~!」と一気にテンションが上がる私と父。

しかし、父は水に片足落ちた際に、カメラも水につけてしまい、写真撮影不可になっていたため「なんでこんな大事な時に、カメラが…!!」と悔しそう。

仕方が無く、スマホのカメラで写真を撮っていた。まあ、いいじゃない、私もスマホのカメラだし。

この周辺は雪解けが早いらしく、あちこちでミズバショウのつぼみ(?)が顔を出していた。もうすこしで、ミズバショウだらけの尾瀬の季節だ。

 

雪道をどんどん、どんどん進むと竜宮小屋がすこしづつ大きく見えてくる。なんだか、ほっとする。山小屋って暖かくてありがたい存在だ。

竜宮小屋はすでに開いていて、ベンチも掘り出してあったので、ここでお昼ご飯を食べて折り返し。

夏の尾瀬なら少し物足りないくらいのコースだが、慣れない雪道歩きだと思えば、少し頑張りすぎたくらいだったかもしれない。

 

12:00 竜宮小屋発

また先達のトレースをたどって帰路につく。人が全然いないので、父と雪道を行進する感じ。

広いな。大きな尾瀬にすっぽり包まれている感じがする。

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竜宮小屋

13:40 山ノ鼻 15:10 鳩待峠

夏の尾瀬だとラストの地獄の階段に苦しめられるのだが、雪に埋もれているので、割と楽に登れた。父も「思ったより早く着いたな~」と言っていた。

 

真っ白大地の尾瀬、とてもキレイだった。そして、大きかった。

夏の花咲く尾瀬、秋の紅葉する尾瀬に加えて、雪景色の尾瀬も堪能できて満足だ。

いつ行っても様々な姿を楽しめる尾瀬

今年は何回行けるかな。

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景鶴山。竜宮小屋に泊っていた方が、翌日登ると言っていた。

<コースタイム>

8:00戸倉(駐車場)…8:30鳩待峠…10:00山ノ鼻…10:50牛首…11:30竜宮(昼食30分)…13:40山ノ鼻…15:10鳩待峠…15:45戸倉(駐車場)

「パンツの面目 ふんどしの沽券」米原万里

最近、たまに耳にするが、公共施設のトイレットペーパーを勝手に持って帰ってしまう人がいるらしい。

もしかしたら、家計がものすごく苦しいご家庭なのかもしれないが、なんともセコい話である。トイレットペーパーが無いなら、古新聞でも使えばいいのだ。(おしりが黒くなるらしいが)

 

先日、友人のシロさんと話をしていたら「うちの会社のトイレットペーパー、ものすごく無くなるのよ…。疑っちゃ悪いけど、工場で働いている外国人があやしいような気がする」との発言が飛び出した。

いや、シロさん、ちょっと待て!

「西洋人というかロシア人は、おしりを拭かないらしいよ!だから、トイレットペーパーを盗む必要がないはずだよ!」

と力強く反論してしまった。

…おしりを拭かない!?

とショックで呆然とするシロさん。

そうなのだ。私もその事実を知ったときには激しい衝撃を受けた。

しかし米原万里さんのエッセイ集である「パンツの面目 ふんどしの沽券」にはっきりとその事実が書かれているのだ。

 

ワイシャツの形が必要以上に(膝に届くほどに)長くて側面にスリットが入っているのはなぜだか知っているだろうか?

それは、かつてヨーロッパの男性は、パンツなどをはかず、ワイシャツの前身頃の下端と後ろ身頃の下端で股を覆っていたからだ。

その当時の名残が、現在のワイシャツ形に名残として残っているそうだ。

 

終戦直後、日本人が残る北方4島や満州ソビエト兵がやってきた。その際の日本人の目撃端として「ソビエト兵の着ているルパシカ(上着)の下端がひどく黄ばんでいた」という証言がいくつもある。

一体どうして、そんな場所が黄ばむのか。

米原万里さんはもっともな疑問を抱く。

 

シベリアに抑留された日本人の証言にその解答はあった。

シベリアの収容所では、トイレに一切紙が無く、日本人は困りはてたらしい。

どうにかして、自らのおしりを何かでぬぐいたい日本人。

ぼろ布を小さくちぎってみたり、褌の端をちぎってみたり、防寒着である綿入れから少しずつ綿を取り出してみたり、草や藁を使ってみたりと、涙ぐましい努力をする。

日本人の捕虜なんかにはおしりを拭く必要などないと考えているのか、と憤る日本人もいたようだが、事実はどうやらそうではないようだ。

 

トイレで一緒に用を足すロシア人を見て、日本人はその理由を理解する。

ソ連人はまったく紙を使わなかった。彼らの間に需要がないのに、どうして、捕虜の需要に応える必要があるだろうか」

彼らは紙を使わない、終わればズボンを上げてそのまま出て行ってしまう。もちろん手なども洗わない」(捕虜の方の証言 作中より引用)

どうやら、食生活の違いのせいなのか、彼らは鹿とかウサギみたいにころっとしたものを排泄するらしいので(日本人比による)拭かなくても大丈夫らしいのだ。

しかし、いかにロシア人といえど、時にはお腹がピーになってしまう日もある。そのため、ルパシカの下端は黄ばんでしまうというわけだ。

ちなみに、米原万里さんのさらなる調査によると、拭かない文化は男性だけにとどまらず、女性も同様であるらしい。

 

そういえば、マリーアントワネットの時代とかの舞踏会では、部屋の隅っこでそのまま用を足したと聞いたことがある。

あの大きく広がったフープドレスはそれを上手に隠してくれるらしい。もちろん、その当時はパンツをはく習慣もなかったと思われる。

そして、ハイヒールは元々、床に落ちている排泄物を踏まないために考案されたものだとか…。

 

きったねー、ヨーロッパ人(ロシア人)!

どうしても、日本人の習慣になじんだ私は叫んでしまう。

シベリアに抑留された日本人の皆さんの境遇については、もらい泣きしてしまいそうだ。

昔、上海に旅行した時に、1元払ってちっちぇー紙を渡されて用を足したことがあったが、紙くれるだけ、ありがたい国だったのね。アジア民族に同胞意識をいだく。

 

トレイに紙がないと絶望的な気持ちになる。シベリアではそれが、一回だけじゃなくてずっと、ずっと続くのだ。もう、泣くしかない。

現代の日本なんて、公共施設のトイレにもウオシュレットがかなり設置されている。ウオシュレット付きだからといって、紙がないことなんてない。ちゃんとやわらかくおしりにフィットする紙も備え付けられている。洗った後、さらに拭く!

さらに、先日、私が行った居酒屋さんのトイレでは、扉をあけた瞬間に、ふたがぱかーんと開いてお出迎えしてくれた。

日本人のトイレにかける気合いは、ちょっとやりすぎかもしれん。他国では理解されないレベルのような気もする。でも、さらに快適さを追求してしまうぞ。

だって、トイレで用を足した後に拭かないなんて、考えられない!

トイレこそ清潔で快適な空間であって欲しい!

 

しかし、米原万里さんは違う。さすが、プラハソビエト学校で少女時代を過ごした人物だ。

「抑留者たちが、異文化に接しながらも、「用を足した後は紙で拭き、手を洗う」という自分たちの日本の風習は至極当たり前の常識として疑問にも思ってもいない(中略)そうしないことには、人間以下、犬猫同然と何人かの元抑留者が断じている」ことが気になって仕方が無くなったそうだ。

21世紀初頭においても、紙でおしりを拭くことを当然の文化としている人は、先進国を中心とした1/3ほどであり、それ以外の人々は、砂やぼろきれや草やロープなんかを使用している国が多いらしい。

さらに、ほ乳類の中でおしりを拭くのは人間だけだ、とも米原さんは言う。

 

…お言葉を返すようだが、紙で拭かなくても、布きれやら何やらでやっぱり拭いているじゃないか、と私は言いたい。

拭かない習慣の方が少数だよ、多分!

別に、それが悪い習慣だから変えた方がいい、などと押しつける気持ちは無いが、私はこれからも日本の拭く習慣をもって生活して行きたい。(多分ないけど)ロシアで暮らすことになったとしても。

 だって、気持ちがどうしても追いつかないから。

 

さて、拭かない習慣の国はロシアだけなのか、それともヨーロッパ全体なのか。そして、現在ではさすがに拭く習慣が浸透したのか。

とても気になるが、トイレというあまり人には話さない事情だけにそのあたりのことはよくわからない。

間違いなく、パンツをはく習慣は定着しているだろう。

米原さんの少女時代にもパンツは店頭にあったようなので、もう、黄ばんだルパシカはない、と思われる。

拭く方はどうだろう…?こういう習慣はそんなに簡単には変わらないような気がする。

 

最初の話題に戻るが、友人シロさんの会社で働く人々はロシア人ではないそうだ。

じゃあ、おしり拭いている人々かもしれないので、トイレットペーパーをくすねた犯人の可能性はある。

いやたとえロシア人であったとしても、日本で生活するうちに「おしりを拭く日本の習慣、気持ちいいじゃん。ハラショー」と思い、自らの習慣を変えたのかもしれない。

いや、日本人がシベリアでも習慣を決して曲げなかったように、ロシア人もきっと曲げないだろう。

文化の違いというのは、根深く、そして面白いものだ。

 

パンツの面目ふんどしの沽券 (ちくま文庫)

パンツの面目ふんどしの沽券 (ちくま文庫)

 

 

 以前、こんなものも書きました。上海でのトイレ事件。


suishian.hatenadiary.jp

 

桜咲く

春が来た。

桜が咲くと、春が来た、と急にそわそわしてしまう。早く、花見に行かないと桜が散ってしまう。何が何でも、咲き誇る桜を見なければならない。だって、今年の桜は今年だけだから。

しず心なく 花の散るらん とうたった紀友則の気持ちがよくわかる。

もうちょっとだけ、待っていて欲しい。そんなに散り急がないで。

 

という私の気持ちが通じたのか、今年は開花してから寒い日が続き、満開まで少し足踏み。週末のぽかぽか陽気で満開になるという、最高の状況。

ありがとうございます。天気の神様。気象神社にお参りした御利益かしら?

 

今年もいそいそと花見に出かけた。

桜の下で飲むビールはサイコー!

4月は花見で酒が飲めるぞ 酒が飲める飲めるぞ 酒が飲めるぞ(by 日本全国酒飲み音頭)

本当はノンアルビールを飲んで、崎陽軒のシュウマイをつつく、という、ピクニック花見だった。絵に描いたような酒盛りしたいな。

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満開の桜の花の下

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さくら さくら さくら

さらに 今年は妙な焦燥感が強く、夜桜も見物に出かけた。

宴会で賑わう人たちや、夜桜見物でそぞろ歩く人々で、かなりの人出だった。日本人はどうしても、桜が咲くと浮かれて出かけてしまうものなのだろう。もう、しょうがない。

私もスマホ片手に桜並木をぶらぶら歩く。

ぼんぼりの明かりを頼りに写真を撮っていると、突然、あたりは真っ暗に。

「わあ、停電!?」「ここだけ暗くなったぞ。屋台は明かりがついているのに」と周りの見物客の皆さんと、少しざわついたが、原因は時計をみてすぐに判明。

どうやら、9時半を過ぎると、何の予告もなく照明が落とされるらしい。

割と早い!

うう…もうちょっとぶらぶらしたかった…。

未練がましく、暗闇の中でフラッシュをたいて写真を撮ってみたりするが、桜が幽霊の様に映り込む不気味な写真になってしまい、即座に削除する。ちょっと怖い!

ここは、いさぎよく諦めよう…。

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夜空に映える

ついでに、春の花と言えば菜の花。

鮮やかな黄色が目にまぶしく突き刺さって、春の到来を教えてくれる。

なんとなく、こちらは庶民的で身近な暖かさを感じるのは私だけだろうか。桜が華族のお嬢様なら、菜の花は平民の女学生って感じ。

 

車を走らせていたら、土手が黄色に染まっている光景を目にして、たまらず車を脇に駐めて写真を撮ってしまった。

多分、車で通りがかった方には「なにやってんだろう、あいつ…」と不審に思われたに違いない。怪しい行動。

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黄色の洪水。うっすら見える山は赤城山

 

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菜の花と桜のコラボレーション

他にも春を告げる花は次々と咲いている。

気温も高くなり、ぽかぽか陽気で朝、起きるのが辛い。(朝起きられないのは春だけでは無いが)

山もおぼろに霞んでいる。

春になった。

春になって、暖かくなれば、また高い山にも行けるシーズンがやってくる。

今年、行きたい山のピックアップを始めよう。

やっぱり、春はうきうきする季節なのだ。わーい。

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神社には桜が似合う

 

気象神社で晴れ祈願

登山に行く日は晴れていて欲しい。

京都の大文字山に登った際の実感である。

雨登山もまた別の楽しみがあるとは思う。現に超絶雨女キキちゃんと、お互いを雨女とののしりつつ、楽しい登山ができた。下山後の湯豆腐、最高だったし。

でもやっぱり、晴れがいい。頂上で汗をぬぐいながら、真っ青な空にくっきり映える周囲の山を見渡して、「ヤッホー」と叫びたい。

「なんも見えねえ(北●康介風に)」などど、白いガスを見渡して言いたくないのだ。

 

天気ばかりは人の力ではどうすることもできない。できることといえば、神頼みしかない。

私は最終手段として、登山前日に何度かてるてる坊主をぶら下げた。遠足前日の小学生の行動より良い手段がまったく浮かばないのだ。他に何か良い方法があれば教えて欲しい。

「あきらめる」とか「別の日にする」が大人の答えのような気もする…。

 

しかし、私は諦めない。いや、諦められない。

神様へ晴れをお願いするために、ついに日本でただ1つ、という気象神社に行ってきた。

なんでも、気象神社旧陸軍気象部の構内に造営されたもので、戦後、高円寺氷川神社に移設されたそうだ。神社としては非常に新しい神社だが、日本唯一の天気の神様だという。

日本はずっとお米を作って暮らしてきたので、天気のお祈りといえば「雨乞い」

空梅雨は米の不作に直結するし、水が無いと生きていけないので、馬を生け贄にして捧げたり(発掘すると、畦から馬の歯が見つかることがあるそうです)、火を焚きあげて上昇気流を作るとともに祈りを捧げたりと、雨への祈りの手法は様々に工夫されてきた。全国各地に水の神である竜神を祀った神社もたくさんある。

岡野玲子陰陽師」には、安倍晴明が雨乞いのため旅をする話があったり、最近読んだ本では榎田ユウリ「宮廷神官物語」でも主人公の一人、鶏冠が雨呼びの儀を強要されていたりする。(もっとも、宮廷神官者物語は朝鮮風の国が舞台だが)

 

なかなか晴れを祈願する方の神社は見当たらないのだ。長雨は稲に病害虫が発生する恐れもあるはずだけど…。そこは意外と暢気なのか、日本人。

椎名誠「雨がやんだら」は雨がずっとずっと降り続く不気味な話だったが、別に晴祈願はしていなかったはずだ。

そんな中で見つけた、日本唯一だという「気象神社」。

行かねばならぬ。そして、私とキキちゃんの晴れ登山への切実な希望をお伝えしてこなくてはならなぬ。

 

 

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気象神社の社殿。こぢんまり

真剣に真心を込めてお祈りする。心なしか、柏手を打つ音も大きい。

私の本気度を神様にお伝えするため、お賽銭も100円玉を投入した。大奮発だ。

お賽銭の相場については人それぞれだと思うけど、私にとっては「心意気を見せる額」なのだ。100円は。

お天気の神様、ワタクシ、はるばるG県から、やって参りました。

住所氏名も心の中でお伝えし、晴れの山に登りたい旨をお願いする。よろしくお願いいたします。

神様におしりを向けたら失礼にあたるらしいので、そろりそろりと後ずさりして社殿を離れ、参拝完了。

よし。しっかり参拝できた。

 

由緒の書かれた看板を眺めたり、絵馬を覗いたりする。

絵馬は「あーしたてんきになーれ」と下駄を飛ばして翌日の天気を占う日本伝統の風習(?)から、下駄の形をしている。かわいい。

勝手に見て回るのはあまり良くないんだろうけど「寒暖差が大きくなって スープがたくさん売れますように」との願いが書かれた絵馬を発見し、思わず「ううむ」とうなってしまった。

天気は様々な業界に影響を及ぼすものだなあ。冷夏だと農作物はもちろん、ビール業界やらアイス業界やらが大冷えになるらしいし。

でも、天候は人間にはどうしようもないので、神様にお願いするしかないのだ。

自然崇拝って原始的で当然な気持ちだと実感する。だって、努力すればどうにかなるものじゃないもの。

 

さて、参拝をすませた後は、社務所へ向かい、今回のお目当てでもある「晴守」を授けていただく。

さらに念を入れ、「てるてる守り」も頂戴する。こっちはスーパー雨女キキちゃんに渡すつもりだ。二人で持っていれば、きっとお天気の神様も味方してくれるはず。頼むで!

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相乗効果を希望します

ついでに御朱印もいただく。

7~8名並んでいたのだが、神社の人のよると「今日は空いていてラッキーですよ」とのことだった。通常の土日だと1時間とか待つこともあるとか。うへぇ。

なんでも、こちらの御朱印毎月変わる手彫りの木版で、また一部、天気に応じて押してくれるハンコが違うらしい。ちなみにすべてハンコで、神社名もハンコ。墨で書いてくれるわけでは無い。

最近、神社は御朱印に工夫を凝らしているところが大変多い。期間限定とか。

何か踊らされているような気もするが、私の中のコレクター魂は「通うしかないやろー」と叫んでいる。毎月は無理だけど、雨の日御朱印とか欲しい。

でも実を言うと、私はお寺の御朱印の方が好きだ。特に大日如来御朱印をいただけると心がときめく。密かに大日如来だけで染めた御朱印が欲しいと思っている。道は険しいけど…。

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左上のハンコが天気に応じて変わるそうです

さて、この「晴守」をザックに装着して、宝登山に登ってみた。

晴れた!

御利益あらたかなり!

これできっと大丈夫だ。多分。

今年の夏あたりに、またキキちゃんと山に行くと思うが、この晴守とてるてる守りで、快晴と最高の景色にヤッホーと叫んでみせようではないか。

そして、気象神社にお礼参りに行って、御朱印をいただきたい。できれば、雨のハンコが欲しいので、雨の日に!

…なんて欲深いのかしら、私は…。

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ザックにつけてみた

一緒につけているのは、上賀茂神社の「雷除御守」。神様が喧嘩しないか、ちょっと心配…。

 

ちなみに気象神社の場所は、高円寺駅のすぐそばにあります。