「OZ」樹なつみ
吾輩は新車である。名前は「貞吉」という。
と、いきなり漱石になってみた。
車を買ってしまったのだ
買ったと言っても、もう半年くらい経ってしまったので、あまり新車じゃないかもしれないけれど、気持ちとしてはまだまだ新車だ。ピカピカ。
そもそも、半年前、ちょっとした衝突事故を起こしてしまい、泣く泣く車を買い直したのだ。ああ、ムーヴくん(前の車)、気に入っていたのに……。でも、もう9万5千乗っていたから、いいきっかけになったといえば、なったのだが。
いきなりの大きな出費で、金庫は空っぽ状態。幕末の江戸幕府の金庫みたいだ。小栗上野介はいずこ……。
まあ、そんなこんなで、新車がやってきた。
嬉しくて、いろいろな友達を乗せたのだが、ある友人が突然言った。
「ねーせっかくだから、車に名前つけなよ」
さらに、「貞吉なんてどう?」と友人の提案。
「貞吉……!」 たまたまその日は舞台を見に行っており、そこの劇団の役者さんに「亮吉」という名前の人がいた。で、友人はその名前を「貞吉」だと勘違いして、こんな提案をしてきたわけなのだ。ちなみに、私は別に「亮吉」くんのファンではない。←ここ、重要なので、忘れないでね。
その日から私の車の名前は貞吉になった。
良い名前だ!ありがとう!やっぱり、日本の車は日本名。
ついでに名字はスズキだな。(スズキ車なので)
「鈴木貞吉」
……まずい、なんか、寿命間近な感じかも……。いや、そんなことはない!これでも若者の名前だと、強引に自分に言い聞かせる。
……でも、名字はとりあえず、無しにしておくか……。
(全国の「鈴木貞吉」さん。すみません)
気を取り直して、貞吉のキャラは「どうだ?オレの背中に乗って走るのは?風を感じろよな!おい!車の運転中にケータイなんていじるなよ!お天道様に顔向けできねえぜ!」といった、下町風のちょっと兄貴っぽい感じだと思う。
文末にはエクスクラメンションマーク!(「!」)貞吉、ワイルドで格好いいな~。
私は女の子なので(といいにくい年齢だけど)やっぱり相棒は男名前がいいわよね。
なんか、「貞吉」運転得意そうだから、私のアシストをしてくれそうで、やっぱり良い名前だ~。
ちなみに、もし、男の人が乗るなら、やっぱり車には女性名つけるんだろうな~。
たとえば、マツダのロードスター(赤)に「アンジェラ」とかね。かーっ!そんな車には絶対に乗りたくないな。
……と考えていたところで、思い出してしまった。
樹なつみの名作「OZ」の中で、主人公ムトーの育て親(武藤老人)は、オンボロトラックに「ジェシー」という名前を付けていたのだ!
うーん、「ジェシー」なら、庶民っぽい響きだから、まあ、許せるか!?老人と孫娘って感じだろうか?
これが「ジェニー」だったら、ちょっと嫌だったかも。←ニュアンスで感じ取って下さい。
などと、書いてしまったが、私はこのエピソードが大好きなのだ。
武藤老人は「ジェシー」を大変大事にしていたので、壊れて動けなくなってしまったときに、「よくやった」と泣き「ジェシーは生きとった。わしがやさしくしてやりゃ こいつもこたえてくれた 魂をもたないものなど 生きていないものなどこの大地の上にいない」とムトーに語る。
これが、感情を持つロボット(サイバノイド)は本当にただの機械なのか?というムトーの疑問であり、この話の核心へとつながっていくのだ。
いい話だ!
日本は古来から、すべてのものに、魂があると考えてきた。言葉にすら「言霊」が宿ると考えてきたのだ。
だから、木にも水にもカマドにもトイレにだって神様が居るとされてきた。(=自然崇拝 アニミズム)
すべてのものに、すべからく「魂」があるという考え方、私は好きだな~。
人間だけが特別な存在である、というおごった考え方の間逆を行く考え方だと思う。
なので、当然、私の貞吉も、やさしくしてやればこたえてくれるのだ。
……でも、最近、ちょっと汚れが……。
雨が降ると、貞吉、紺色だから、汚れが目立つんだよね……。
毎回、洗うのも面倒で、ちょっと放っておいちゃったかな……。
ごめんよ!貞吉!
私がやさしくしなけりゃ、貞吉もこたえてくれないよね!
心を入れ替えるよ!
……でも、洗車はもう一回雨が降ってからで良いかな……。
蛇足ですが、「亮吉」くんの所属する某劇団(男性しかいません)は、この「OZ」を舞台化しています。
原作者(樹なつみ)も感動するくらい、良い舞台になっていますので、興味のある方は是非、ごらん下さい。
DVD出てます。(でも、生で見た方がいいです。最初はショックが大きいので)